作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
交通事故で女の子の顔の傷、後遺症認定はされる?後遺障害慰謝料の相場はいくら?
この記事のポイント
- 顔の傷で後遺障害何級になるかについて、男女差は無い
- 後遺障害等級は傷の大きさで決まる
- 等級により後遺障害慰謝料の金額も決まる
車と接触してしまい、幸い大きな怪我は無かったものの顔面から転んで顔に傷が出来てしまった…。
あるいは交通事故による骨折の治療は進んでいるけど、顔の傷の治療は後回しにされていて不安…。
顔に傷が残ったとき、特に女性の場合、常に他人の目を意識せざるをえないぶん、精神的な苦痛は計り知れません。
そのような場合、きちんと精神的苦痛に見合う慰謝料は支払われるのでしょうか、払われるとしたらいったいいくらなのでしょうか。
傷の種類や大きさとは別に、実際に支払われる慰謝料の金額を紹介していきます。
- 女の子の顔の傷は後遺障害になる?
- 女の子と男の子で何か違いはある?
- 顔の傷が残ったとき、支払われる慰謝料はいくら?
目次
「顔の傷」の基礎知識|女の子と男の子で慰謝料は違う?
交通事故で顔に傷が残る場合とは?
交通事故により転倒し、顔から転んでしまった場合に顔に傷が出来てしまいます。
もっとも現在はケロイドや、線状の傷については治療法が確立しています。また、子供の顔の傷は成長にしたがい薄くなりやすいとも言われています。
一方で面の広い傷などは未だに軽減が難しく、その他の傷も場所や傷の方向については治りきらず、顔に傷が残る場合があります。
特に交通事故では、でこぼこの道路に顔が擦れることで、面の広い擦過傷ができやすいと言えるでしょう。
顔の傷の治療法とは?
交通事故における顔の傷の治療は、傷の種類によって主に3種類の治療法があります。
- 保存治療(投薬、圧迫、テーピングなど)
- レーザー治療
- 手術治療
それぞれ、治療に適した傷の種類が異なります。
比較
顔の傷の治療法*
手術法 | 治療に適した傷 | 適さない傷など |
---|---|---|
保存治療 | 赤く、軽く盛りあがった傷 | 白くなった傷 陥没した傷 治療に時間がかかる |
レーザー治療 | ケロイドなど ほぼすべての傷 |
複数回の治療が必要な場合もある |
手術治療 | 幅・大きさのある傷 周囲の皮膚に量的余裕のある傷 |
小さく密集した傷 切除範囲の広い傷 |
*傾向であり、絶対のものではない
なお、この表は傾向であり実際に適した治療は事案によって異なります。
まずは主治医の判断に従い、治療を行っていくようにしましょう。
「顔の傷」の男女差をめぐる経緯|2010年6月10日以前・以後
実は、顔の傷に関しては2010年まで、男性と女性で異なる取扱いがされていました。
女性の顔の傷の方が、男性の傷よりも後遺障害としての程度が重いという取扱だったのです。
ですが2010年、事故により顔にやけどを負った男性に関する裁判で、この取扱が憲法に違反するとされました。
男女の性別によって著しい外ぼうの醜状障害について5級の差があり(略)本件差別的取扱いを定める部分は,合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして,憲法14条1項に違反するものと判断せざるを得ない。
引用元:京都地裁平成22年5月27日
顔の傷などの後遺障害は、部位や程度に応じて14段階の後遺障害等級に区分されています。
上記の判例により、顔面の傷の後遺障害等級に関しては男女の差は無くなりました。
以前は男女で等級が異なっていたのが、以下のように変更されました。
比較
外貌醜状に関する後遺障害等級
旧基準 | 新基準 | |
---|---|---|
7級12号 女性の外貌に著しい醜状を残すもの |
→ | 7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの |
– | 9条16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
|
12級13号 男性の外貌に著しい醜状を残すもの 12級14号 女性の外貌に醜状を残すもの |
12級14号 外貌に醜状を残すもの |
|
14級10号 男性の外貌に醜状を残すもの |
削除 |
表を見てみると、外貌醜状(顔の傷)について性別による等級の差が無くなったことがよくわかります。
なおこの判例では、傷があることで女性の方が就労機会を制限されうる、など顔の傷に関する男女の差異を一応認めています。
ですので、慰謝料などの点で男女の差が考慮される可能性はいまだに残っています。
「顔の傷」の慰謝料はいくら?|男女・7級・9級・12級の違い
顔の傷の後遺障害とは?
