作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)

交通事故逸失利益

逸失利益とは|交通事故の損害賠償、計算は?12級・14級は?判例も紹介

逸失利益はどう計算する?
この記事について

この記事は
交通事故の逸失利益を、慰謝料計算機で簡単に計算する
逸失利益の計算につかう「基礎収入」、「労働能力喪失率」、「ライプニッツ係数」、「生活費控除率」などのキーワードごとの意味を知る
逸失利益判例紹介:後遺障害12級・後遺障害14級・むちうち
交通事故による逸失利益は弁護士に相談、無料相談予約の窓口のご紹介
このように構成されています。気になるところをチェックしてください。

後遺障害が認められた場合の逸失利益とは、治療のかいなく交通事故の被害によって後遺障害が残ってしまい、将来的に収入が減少した金額をさします。消極損害の一つになります。

交通事故の被害でのこった後遺症が、「後遺障害」として認定されると逸失利益の損害賠償を求めることが可能です。

  • 逸失利益の計算方法を知りたい
  • 逸失利益の判例が気になる
  • 後遺障害12級14級だと逸失利益はいくら?

逸失利益を正しく受けとるための損害賠償は、元の生活を取り戻すための大きな一歩です。順番に見ていきましょう。


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逸失利益がすぐわかる、自動で便利な慰謝料計算機はこちら

慰謝料計算機をつかえば、交通事故の慰謝料などをはじめ、逸失利益もすぐに計算できます。

逸失利益は最終的に加害者側から受けとる賠償金の一部です。

交通事故の慰謝料

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逸失利益の計算方法は?損害賠償請求前に計算方法をわかりやすく解説

逸失利益とは

逸失利益を計算式から確認してみます。まずは、後遺障害が残った場合の後遺障害の逸失利益を考えましょう。被害者が死亡した場合の「死亡逸失利益」は、記事の後半をご覧ください。

逸失利益の計算には、次の3点が必要です。
(1)基礎収入
(2)労働能力喪失率
(3)就労可能年数に応じたライプニッツ係数

逸失利益は年齢・就労の有無によって分けます。実際の計算式を確認してみましょう。

逸失利益の計算方法:有職者?主婦?子どもで計算方法は違う?

計算方法は交通事故の被害者の属性によって分かれます。

有職者または就労可能者

基礎収入 ✖ 労働能力喪失率 ✖ 就労可能年数に対するライプニッツ係数

18歳未満の未就労者の計算式は次のとおりです。

症状固定時に18歳未満の未就労者

基礎収入 ✖ 労働能力喪失率 ✖ 67歳までのライプニッツ係数ー18歳に達するまでのライプニッツ係数

逸失利益は、後遺障害が残らなければ得られた就労利益をさします。だから計算式も、被害者の就労状況によって変わります。

ここからは
(1)基礎収入

(2)労働能力喪失率

(3)就労可能年数に応じたライプニッツ係数
を順番に確認していきます。

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逸失利益の計算方法①基礎収入

基礎収入とは?有職者や主婦の場合

計算方法は交通事故の被害者の属性によって分かれます。

有職者

実際の給与をベースに考えます。源泉徴収票や給与明細で証明が可能です。

ただし、被害者の実際の収入が賃金センサスの平均額以下ということもあるかもしれません。
その場合でも、将来的に「賃金センサスの平均額を受けとれる」見込みがあれば、被害者の実際の収入ではなく、賃金センサスを元に計算することが認められています。

例えば、会社の業績不振により給与水準が低い場合などは、実際に賃金センサスで基礎収入を算出することが認められた判例もあります。

主婦

主婦の場合、家事労働が仕事にあたります。しかし実際は家事に対して給与が支払われているわけではありません。そこで賃金センサスをもとに算出します。

仕事と主婦を両立している場合(兼業主婦)は、実収入が賃金センサスをこえる時は、実収入を基礎収入とします。そのときには別途、家事労働分を上乗せすることはありません。

基礎収入とは?18歳未満の子ども・無職の場合

交通事故の被害者の属性別に、さらに見てみましょう。

18歳未満の子ども

基本的には、賃金センサスをもとにします。女の子の場合は、男女をふくむ全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが一般的です。

