作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
肩鎖関節脱臼の後遺障害|手術は必要?動かしづらさ、痛み、変形は後遺症?後遺障害慰謝料の相場は?
この記事のポイント
- 肩鎖関節脱臼の後遺障害には「機能障害(腕が上がらない)」「痛み・しびれ」「変形」などがある
- 慰謝料の金額は腕が上がらなくなった程度、痛みに関する他覚的所見の有無などで異なる
- 弁護士に依頼することで、2~3倍の慰謝料増額が可能
肩鎖関節(けんさかんせつ)は鎖骨と肩甲骨の間の関節をさします。
肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯、三角筋・僧帽筋により肩鎖関節の安定が保たれています。
肩の外側を強く打ちつけることにより、これらの靱帯・筋肉がいたんでしまい、その結果として肩鎖関節がずれてしまいます。
肩に交通事故の影響が残ると、日常動作に大きな不自由が生じてしまいます。
適正な慰謝料獲得をめざして弁護士が解説いたします。
- 手術は必要?
- 後遺症はどのようなものがある?
- 肩鎖関節脱臼は後遺障害になる?
目次
奈良県立医科大学付属病院アトム法律事務所顧問医
藤井 宏真医師
肩鎖関節脱臼は①捻挫、②亜脱臼、③脱臼、④後方脱臼、⑤高度脱臼、⑥下方脱臼と6つに分類できます。
捻挫や亜脱臼の場合は、治療に保存療法(リハビリなど)が選択されることが多いです。
肩鎖関節脱臼の基礎知識|肩鎖関節脱臼したら何科に行く?治療は?
肩鎖関節脱臼の症状
交通事故で肩鎖関節脱臼になると、以下のような症状があります。
- 肩が痛い(鎖骨を押したり、肩を動かしたとき)
- 肩が腫れている
- 腕が上がらない
- 鎖骨が浮き上がっているように見える
脱臼は関節がはずれて、骨の位置が関節からずれてしまった状態をさします。
肩鎖関節脱臼は損傷の位置やズレの程度によって、6つに分類できます。
(1)捻挫
(2)亜脱臼
(3)脱臼
(4)後方脱臼
(5)高度脱臼
(6)下方脱臼
分類 | 概要 |
---|---|
捻挫 | 肩鎖靱帯の部分的な損傷にとどまる。 烏口鎖骨靱帯、三角筋・僧帽筋は正常で、X線に異常なし。 |
亜脱臼 | 肩鎖靱帯が断裂し、烏口鎖骨靱帯が部分的に損傷。三角筋・僧帽筋は正常。 関節の隙間が拡大し鎖骨の端がやや上にずれていることがX線で確認できる。 |
脱臼 | 肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂。三角筋・僧帽筋は鎖骨の端からはずれていることが多い。 X線では鎖骨の端が完全に上にずれている。 |
後方脱臼 | 肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂。三角筋・僧帽筋は鎖骨の端からはずれている。 鎖骨の端が後方にずれている脱臼。 |
高度脱臼 | 肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂。 三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3より完全にはずれている。 |
下方脱臼 | 鎖骨の端が下にずれている。珍しいタイプの脱臼。 |
一般社団法人 日本骨折治療学会(https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip16.html)参考
肩鎖関節脱臼は何科で治療を受けるべき?
整形外科を受診しましょう。
交通事故の被害にあったら、できれば即日の受診が望ましいです。
肩関節脱臼が発生している場合、上肢を打ち付けたと考えられます。
交通事故では一つの怪我だけが起こるわけではありません。
ですので、早めに病院を受診して気になること、事故発生時の状況を覚えているうちに医師に報告してください。
病院ではX線(レントゲン)で、
- 骨や関節のずれ方
- 骨折がともなっていないか
これらを確認していきます。
肩鎖関節脱臼の治療&整復&手術|リハビリだけでOK?手術は必要?
