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作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
交通事故などで関節を人工関節にした場合には、身体障害者手帳を受け取れる可能性があります。
以前は人工関節を入れることで一律障害者手帳の交付を受けることが出来ました。
ですが改正により、異なる基準が定められました。それがどのようなものか、弁護士が解説いたします。
目次
まず、人工関節とはどのようなものなのでしょうか。
変形などの障害が残った関節と入れ替える、金属・セラミック・ポリエチレンなどで出来た人工の関節
例えば、股関節を構成する大腿骨や肩関節を構成する上腕骨などを骨折してしまった場合、その程度によっては元通りに関節を動かすことが困難になります。
そのようなとき、悪くなった関節を取り除き、人工関節に置換する手術を行うことがあります。
上半身では肩関節・肘関節、下半身では股関節・膝関節・足関節を人工関節にすることがあります。
なお、足関節の人工関節はさほど多くは使われていません。手関節は複雑な動きが多く、また体重を支える動きはしないため人工関節を使用しないことが一般的です。
関節を動かしやすくなるだけでなく、関節を動かす際の痛みがとれるのが大きな特徴です。
障害者手帳にはいくつかの種類がありますが、今回は人工関節への置換で受け取れる可能性のある身体障害者手帳について解説します。
身体障害者福祉法に定める身体障害がある者につき、都道府県知事などが交付する手帳
実は、2014年以前は人工関節に置換した場合はほぼ無条件に障害者手帳を受け取れていました。
ですが人工関節の技術進化に伴って基準の改正がなされたため、後述する「条件」を満たせば身体障害者手帳を受け取れるようになりました。
身体障害者手帳があることで、主なものでは以下のようなメリットがあります。
より具体的な補償内容は、所属する自治体や障害の程度によっても異なります。
お住まいの地域の福祉事務所などで相談してみましょう。
それでは、身体障害者手帳を受け取ることのできる「条件」について解説していきます。
身体障害者手帳を受け取れることのできる身体障害の種類・程度は定められています。
その種類を一覧にし、程度で1級から7級まで定めたのが身体障害程度等級です。
6級以上であれば、身体障害者手帳を受け取ることが出来ます。
すると7級の障害がある場合は、障害者手帳を受け取れないようにも思えます。
ですが、2つ以上の等級が重複する場合には、重複する障害の合計指数で等級を決定します。
等級と指数
等級 | 指数 | 合計指数 |
---|---|---|
1級 | 18 | 18~ |
2級 | 11 | 11~17 |
3級 | 7 | 7~10 |
4級 | 4 | 4~6 |
5級 | 2 | 2~3 |
6級 | 1 | 1 |
7級 | 0.5 | – |
例えば、7級(指数0.5)の障害が2つ残っているとします。
その場合、障害の合計指数は0.5+0.5=1、合計指数1に対応する等級を見て6級となります。
等級にまで影響が及ぶことはあまり無いのですが、参考として記載します。
腕や足に複数の障害が残った場合の「肘関節と肩関節を両方人工関節にし、それぞれ可動域に制限が出た」というような場合は事情が異なります。
その場合、より上位の関節部位から欠損した場合の等級が限度となります。
例えば肩関節全廃(4級)、肘関節全廃(4級)の場合、手関節全廃(4級)の場合、合計指数は12となるはずです。
ですがこの場合、「肩関節から欠損した場合(2級)」の指数、11が限度となるため「合計指数11」となります。
実際に身体障害者手帳を受け取るまでのおおまかな流れは以下のようになります。
なお、障害の程度や申請先の自治体によって細かな手順は異なるので注意が必要です。
身体障害者手帳を手に入れるまで
①身体障害者診断書・意見書の用意 |
---|
↓ |
②障害者手帳の申請 |
↓ |
③手帳交付の決定 |
市区町村の福祉事務所や障害福祉担当課に行き、申請用紙を受け取ります。
そこで教えてもらえる指定医のもとへ赴き、身体障害者診断書・意見書を記入してもらいます。
身体障害者手帳の申請には一定期間の通院も必要なので、以前の通院先の検査結果なども持参するとスムーズです。
診断書に写真を添付し、市区町村の同窓口にある交付申請書を記入します。
