作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)

股関節脱臼骨折後遺症

【交通事故】股関節脱臼骨折の5つの後遺症|股関節が動かなくなる?痛みが残る?

股関節脱臼骨折の後遺症って?
この記事のポイント
  • 股関節脱臼骨折は24時間以内の整復がカギ
  • 股関節脱臼の後遺障害には股関節の機能障害、人工骨頭の挿入、痛みやしびれなどがある
  • 股関節の機能障害は、関節の可動域によって慰謝料額が決まる

自動車を運転していたら後ろから追突されて、その衝撃でダッシュボードに膝を打ち付けてしまった…。
膝の打撲だけならよいのですが、その拍子に大腿骨が押し出されて股関節脱臼に至ることがあります。
さらに脱臼の瞬間、もともと収まっていた部分の骨盤を骨折してしまうことも少なくありません。
そのような場合、どのような後遺症が残ることがあるのでしょうか。
交通事故に精通した弁護士がお答えします。

  • 股関節脱臼骨折に手術は必要?
  • 股関節脱臼骨折の後遺症って?
  • 後遺症が残ると、慰謝料が増えるって本当?


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交通事故の股関節脱臼骨折はどのようなもの?

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股関節脱臼骨折は、骨盤にはまりこんでいる大腿骨が外れてしまい(脱臼)、衝撃で骨折を伴う場合に起こります。
交通事故においては、ダッシュボードに膝を打ち付けてしまった時によく起こるので「ダッシュボード・インジュリー(dashboard injury)」とも呼ばれています。

股関節脱臼骨折の症状

股関節脱臼骨折による症状には、以下のようなものがあります。

  • 脱臼部位の痛み、腫れ
  • 上記の痛みにより、足を動かすことが出来ない
  • (大腿骨が後ろに押し出されている場合)足が内側に異常に曲がる状態になる、太腿部分が短くなる
  • 足首などの痛み、しびれ

股関節脱臼骨折の治療&手術

通常、股関節脱臼骨折しているかどうかはレントゲンにより明らかになります。

治療は骨の壊死を防ぐため脱臼後24時間以内に、可能であればできるだけ早く骨をもとの位置に戻す必要があります。

通常は手術はせず、直接牽引することなどで骨を戻すことができます。ただし

  • 開放骨折を伴っている場合
  • 臼蓋(骨盤で大腿骨が収まっている部分)の骨折の程度が重い場合

などは、後から骨を接合する手術を行うこともあります。

股関節脱臼骨折のリハビリ

通常、下肢の骨折などは、歩かずに安静にしていることが求められます。
ですがそれにより、筋力低下や関節の拘縮などを招いてしまいます。その状態から回復するため、リハビリを行っていくことが多いようです。
一般的な流れとしては、股関節に力を入れたり股関節を伸ばす筋肉訓練、歩行訓練や階段の昇降訓練などを順に行っていきます。

股関節脱臼骨折の後遺症5種類

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後遺障害とは、治療を行ってもこれ以上よくならない状態(症状固定)でも、残ってしまう症状のことを指します。
股関節脱臼骨折により残存する後遺障害には、以下のようなものがあります。

  • 股関節がうまく動かなくなる
  • 股関節に人工骨頭・人工関節を置換、挿入する
  • 骨盤が変形する
  • 足の片方が短くなる
  • 痛み・しびれが残る

交通事故の後遺障害は、その部位と程度によって14段階に分け、後遺障害等級〇級と呼びます。
それぞれの症状が後遺障害等級何級に該当するかは、それぞれのページで解説します。

後遺障害を申請して等級に認定されると、通常の治療費や慰謝料に追加して損害賠償金が支払われます。
申請の方法などについては、以下のページを参照してください。

【注意】症状固定の時期

なお、注意点として症状固定の時期を遅らせすぎないことがあげられます。

症状固定のタイミング
症状固定

十分な治療を行ってもこれ以上はよくならないという状態

後遺障害は、症状固定時に残存する症状により判断されます。
そのため症状固定の時期が遅くなりすぎると、後遺障害等級が低くなり、受け取れる慰謝料が少なくなる可能性があります。
症状の程度にもよりますが、一般的には事故から6カ月経過したあたりの段階で主治医と症状固定の時期について検討した方がいいと考えられます。

股関節脱臼骨折の後遺症で受け取ることのできる慰謝料はいくら?