肩鎖関節脱臼については治療の方向性は2つあります。
- 保存療法
- 手術
保存療法
先ほどの6分類のうち、捻挫と亜脱臼については保存療法がとられることが多いようです。
保存療法では、三角巾での固定やテーピングを行います。
固定を続けると同時に、様子を見ながら肩関節を動かすリハビリも並行して進められます。
手術
損傷した靱帯や筋肉の修復、脱臼した関節を整復することが目的です。
後方脱臼・高度脱臼・下方脱臼の場合は手術になることが多いようです。
手術方法は一つではありません。
医師と十分相談し、まず手術をするのか、そしてどんな手術方法をとるのかをよく話し合うようにしましょう。
肩鎖関節脱臼の後遺症|動かしづらさや痛み、変形は後遺障害にあたる?
後遺症(後遺障害)
十分な治療を行っても、これ以上良くも悪くもならないという状態で残存する症状
交通事故の場合、その部位と程度により14段階の後遺障害等級で区分される
肩鎖関節脱臼を負うような怪我により、生じることのある後遺障害には以下のようなものがあります。
肩鎖関節脱臼の後遺症
・動かせる範囲(可動域)が限られる
・痛みが残る
・変形が残る
それぞれがどのような症状であり、後遺障害等級が何級になるかは次の章で詳しく説明します。
肩鎖関節脱臼で慰謝料が増えるって本当?
肩鎖関節脱臼の後遺症により増える保険金|後遺障害慰謝料と逸失利益
上述した後遺障害等級に認定されると、加害者側から支払われる金銭が増えます。
後遺障害が残った場合に追加で支払われる金銭の一つが、後遺障害慰謝料です。
後遺障害慰謝料
後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償
また、後遺障害慰謝料の他に支払われるものとして逸失利益があります。
後遺障害の逸失利益
後遺障害が残ったことで労働能力が失われ収入が減ることへの補償
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数
なお、「労働能力喪失率」は障害の部位や程度、被害者の職業などを考慮して増減することがあります。
逸失利益の計算は少し複雑です。簡単な情報入力ですぐに逸失利益がわかる「計算機」は次のページからご利用いただけます。
気を付けたいのは、基礎年収の求め方です。
会社員などの企業に勤めている人は「源泉徴収票」などで交通事故前の所得を示しやすいです。
しかし、子ども・主婦・学生など金銭的収入を得ていない場合は、加害者側から「基礎年収」を低く見積もられる可能性があります。
弁護士に相談することで、不当に低い基礎年収を適用されないように主張していきます。
十分な補償を受けられるようにしましょう。
後遺障害等級の申請方法|肩鎖関節脱臼の場合
実際に肩鎖関節脱臼で後遺障害等級の申請をして、後遺障害慰謝料を受け取るまでの流れをみていきましょう。
①症状が固定される
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった状態を症状固定といいます。
後遺障害等級認定を受ける場合は、原則事故から約6ヶ月以上経っている必要があります。
これ以上治療期間が短い場合は、後遺障害としては認められない可能性が高くなります。
②後遺障害診断書・医学的根拠などの資料を提出
症状固定の診断を受けたら、後遺障害等級認定に向けて後遺障害診断書などの資料を準備します。
後遺障害の申請には、2つの方法があります。
一つは事前認定、もう一つは被害者請求といいます。
事前認定
被害者が後遺障害診断書のみを任意保険会社に提出します。
被害者の手間が最小限で済むことがメリットです。
しかし、加害者側の任意保険会社がどんな資料を提出したかなどは知ることができません。
被害者請求
被害者が経過証明書などその他の資料も用意して自賠責保険に提出します。
被害者請求は資料を集めたり提出したりするのが被害者自身になるので、事前認定と比べて手間がかかってしまいます。
しかし、後遺障害等級の認定に有利な資料を自分で精査して提出でき、より説得的な申請が可能です。
また、認定にあたって不利な事情があれば、補足説明を添付するなど工夫ができます。
被害者請求は被害者自身が資料を集めたりする手間がかかるデメリットがありますが、弁護士に依頼することで解消できます。
⇒被害者請求 + 弁護士依頼が、後遺障害認定を目指すのに最適な組み合わせといえます。
比較
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
請求者 | 相手方保険会社 | 被害者自身 |
メリット | 資料収集の手間がない | 自分で資料を確認できる |
デメリット | 自分で資料を確認できない | 資料収集の手間がかかる |
③損害保険料率算出機構による書面審査
提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の審査を行います。
審査結果をふまえ、自賠責保険会社が等級認定を行います。
審査は書面で行われます。たとえば「肩鎖関節脱臼により腕が上がりません」という記述のみではなく、
- どういった角度までしか上がらないのか
- それによって生じる仕事への影響
など、より具体的に記載することが必要です。
後遺障害認定を行うのは主治医ではなく、被害者にあったことがない人です。
「治療の経過」「実際の状況」などはすべて書面で伝えていく必要があります。
より細かな認定手順、後遺障害診断書の書き方などについては以下の記事を参照してください。
後遺障害等級の申請について
肩鎖関節脱臼で「腕があげられない」の後遺障害
肩鎖関節脱臼による機能障害(可動域制限)の後遺障害等級は何級?