大学生になっていない者についても、大卒の賃金センサスが基礎収入として認められることもあります。その場合は、就労の開始時期が大学生の就労時期からになります。

計算してみると、かえって逸失利益が減っていたという話もあります。計算して確かめてください。

無職

逸失利益とは、後遺障害が残らなければ将来得られていたであろう収入のことをさします。たとえ無職であっても、将来働いて収入が得られる可能性があることを説明できれば認められます。

(1)労働能力・労働意欲
(2)就労していることが否定できないこと

就労先の選択肢が極端に限定されていない場合(〇〇でないと働きたくない、などがない場合)は、何らかの働き口は見つかります。(1)労働能力・労働意欲をきちんと説明することが重要でしょう。

基礎収入とは?高齢者の場合

症状固定時に就労をしていなくても、就労できることが確からしい場合は、賃金センサスを元にして算出できます。

ただ、一般的には労働能力・労働意欲就労していることが否定できないことは若者に比べて説明が難しいとされます。それは、身体能力的に就労することが難しかったり、就労先が見つかりにくいためです。

年金について

年金は、逸失利益の基礎収入には原則含まれません。逸失利益とは、後遺障害が残らなければ将来得られていたであろう収入のことをさします。年金は後遺障害があっても、なくても、変わらず受けとれます。年金は基礎年収には含みません

死亡事故の場合の逸失利益には、受給している年金によって基礎収入に含まれることがあります。しかし、例えば、遺族基礎年金や遺族厚生年金、遺族共済年金などは逸失利益性が否定されます。

高齢者の基礎収入について詳しく知りたい方は、弁護士への個別相談をおすすめします。

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逸失利益の計算方法②労働能力喪失率は?

労働能力喪失率は、後遺障害等級によって定められている数値を基本とします。後遺障害等級は1級から14級まであり、1級は最も障害の程度が重いとされています。
等級ごとの労働能力喪失率をまとめました。

後遺障害等級と労働能力喪失率
等級 労働能力喪失率
1 100/100
2 100/100
3 100/100
4 92/100
5 79/100
6 67/100
7 56/100
8 45/100
9 35/100
10 27/100
11 20/100
12 14/100
13 9/100
14 5/100

労働能力喪失率は職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度などを総合的に判断して評価されます。表の数値はあくまで目安と考えてください。

記事の後半では、具体的に逸失利益の判例を紹介していますので、参考にしてください。

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逸失利益の計算方法③ライプニッツ係数

逸失利益計算:就労可能年数・ライプニッツ係数を算出

ライプニッツ係数を知るためには、まず就労可能年数を算出します。

就労可能年数
  • 原則としては18歳から67歳までを就労可能年齢とする。
  • 67歳を超える者はく簡易生命表の平均余命の2分の1とする
  • 67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなる場合は、平均余命の2分の1とする

就労可能年齢は、職業などの事由に変わります。

たとえば、開業医(認定:70歳)や税理士(認定:75歳)など、67歳から延長された事例もあります。

労働能力喪失期間の始まりは、事故発生時ではなく症状固定から67歳までの差で考えます。

計算例

症状固定時35歳 ⇒ 就労可能年数は67ー35=32

⇒32年に相当するライプニッツ係数:15.8027

18歳未満のライプニッツ係数

症状固定時の年齢が18歳に満たない場合は、少し計算が複雑です。就労可能は18歳からなので、18歳までのライプニッツ係数を除かなくてはいけません。
(1)~(3)の手順で計算します。

(1)67歳から子の年齢を引いた年数のライプニッツ係数を算出
(2)18歳から子の年齢を引いた年数のライプニッツ係数を算出
(3)次に(1)から(2)を引いて18歳から67歳までのライプニッツ係数としています。

具体的な計算例は以下のとおりです。
症状固定時10歳 ⇒ ライプニッツ係数は12.2973
次のように計算します。
(1)67年ー10年=57年:ライプニッツ係数は18.7605
(2)18年ー10年=8年:ライプニッツ係数は6.4362
(3)18.76056.4362=ライプニッツ係数12.2973

ライプニッツ係数を算出するときは
就労可能年齢の上限は、原則として67歳まで
被害者は症状固定時に「18歳以上」か、「18歳未満」か
この2つに注意して計算しましょう。