もしも後遺障害等級に認定されると、その等級に応じて後遺障害慰謝料が支払われます。

後遺障害慰謝料

後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償

慰謝料金額相場の3基準比較

後遺障害慰謝料を含む慰謝料には、3つの算定基準があります。

  • 自賠責保険での金額算定に使われる自賠責基準
  • 各保険会社での金額算定に使われる任意保険基準
  • 過去の裁判例に基づいた弁護士基準

どの後遺障害でいくらの慰謝料がもらえるのかについても、次の章以降で詳しく説明します。

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①股関節脱臼骨折による「股関節が動かない」後遺障害

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股関節の機能障害は後遺障害何級になる?

股関節脱臼骨折することで、股関節がうまく動かせないという後遺障害が残る場合があります。
その場合の後遺障害等級は、以下のようになります。

後遺障害等級

股関節脱臼骨折による股関節の機能障害

87
1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
1011
1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
127
1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

*股関節以外の関節にも異常がある場合はより高い等級に認定される

用いられている専門用語をわかりやすく言い換えると、以下のようになります。

ここに書かれている角度は、

  • 屈曲(膝を曲げて太腿を腹部に引き上げる動き)と伸展(太腿を背中側に反らす動き)
  • 外転内転(足を左右に振る動き)

それぞれの合計値です。

用語

関節の用を廃す

… 関節がまったく動かない~または障害のない関節と比べ可動域が1/10程度以下のもの

(股関節では目安として屈曲+伸展20度以下、外転+内転10度以下両方の基準を満たす)

関節の機能に著しい障害を残すもの

… 障害の無い関節と比べ可動域が1/2以下のもの

(股関節では目安として屈曲+伸展75度以下、外転+内転35度以下いずれかの基準を満たす)

関節の機能に障害を残すもの

…障害の無い関節と比べ、可動域が3/4以下に制限されているもの

(股関節では目安として屈曲+伸展110度以下、外転+内転50度以下いずれかの基準を満たす)

さらに、可動域がわずかに基準を上回る場合であっても、

外旋内旋(膝を曲げた状態で左右に動かす動き)

の合計値が基準を満たせば等級に認定されます。

可動域1/2制限の超過が10度までの場合

…障害の無い関節と比べ外旋と内旋の合計値が1/2以下

(股関節では目安として50度以下

可動域3/4制限の超過が5度までの場合

…障害の無い関節と比べ伸展の可動域が3/4以下

(股関節では目安として70度以下

以上の情報を簡単にまとめなおすと、以下のようになります。

股関節脱臼骨折による股関節の機能障害
等級 内容
87 障害の無い関節と比べ関節の可動域が1/10程度以下
1011 障害の無い関節と比べ関節の可動域が1/2以下*
127 障害の無い関節と比べ関節の可動域が3/4以下*

*基準をわずかに超える場合は外旋+内旋の動きの合計値により等級に該当する場合もある

股関節の機能障害の後遺障害慰謝料はいくら?

股関節の機能障害により後遺障害等級が認定された場合、支払われる後遺障害慰謝料は以下の通りです。

後遺障害慰謝料

股関節の機能障害

等級 自賠責基準 弁護士基準
87 324万円 830万円
1011 187万円 550万円
127 93万円 290万円

実は、自賠責保険や保険会社で算定に用いられる自賠責基準・任意保険基準は、弁護士基準と比べると驚くほど低額です。
そのことを知らずにすぐ示談に応じてしまうと、受け取れるはずだった慰謝料などを取り損ねることになります。
提示された慰謝料額が不安な場合、弁護士事務所などに相談をしてみるのも一つの手段です。

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②股関節脱臼骨折で「人工骨頭を入れた」後遺障害

人工骨頭をいれたことは後遺障害何級になる?