腕があげられないことは「機能障害」として後遺障害に認定されます。
認定される可能性がある後遺障害等級は以下のようになります。
後遺障害等級
肩鎖関節脱臼による機能障害
等級 | 内容 |
---|---|
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
上肢というのは、肩から手の指先までをさします。
肩・ひじ・手首を上肢の3大関節といいます。
3つの違いは
- 8級:一関節が用を廃している
- 10級:一関節に著しい障害が残っている
- 12級:一関節に障害が残っている
こういった障害の程度に違いがあります。それぞれの意味を押さえておきましょう。
8級・用を廃する
関節がまったく動かない、または障害のない関節と比べ可動域が1/10程度以下の状態
目安としては・・・
⇒屈曲20度以下、外転20度以下両方の基準を満たす場合とされる
10級・著しい機能障害
肩関節の可動域が、怪我をしていない方の肩関節の1/2以下に制限されている状態
目安としては・・・
⇒屈曲90度以下、外転90度以下いずれかの基準を満たす場合とされる
12級・機能障害
肩関節の可動域が、怪我をしていない方の肩関節の3/4以下に制限されている状態
目安としては・・・
⇒屈曲135度以下、外転135度以下いずれかの基準を満たす場合とされる
制限される範囲によって8級・10級・12級の違いが出ます。
後遺障害認定を受ける場合は、どれくらいの制限を受けているのかを示すことがやはり重要といえます。
肩鎖関節脱臼による機能障害(可動域制限)の後遺障害慰謝料の相場は?
慰謝料の金額の算定方法は、相手方が提示してくるもの(自賠責基準・任意保険基準)と、弁護士が交渉することで請求できるもの(弁護士基準)で大きく異なります。
肩鎖関節脱臼による機能障害(可動域制限)に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
後遺障害慰謝料
肩鎖関節脱臼による機能障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級6号 | 324万円 | 830万円 |
10級10号 | 187万円 | 550万円 |
12級6号 | 93万円 | 290万円 |
8級では2.5倍、12級では3倍以上、10級では3倍近くの違いが出ています。
なかでも、12級は弁護士に依頼して受けとる金額が290万円に対し、自賠責基準、つまり加害者側の提案基準ですと100万円にも届きません。
やはり、後遺障害慰謝料の適正な獲得は弁護士に依頼して、裁判でも使われている「弁護士基準」で交渉すべきです。
肩鎖関節脱臼による「痛み」「しびれ」の後遺障害
肩鎖関節脱臼による痛みやしびれの後遺障害等級は何級?
脱臼部位に痛みやしびれが残ってしまうことがあります。
その痛みは「神経症状」として後遺障害に認定される可能性があります。
可能性のある後遺障害等級は次の通りです。
後遺障害等級
肩鎖関節脱臼による痛み・しびれ
等級 | 症状 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級と14級の違いは?