なお、申請にはマイナンバーが必要なこともありますので、改めて確認しておくようにしましょう。
通常、申請から1カ月程度で交付が決定されます。
ただし障害の内容や、さらに専門的な審査が必要であると考えられる場合はさらに数カ月かかることがあります。
受け取った身体障害者手帳に有効期限はありません。
なお障害の状態が変わったり、無くなったりした場合は「等級変更」「変換」などを窓口に申請する必要があります。
身体障害程度等級を見る前に、人工関節に関する等級を決めるための考慮要素2つを見てみましょう。
人工関節を入れたことによる身体障害程度等級の決定には、主に
の2つが関わってきます。
関節の可動域とは、各関節で日常的によく行う動作について、どの程度関節を動かすことができるかを表すものです。
それぞれどのような動作を計測するかは、各関節によって異なります。
測定する動作
関節 | 可動域を測る動作 |
---|---|
肩関節* | 屈曲+伸展(腕を前方で上げ下ろしする運動) 外転+内転(腕を側面で上げ下ろしする運動) 外旋+内旋(肘を曲げた状態で左右に振る運動) |
肘関節 | 屈曲+伸展(肘を曲げ伸ばしする運動) |
股関節* | 屈曲+伸展(腿を前後にあげおろしする運動) 外転+内転(腿を左右に振る運動)など |
膝関節 | 屈曲+伸展(膝を曲げ伸ばしする動き) |
足関節 | 背屈+底屈(足首を曲げ伸ばしする動き) |
*すべての動作について基準を満たす必要がある
徒手筋力テストとは、徒手(素手)で筋力の低下を評価する手法です。
被験者に力を入れさせ、筋肉が伸張している部分に触れながらも逆方向に力を加え、筋力の維持能力をテストします。
6段階基準
レベル | 程度 |
---|---|
5(Normal) | 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる |
4(good) | 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる |
3(Fair) | 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる |
2(Poor) | 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる |
1(Trace) | 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない |
0(Zero) | 筋の収縮は全く見られない |
各運動方向の平均値を全体として6段階で評価します。
また、各段階の中間的な筋力と評価された場合は5-、4+などとも評価されます。
目安として、健康な日常生活を営むためには3以上の評価が必要と言われています。
なお、等級の認定にあたっては以下のような注意点があります。
「関節の可動域」では等級の基準を満たしていても「徒手筋力テスト」では基準を満たしていないような場合もあります。
そのような時は、動作能力や活動能力も考慮しつつ、機能障害全般を総合したうえで障害を認定します。
ですので、関節可動域や徒手筋力テストの結果はあくまでも等級認定のための目安となります。
では実際に、各関節を人工関節にした場合に認定される身体障害程度等級を見てみましょう。
肩関節を人工関節とした場合、その可動域などによって等級が認定されます。
肩関節を人工関節とした場合
4級 1上肢の肩関節の機能を全廃したもの |
---|
・関節可動域がいずれも30度以下 ・徒手筋力テストで2以下 |
5級 1上肢の肩関節の機能の著しい障害 |
・関節可動域がいずれも60度以下 ・徒手筋力テストで3にあたるもの |
7級 1上肢の肩関節の機能の軽度の障害 |
・関節可動域がいずれも90度以下 ・徒手筋力テストで4にあたるもの |
身体障害者手帳が受け取れるのは6級以上でしたから、
には、身体障害者手帳が受け取れる可能性があります。
肘関節を人工関節とした場合、その可動域などによって等級が認定されます。
肘関節を人工関節とした場合
4級 1上肢の肘関節の機能を全廃したもの |
---|
・関節可動域が10度以下 ・徒手筋力テストで2以下 |
5級 1上肢の肘関節の機能の著しい障害 |
・関節可動域が30度以下 ・徒手筋力テストで3にあたるもの ・前腕の回内+回外運動の可動域が10度以下 (肘を曲げて手首を回転させる運動) |