では改めて、顔に傷が残ったときの後遺障害等級を見ていきましょう。
現在では、男性と女性で等級の差は無くなっています。
後遺障害等級
顔の傷
等級 | 内容 |
---|---|
7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの |
9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの |
ここで用いられている言葉をさらに具体的に説明すると、以下のようになります。
用語
外貌
…頭部・顔面部・首など日常露出する場所で、腕や足以外の部分
「著しい醜状」
…①頭部に残った手のひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕(傷痕)または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
②顔面部に残った鶏卵大以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没(身体にくぼみが残った状態)
③頸部に残った手のひら大以上の瘢痕
「相当程度の醜状」
…顔面部に残った長さ5センチメートル以上の線状痕(線状に残った傷)
「醜状」
…①頭部に残った鶏卵大以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損
②顔面部に残った10円硬貨以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕
③頸部に残った鶏卵大以上の瘢痕
④顔面神経麻痺などによる顔のひきつり
また、これらはすべて、人目につく程度のものであることが前提となっています。
よって、以下の傷などが除外されます。
後遺障害とならない顔の傷
- 眉毛や髪の毛で隠れる位置にある
- 正面から見て確認できない顎の傷
以上の情報を等級としてまとめると、以下のようになります。
後遺障害等級
顔の傷
等級 | 部位 | 内容 |
---|---|---|
7級12号 | 頭部 | 手のひら大以上の瘢痕 頭蓋骨の手のひら大以上の欠損 |
顔面部 | 鶏卵大以上の瘢痕 10円硬貨大以上の組織陥没 |
|
頚部 | 手のひら大以上の瘢痕 | |
9級16号 | 顔面部 | 5センチメートル以上の線状痕 |
12級14号 | 頭部 | 鶏卵大以上の瘢痕 頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損 |
顔面部 | 10円硬貨以上の瘢痕 3センチメートル以上の線状痕 |
|
頚部 | 鶏卵大以上の瘢痕 |
なお、これら以外にも耳の欠損や鼻が歪んでしまった症状なども醜状として認定されることがあります。
顔に傷が複数ある場合|後遺障害が複数ある場合は?
実際のところ、顔についた傷は一つであるとは限りません。
顔面に傷が複数ある場合、後遺障害等級に変化はあるのでしょうか。
それについては、以下の判断基準があります。
傷が複数ある場合
- 2個以上の瘢痕または線状痕が相隣接している
- 2個以上の瘢痕または線状痕があいまって1個の瘢痕または線状痕と同程度以上の醜状を呈する
そのようなときは、長さ・面積などを合算して認定する。
例えば、顔面に3センチメートルの線状痕が2つ残ったとします。
通常、顔に残る3センチメートルの線状痕は後遺障害等級12級14号になります。
しかしよく見るとこの傷、一カ所で繋がって1つの傷になっている…というような場合、長さを合算して計算することになります。
合計すると6センチメートルの線状痕になるため、9級16号として評価されます。
また、顔面の傷以外にも骨折や打撲などを負い、その他の後遺障害が残っている場合もあります。
そのようなときは、後遺障害の併合ルールを用いて等級を計算します。
存在する後遺症 | 併合の結果 |
---|---|
5級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を3つ繰り上げる |
8級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を2つ繰り上げる |
13級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を1つ繰り上げる |
14級の後遺障害が2つ以上残存 | 14級のまま |
それ以外 | 最高等級を後遺障害等級とする |
女の子が顔の傷で受け取れる後遺障害慰謝料は最大1000万?