以下のリンクから、すべての年齢の「ライプニッツ係数」がすぐに確認できます。ぜひ参考にしてください。

逸失利益の計算:後遺障害7級・症状固定時47歳

具体例で実際に計算してみましょう。

  • 基礎年収:480万円
  • 後遺障害7級:労働能力喪失率は56/100
  • 就労可能年数:30年=ライプニッツ係数:15.372

基礎収入:480万円 ✖ 労働能力喪失率:0.56 ✖ 就労可能年数30年に対するライプニッツ係数:15.372

4,131万9,936円逸失利益となります。

金額はあくまで目安です。まだ増額の余地はあるかもしれません。
この後、実際の判例をいくつかピックアップしています。判例を見ると、「目安」であることがよくわかるでしょう。このまま続けてお読みください。

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逸失利益の判例解説:後遺障害12級・14級・むちうち

特に質問の多い後遺障害12級・14級の逸失利益の判例を紹介します。また、むちうちについては、就労可能年数に注意点があります。該当する場合は必ずお読みください。

逸失利益の判例:後遺障害12級

後遺障害等級12級の場合は、労働能力喪失率は14/100とされています。しかし、実際に判例をみると、基礎年収・就労可能年数だけでなく、労働能力喪失率も個別に認定されています。

【判例】逸失利益・後遺障害等級12級の判例
逸失利益:9494,916円 東京地判平22.2.17
✓宮大工見習い(女性・症状固定時34歳)
逸失利益:4238,140円 ✖ 0.1416.00259494,916

・基礎年収:4238,140
<賃金センサスの女性大卒全年齢平均の95%>
・労働能力喪失率:14
・就労可能年数:33=ライプニッツ係数16.0025
※実際の月収は15万円であったが、事故を受けて転職を余儀なくされた。転職後の収入から、基礎年収は賃金センサスの女子大卒全年齢平均を採用したが、転職前までの月収や年齢を考慮し95%とした。

逸失利益:1,4964,363円 東京地判平2.7.12
✓有職定時制高校生(男性・症状固定時27歳)
逸失利益:1,4964,363

・基礎年収:3488,400
<賃金センサス男子新大卒労働者27歳相当>
・労働能力喪失率:25
・就労可能年数:40=ライプニッツ係数17.159
12級ではあるが、左肩関節可動域減少や会話機能が充分でないことを考慮

逸失利益:1,2571,927円 東京地判平18.8.28
✓料理人(男性・症状固定時31歳)
逸失利益:5427,000円 ✖ 0.1416.54681,2571,927円>

・基礎年収:5427,000<賃金センサスの男性学歴計全年齢平均>
・労働能力喪失率:14
・就労可能年数:36=ライプニッツ係数16.5468
※実際の年収が賃金センサスの年齢別平均を上回っていたので全年齢平均の賃金センサスを採用

民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準2019より抜粋

実際は労働能力喪失率が高く認定されることもあると分かります。

基礎収入についても
被害者の実収入 > 賃金センサス ⇒ 被害者の実収入を採用
被害者の実収入 < 賃金センサス ⇒ 賃金センサスを採用

このように、高い方で認めてもらいたいところです。個別の背景をきちんと主張し、認めてもらいましょう。

増額交渉(弁護士あり)

弁護士に依頼することで、被害者の方の適正な逸失利益の獲得を目指すことができます。説得力のある論理的な主張・交渉は、弁護士に任せることをおすすめします

後遺障害12級の逸失利益は、関連記事でも解説しています。あわせて読んでみてください。

逸失利益の判例:後遺障害14級

後遺障害14級の場合、労働能力喪失率の目安は5/100です。この数値も、あくまで目安と考えましょう。判例で確認します。

【判例】逸失利益・後遺障害等級14級
逸失利益:3265,479円 東京地判平25.2.5
✓土木建築作業員(男性・症状固定時48歳)
逸失利益:5286,000円 ✖ 0.087.7223265,479

・基礎年収:5286,000
・労働能力喪失率:8
・就労可能年数:10
※MRIなどの検査では症状が確認されないが、受傷直後から症状は一貫し、その頑固さ等も考慮された

逸失利益:2946,651円 千葉地判平21.12.17
✓調理師(男性・症状固定時33歳)
逸失利益:3548,609円×0.08×10.37962946,651