骨折の処置が遅れてしまった場合や、骨粗鬆症で骨がもろくなっている場合などに人工骨頭を挿入することがあります。
損傷が大きい場合は、骨頭のみならず人工関節を埋め込むことになります。
その場合の後遺障害等級は、以下のようになります。

後遺障害等級

人工関節・人工骨頭の置換

87
1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
1011
1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

この2つの等級の違いは、関節の可動域にあります。

用語

関節の用を廃す

…股関節に人工関節・人工骨頭を挿入置換し、障害の無い関節の1/2以下の可動域となった場合は8級7号

関節の機能に著しい障害を残すもの

…股関節に人工関節・人工骨頭を挿入置換したものは10級11号

現在の技術では、人口関節や人工骨頭をいれて大幅に可動域が制限されることは滅多にありません。
そのため、多くの人は10級11号に該当します。

人工骨頭をいれたことの後遺障害慰謝料はいくら?

人工関節/骨頭の挿入により後遺障害等級が認定された場合、支払われる後遺障害慰謝料は以下の通りです。

後遺障害慰謝料

人工関節・人工骨頭の置換

等級 自賠責基準 弁護士基準
87 324万円 830万円
1011 187万円 550万円

また、人工関節/骨頭の耐久年数は、およそ20年以上と言われています。
その必要性が証明できれば、買換え費用なども相手方に負担してもらえます。

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③股関節脱臼骨折による「骨盤の変形」の後遺障害

骨盤の変形は後遺障害何級になる?

股関節脱臼にともなう骨盤骨折により、骨盤が変形してしまうことがあります。
なお、「骨盤」には仙骨(骨盤中央部の骨)を含み、尾骨(いわゆる尾てい骨)は含まれません。

後遺障害等級

股関節脱臼骨折による骨盤の変形

125
鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの

ここでいう「変形」とは、裸体になったとき変形が明らかにわかる程度のものであることが必要です。
例えば、レントゲンなどで変形が発覚する程度のものでは12級に該当しません。

骨盤の変形の後遺障害慰謝料はいくら?

股関節の機能障害により後遺障害等級が認定された場合、支払われる後遺障害慰謝料は以下の通りです。

後遺障害慰謝料

股関節脱臼骨折による骨盤の変形

等級 自賠責基準 弁護士基準
125 93万円 290万円
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④股関節脱臼骨折による「下肢の短縮」の後遺障害

下肢が短縮する後遺症は後遺障害何級になる?

股関節を脱臼骨折した際、そのくっつき方などによって片方の足が短くなってしまうことがあります。
そのような場合の後遺障害等級は、以下のようになります。

後遺障害等級

股関節脱臼骨折による下肢短縮

85
1下肢を5cm以上短縮したもの
108
1下肢を3cm以上短縮したもの
138
1下肢を1cm以上短縮したもの

下肢の長さについては、上前腸骨棘(腰骨の突き出た点)から下腿内果下端(踝の骨の下端)までを計測します。
計測の際にはレントゲン写真を使用し、提出することが求められます。

股関節脱臼骨折による下肢短縮の後遺障害慰謝料はいくら?

股関節脱臼骨折による下肢短縮の後遺障害等級が認定された場合、支払われる後遺障害慰謝料は以下の通りです。

後遺障害慰謝料

股関節脱臼骨折による下肢の短縮

等級 自賠責基準 弁護士基準
85 324万円 830万円
108 187万円 550万円
138 57万円 180万円
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⑤股関節脱臼骨折による「痛み・しびれ」の後遺障害

股関節脱臼骨折の痛み・しびれは後遺障害何級になる?