後遺障害慰謝料
後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金
後遺障害等級に応じて、後遺障害慰謝料が支払われます。
顔の傷によって受け取ることができる慰謝料は以下の通りです。
この慰謝料にも、原則として男女差はありません。
後遺障害慰謝料
顔の傷
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
7級12号 | 409万円 | 1000万円 |
9級16号 | 245万円 | 690万円 |
12級14号 | 93万円 | 290万円 |
弁護士に依頼することで、約2.4~3倍の後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
また、この額はあくまで後遺障害が残った精神的苦痛に対して支払われるものです。
ですから、実際はこれに加えて入通院にかかった費用や入通院に対する慰謝料、その他将来の収入の補償などが受けられます。
それらをあわせた額が知りたい方は、こちらの慰謝料計算機をご利用ください。
交通事故による「顔以外の傷」の後遺障害
上肢/下肢の露出面の傷の後遺障害とは?
交通事故で顔だけではなく、体にまで傷が残ってしまう場合があります。
そのような傷も、大きさによって後遺障害として認定されます。
後遺障害等級
顔の傷
等級 | 内容 |
---|---|
14級4号 | 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
14級5号 | 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
*12級相当と評価される場合もある
ここで用いられている言葉をさらに具体的に説明すると、以下のようになります。
用語
上肢の露出面
…上腕部、肩の付け根から指先まで
下肢の露出面
…太腿、足の付け根から足の甲まで
てのひら大
…被害者の手のひらで指を除いた部分
また、複数の傷痕がある場合はその面積の合計値を考慮します。
結果、てのひらの3倍程度以上の面積を超える場合は、特に著しい症状として後遺障害等級12級相当と認定される場合もあります。
日常露出しない部位の傷は?
上肢/下肢の露出面以外の部分、すなわち胸部・腹部・背部・臀部に傷が残った場合はどうなるのでしょう。
その場合は「胸部+腹部」の体の前面、または「背部+臀部」の体の背面それぞれで傷の占める面積を調べます。
- どちらかの合計面積の1/4以上に瘢痕を残す場合は14級
- 1/2以上に瘢痕を残す場合は12級
が認定されます。
顔以外の傷で受け取れる慰謝料とは?
顔以外の傷によって受け取ることができる慰謝料は以下の通りです。
後遺障害慰謝料
顔以外の傷
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級相当 | 93万円 | 290万円 |
14級4号 | 32万円 | 110万円 |
14級5号 |
「顔の傷」の後遺障害が残ったら慰謝料を受け取るために何をすべき?
では、実際に後遺障害等級の申請をして、後遺障害慰謝料を受け取るまでの流れを見てみましょう。
顔の傷で慰謝料を受け取るまでの流れ
①症状が固定される
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった状態を症状固定と言います。
後遺障害等級認定を受ける場合は、原則事故から約6カ月以上経っている必要があると考えられています。
これ以上治療期間が短い場合は、後遺障害としては認められない可能性が高いということです。
②後遺障害診断書・交通事故後の傷痕等に関する所見の用意
症状固定の診断を受けたならば、後遺障害等級認定に向けて後遺障害診断書などの資料を準備します。
なお2016年10月以降、顔の傷などの外貌醜状の場合は交通事故後の傷痕等に関する所見を一緒に提出しなければなりません。
しかし病院によっては対応しきれていない場合もあり、被害者側で注意する必要があります。
後遺障害の申請には、2種類の方法があります。
- 被害者が後遺障害診断書のみを任意保険会社に提出する事前認定
- 被害者が経過証明書などその他の資料も用意して自賠責保険に提出する被害者請求
被害者請求は手間がかかりますが、後遺障害等級の認定に有利な資料を自分で精査できるのが強みです。なお、弁護士に資料収集作業を任せることもできます。
比較
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
請求者 | 相手方保険会社 | 被害者自身 |
メリット | 資料収集の手間がない | 自分で資料を確認できる |