・基礎年収:3548,609
・労働能力喪失率:8
・就労可能年数:15
※利き腕の視力低下は調理師という仕事に大きな影響を与え、5年たった今も解消されていない

民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準2019より抜粋

労働能力喪失率は8%(8/100)とされています。被害者のケガの状況も加味して判断がなされます。

逸失利益の注意点:12級・14級のむちうち

むちうちなどの神経症状は、交通事故の後遺障害のなかでも比較的軽いとされます。労働能力の喪失が67歳まで続かず、時間の経過とともに軽減されると考えられます。

逸失利益の計算式

基礎収入 ✖ 労働能力喪失率 ✖ 就労可能年数に対するライプニッツ係数

計算式に変わりはありません。
しかし、労働能力喪失や就労可能年数は、職業や症状の程度に応じて個別の事情に即して判断されます。

特に、むちうちの労働能力喪失期間は短く、
12級の労働能力喪失期間:10年程度
14級の労働能力喪失期間:5年程度
このように制限する事例が多く見られます。

逸失利益とは、将来的に収入が減少することによる損害をさします。収入・仕事にどんな影響があるかを、きちんと説明していきましょう。

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死亡逸失利益の計算式、後遺障害逸失利益との違いは?

死亡逸失利益の計算方法

交通事故で死亡した被害者の逸失利益死亡逸失利益といわれ、計算式が若干異なります。

有職者または就労可能者

基礎収入 ✖ 1-生活控除率 ✖ 就労可能年数に対するライプニッツ係数

18歳未満の未就労者

基礎収入 ✖ 1-生活控除率 ✖ 67歳までのライプニッツ係数ー18歳に達するまでのライプニッツ係数

後遺障害の逸失利益との違いは、生活控除率には注意が必要です。

生活控除率とは

亡くなられた方は、その後の生活費がかからない計算になります。その費用を控除するための割合です。

生活費控除率
被害者の立場 生活費控除率
一家の支柱
(被扶養者:1名)
40%
一家の支柱
(被扶養者:2名~)
30%
男性 50%
女性 30%

女性・男性の内訳には主婦・独身・幼児などを含む

女子の生活費控除率が男子と比べて低いのは、生活費がかからないということではなく男性と比べて平均給与が低いという現状を踏まえています。

死亡逸失利益の判例:障害者が交通事故の被害者に…

2019年3月に、障害者の逸失利益を健常者と差をつけずに算出するよう求める裁判の判決が出ました。

(略)裁判長は判決で、「(略)特定分野、範囲に限れば、健常者と同等、場合によっては優れた稼働能力を発揮する蓋然(がいぜん)性があった」と判断。「福祉的就労を前提とした賃金や最低賃金ではなく、一般就労を前提とする平均賃金で算出するのが相当」とした。一方、「障害者と健常者との間に現に存する就労格差や賃金格差を無視するのも相当ではない」と減額理由を指摘。原告側が全年齢の男子の平均賃金から算出した約7400万円を求めたのに対し、19歳までの男女の平均賃金で算出した約2200万円にとどめた。

引用元:時事ドットコムニュース 2019年03月22日22時10分

健常者も、障害者も、一人ひとりの背景や実情を考慮して算出することに変わりはありません。つまり、健常者の判例と同様に、障害者の逸失利益についても、交通事故の背景によって判断されます。

死亡逸失利益・死亡慰謝料については、関連記事で多数の判例と共に解説しています。参考にしてください。


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交通事故による逸失利益を適正に受けとりたい方、ご相談はこちらまで

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アトム法律事務所は「交通事故と刑事事件の地域一番の弁護士事務所として、 相談者のお悩みとお困りごとを解決すること」を目指しています。交通事故に関する解決実績が多数ありますので、ご安心ください。

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まとめ

逸失利益は、計算方法や基準も公開されています。また、紹介した慰謝料計算機を使えば誰でも算出できます。しかし、その金額はあくまで目安です。適正な金額を「受けとる」ために大切なことは、「基準と比べて増額の余地はないのか」と、徹底的に検証し、交渉していくことでしょう。専門家である弁護士に任せてみませんか?一緒に適正な逸失利益の獲得を目指しましょう。

アトム法律事務所は、東京・大阪・福岡をはじめ、全国各地に事務所を設けています。どの事務所も駅から近く、交通アクセスのよい立地です。次のページに各事務所・支部の一覧が確認できますので、相談時の参考にしてください。


弁護士プロフィール

岡野武志弁護士

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。


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