痛みが残っていることが画像診断・検査で明らかになった場合は12級、 特にそういった資料がないが事故との因果関係が認められる場合は14級となります。
また、そもそも「痛み」や「しびれ」だけでは、非該当といって後遺障害として認められない場合も多いです。
自覚症状があっても、痛みを「他覚的」に認めてもらうのは難しいことです。
- 自覚症状があること
- 画像所見で神経症状が分かること
- 痛みやしびれの神経症状が仕事に支障をきたしていること
後遺障害認定を受けるには押さえておきたいポイントがあります。
まず14級の認定を目指す人、12級での認定を目指す人、どんな方でも交通事故解決に特化した弁護士への相談がおすすめです。
肩鎖関節脱臼による痛みの後遺障害慰謝料の相場は?
痛みやしびれについては、後遺障害12級または後遺障害14級に認定される可能性があります。
それぞれ対応する後遺障害慰謝料は以下のとおりです。
後遺障害慰謝料
痛み・しびれの後遺障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
注目すべきは、弁護士基準だとどちらでも100万円超の後遺障害慰謝料が見込めることでしょう。
一方、自賠責基準ではどちらも弁護士基準の1/3未満となっております。
加害者側の提案金額は決して十分ではありません。
肩鎖関節脱臼による「変形」の後遺障害
肩鎖関節脱臼による変形の後遺障害等級は何級?
肩鎖関節脱臼により、外見上、鎖骨が盛り上がったままになる可能性が考えられます。
これは鎖骨の変形として後遺障害に認定されうるものです。
鎖骨の変形が該当する後遺障害等級は以下の通りです。
後遺障害等級
肩鎖関節脱臼による変形
等級 | 症状 |
---|---|
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
「変形」とは裸体になったとき変形が明らかに分かる程度である必要があります。
「レントゲン検査したら変形していることが分かった」などは該当しません。
肩鎖関節脱臼による変形の後遺障害慰謝料の相場は?
変形の症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
後遺障害慰謝料
変形の後遺障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級5号 | 93万円 | 290万円 |
ここで注意が必要なのは、「後遺障害」が労働能力の喪失を伴う必要があることです。
後遺障害とは
- ① 交通事故による傷病が原因
- ② 医学的治療を継続するなど適切な治療をしたが、症状が残った
- ③ 将来にわたって回復が難しいとおもわれる肉体的・精神的な症状
- ④ 症状の存在が医学的に認められ、労働能力の喪失を伴うもの
「鎖骨の変形が労働能力の喪失にはあたらない」として否定した判決もあります。
交通事故の解決実績が豊富な弁護士に依頼をすることで、
- 被害者の職業(見た目が要求される仕事ではないか)
- 変形以外にも該当しうる後遺障害はないか
交通事故の解決実績が豊富な弁護士であれば、後遺障害認定のためのポイントを押さえながら、被害者の方の話を丁寧に伺います。
肩鎖関節脱臼の後遺症に関するお悩みは弁護士にご相談ください
肩鎖関節脱臼はその脱臼の程度によって治療法から残りうる後遺障害まで変わります。
一言「腕が上がらない」という状態も、どれくらい腕が上がらないのかに焦点をあてて、検査結果などを踏まえて具体的に主張することで後遺障害認定を目指すことが可能です。
相手方保険会社から提示される慰謝料・逸失利益は被害者の受けた損害に対して不十分なことがあります。
損害に対する十分な補償を受け取るためには、弁護士に依頼することが一番です。
保険会社との示談交渉などを一任することで慰謝料増額が叶うだけではなく、手続きの煩雑さなどから解放されます。
肩鎖関節脱臼による慰謝料はいくらになるのか、通院に関する注意、後遺障害等級の申請方法など、どのようなことでも結構です。
まずはお気軽にLINE・電話での無料相談をご利用ください。
(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。
弁護士無料相談をご利用ください
相談依頼は今すぐ!
弁護士プロフィール
岡野武志弁護士