骨折・脱臼などの外傷により神経が損傷し、骨折自体が治ったあとでも痛み・しびれが生じることがあります。
そのような場合の後遺障害等級は、以下のようになります。

後遺障害等級

大腿骨骨折による痛み・しびれ

1213
局部に頑固な神経症状を残すもの
149
局部に神経症状を残すもの

ここでの等級は障害の程度のみではなく、神経学的な検査結果やレントゲン・MRI画像など他覚的所見があるかで決定します。
痛みやしびれ症状が医学的に証明可能な場合は12級13号、一応の説明や推定が可能な場合は14級9号に該当します。

股関節脱臼骨折の痛み・しびれの慰謝料はいくら?

骨折・脱臼による痛みやしびれの後遺障害等級に該当する後遺障害慰謝料は以下の通りです。

後遺障害慰謝料

股関節脱臼骨折による痛み・しびれ

自賠責基準 弁護士基準
1213 93万円 290万円
149 32万円 110万円
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股関節脱臼骨折の後遺症についてのご不安は弁護士にご相談ください

LINE相談

股関節脱臼骨折は、大腿骨・骨盤という人体上大きな役割を持つ部位が傷ついてしまう症状です。
そのため、歩行機能や下肢自体に重い後遺障害が残ることがあります。
その後の生活上の苦労を少しでも補うためにも、適正な損害賠償金を受け取ることが大事です。
ですが保険会社の提示してくる金額は、専門家の目から見ると低額なことがままあることも事実です。
示談交渉の最中や損害賠償額の算定など、少しでも疑問を感じたらぜひ弁護士にご相談ください。
アトム法律事務所ではLINE・電話での無料相談を受け付けています。まずはお気軽にご利用ください。


弁護士プロフィール

岡野武志弁護士

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。


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股関節脱臼骨折の後遺症Q&A

股関節脱臼骨折の後遺症には何がありますか?

①股関節がうまく動かなくなる②股関節に人工骨頭・人工関節を置換、挿入する③骨盤が変形する④足の片方が短くなる⑤痛み・しびれが残るなどの5つがあげられ、交通事故の後遺障害として認定される可能性があります。 股関節脱臼|知っておきたい基礎知識

股関節が動かないとき後遺障害等級と慰謝料は?

後遺障害8級7号、10級11号、12級7号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料は、最も相場が高くなる弁護士基準だと8級7号:830万円、10級11号:550万円、12級7号:290万円が相場です。保険会社から提案される内容は、この金額を下回る可能性が高いです。 後遺障害等級の分かれ目は「動かせる角度」

股関節に人工骨頭を入れた時は後遺障害になる?

後遺障害8級7号、後遺障害10級11号に認定される可能性があります。もっとも、多くの方が10級11号となるようです。後遺障害慰謝料は、一番相場が高くなる弁護士基準で8級7号:830万円、10級11号:550万円が相場です。しかし相手方から提案される金額は、弁護士基準では算定されませんので低額になる可能性が高いです。 人口骨頭の買い替え費用も請求できる?

骨盤変形の後遺障害等級や慰謝料は?

骨盤の変形は12級5号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料は、相場が最も高くなる弁護士基準では12級5号:290万円が相場です。保険会社から提案される金額は、この金額を大幅に下回る可能性が高いです。弁護士基準での慰謝料獲得には弁護士の存在が欠かせません。 レントゲンで分かる程度の変形は認定されない

脚が短くなったとき後遺障害等級と慰謝料は?

下肢の短縮は、後遺障害8級5号、10級8号、13級8号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料は、最も慰謝料の金額が高くなる弁護士基準で8級5号:830万円、10級8号:550万円、13級8号:180万円が相場です。もっとも、依頼を受けた弁護士が交渉する時の相場であり、相手方から提案される金額はもっと低くなるでしょう。 後遺障害等級は短くなった程度で決まる

股関節脱臼骨折の痛みやしびれは後遺障害?

後遺障害12級13号14級9号に認定される可能性があります。後遺障害慰謝料は、弁護士に依頼すると、12級13号:290万円、14級9号:110万円を目安に交渉します。弁護士に依頼をしないと、低い金額となる可能性が極めて高くなります。 12級と14級の違いを解説

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