デメリット | 自分で資料を確認できない | 資料収集の手間がかかる |
③損害保険料率算出機構による面談
提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の審査を行います。
この時、請求からおよそ1カ月以内に担当者による面談があり、傷の部位・形態・色素沈着の程度などの測定が行われます。
そしてこの面談には、弁護士が立ち会い、適切な判断がなされているか第三者の目で確認することが出来る場合もあります。
審査結果をふまえ、自賠責保険会社が等級認定を行います。
より細かな認定手順、後遺障害診断書の書き方などについては以下の記事を参照してください。
後遺障害等級の申請について
④後遺障害慰謝料の支払い
後遺障害慰謝料の支払い時期は、主に事前認定か被害者請求どちらを利用したかで決まります。
事前認定の場合、原則として示談交渉終了後に支払われます。
被害者請求の場合、等級認定後に示談交渉終了を待たず、自賠責限度額で支払いを受けることが出来ます。
自賠責保険の限度額は以下のようになっています。
自賠責基準
支払い限度額*
1級 | 2級 | 3級 | 4級 |
---|---|---|---|
3000万 | 2590万 | 2219万 | 1889万 |
5級 | 6級 | 7級 | 8級 |
1574万 | 1296万 | 1051万 | 819万 |
9級 | 10級 | 11級 | 12級 |
616万 | 461万 | 331万 | 224万 |
13級 | 14級 | ||
139万 | 75万 |
*全体の支払い限度額であり、後遺障害慰謝料の金額ではない
「顔の傷」の等級申請の注意点
通常の後遺障害等級申請と、顔の傷とで異なるのは以下の点です。
- 後遺障害診断書のほかに、交通事故後の傷痕等に関する所見などを提出する
- 書面のみではなく面談によっても審査される
- 面談には弁護士が同席することができる場合もある
傷の測定には〇センチメートル以上、という客観的な基準がありますから、立ち会いに弁護士なんていらないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが実際には後遺障害等級に非該当とされた後で、直線距離ではなく傷に沿って測定しなおしたことで改めて12級に認定されたという事例もあります。
また、顔の傷に関しては「人目につく程度」という基準や「傷が相隣接する」という基準などに審査員の主観が入ってしまうことがあります。
そのような要素を避けるためにも、弁護士による立ち会いは重要です。
女の子に限らず…「顔の傷」に関するお悩みは弁護士にご相談ください
現代の医療でもってしても、顔の傷痕を完璧に無くすことはまだ困難です。
女の子や女性に限らず、男性にとっても傷痕のせいで人前に出るのが億劫になったり、コミュニケーションに不安を覚えることになるかもしれません。
ですがだからこそ、相手方ときちんと交渉し慰謝料を得て、その苦痛に対する十分な補償を受けなければなりません。
被害者の方のお力になるために、アトム法律事務所ではLINE・電話での無料相談を受け付けています。
顔の傷についての質問、慰謝料額が適正かの確認、相手方との交渉の不安、面談に立ち会ってほしい、なんでもお気軽にご相談ください。
被害にあわれた方の苦痛を和らげるために、誠心誠意お手伝いいたします。
(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。
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弁護士プロフィール
岡野武志弁護士
女の子の顔の傷に対する慰謝料Q&A
顔の傷に男女差は無くなった?
2010年まで顔の傷に関して、交通事故の後遺障害では男女で異なる扱いがなされていました。女性の顔の傷のほうが男性よりも後遺障害として程度が重いとされていましたが、憲法に違反するという判決により、顔の傷に関する後遺障害等級の男女差は無くなりました。 顔の傷に関する男女差の経緯
顔の傷の後遺障害等級は何級?
顔の傷で認定が予想される後遺障害の等級は、外貌に著しい醜状を残すものの場合は7級12号、外貌に相当程度の醜状を残すものの場合は9級16号、外貌に醜状を残すものの場合は12級14号となっています。いずれも「人目につく程度のもの」であることが前提となっている点に注意が必要です。 顔の傷の後遺障害等級
顔の傷で受け取れる後遺障害慰謝料の金額は?
後遺障害慰謝料は等級に応じて金額が決まっています。慰謝料の金額にも男女差はありません。弁護士基準による算定で7級12号が1000万円、9級16号が690万円、12級14号が290万円です。弁護士基準以外の算定基準と比べて約2~3倍程度の金額差があります。 後遺障害慰謝料の金額