7級 1上肢の肘関節の機能の軽度の障害 |
・関節可動域がいずれも90度以下 ・徒手筋力テストで4にあたるもの |
には、身体障害者手帳が受け取れる可能性があります。
股関節を人工関節とした場合、その可動域などによって等級が認定されます。
肩関節に人工関節を入れた場合
4級 1下肢の股関節の機能を全廃したもの |
---|
・関節可動域がいずれも10度以下 ・徒手筋力テストで2以下 |
5級 1下肢の股関節の機能の著しい障害 |
・関節可動域がいずれも30度以下 ・徒手筋力テストで3にあたるもの |
7級 1下肢の股関節の機能の軽度の障害 |
・関節可動域がいずれも90度以下 ・徒手筋力テストで4にあたるもの |
には、身体障害者手帳が受け取れる可能性があります。
膝関節を人工関節とした場合、その可動域などによって等級が認定されます。
膝関節を人工関節とした場合
4級 1下肢の膝関節の機能を全廃したもの |
---|
・関節可動域が10度以下 ・徒手筋力テストで2以下 |
5級 1下肢の膝関節の機能の著しい障害 |
・関節可動域が30度以下 ・徒手筋力テストで3にあたるもの |
7級 1下肢の膝関節の機能の軽度の障害 |
・関節可動域が90度以下 ・徒手筋力テストで4にあたるもの |
両膝を人工関節にし、両足共に「軽度の障害」となった場合はどうなるのでしょうか。
その場合は「7級の障害が2つ」として、重複のルールから6級に認定されます。
まとめると、
には、身体障害者手帳が受け取れる可能性があります。
足関節を人工関節とした場合、その可動域などによって等級が認定されます。
足関節を人工関節とした場合
5級 1下肢の足関節の機能を全廃したもの |
---|
・関節可動域が5度以下 ・徒手筋力テストで2以下 |
6級 1下肢の足関節の機能の著しい障害 |
・関節可動域が10度以下 ・徒手筋力テストで3にあたるもの |
7級 1下肢の足関節の機能の軽度の障害 |
・関節可動域が30度以下 ・徒手筋力テストで4にあたるもの |
には、身体障害者手帳が受け取れる可能性があります。
人工関節を入れたほかにも怪我があり、腕全体に障害があると認められた場合は以下の等級が認定されます。
上肢全体に機能障害が認められる場合
2級 1上肢の機能の全廃 |
---|
肩関節・肘関節・手関節・手指すべての機能を全廃したもの |
3級 1上肢の機能の著しい障害 |
・5kg以内のものしか持ち上げられない ・肩関節、肘関節、手関節のうち2つを全廃したもの |
7級 1上肢の機能の軽度の障害 |
・精密な運動ができない ・10kg以内のものしか持ち上げられない |
まとめると、
には、身体障害者手帳が受け取れる可能性があります。
腕全体の場合と同様に、足全体に障害があると認められた場合は以下の等級が認定されます。
下肢全体に機能障害が認められる場合
1級 両下肢の機能の全廃 |
---|
・下肢全体の支持、独立性を失い立つこと、歩行が困難 |
2級 両下肢の機能の著しい障害 |
・独歩は不可能であるが、室内において補装具なしの補助的歩行が可能 |
2級 1下肢の機能の全廃 |
・下肢全体の筋力低下により、障害のある足で立位を保持できない |
3級 1下肢の機能の著しい障害 |
・1km以上の歩行不能 ・30分以上立っていられない ・正座、あぐら、横座りいずれも不可能なものなど |
7級 1下肢の機能の軽度の障害 |
・2km以上の歩行不能 ・1時間以上立っていられない ・横座りはできるが正座、あぐらができない |
人工関節となった原因が交通事故の場合、身体障害者手帳以外にも受け取れるものがあります。
それは後遺障害慰謝料です。
身体障害者手帳は、人工関節を入れれば必ずもらえるわけではありません。関節の可動域など、様々な基準があります。
一方で後遺障害慰謝料は人工関節を挿入置換して、相手方が保険に加入していればほぼ確実に受け取ることができます。
後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償
車の交通事故の場合、怪我の治療に要した治療費や車の修理費、慰謝料などは相手方から支払われます。
さらに関節を人工関節に置換するなどの後遺障害が残った場合、そこに後遺障害慰謝料が追加されます。
いくら追加されるのかは、後遺障害を14段階に区分した後遺障害等級によって決定します。
この等級は、身体障害程度等級とは別の基準です。
人工関節や人工骨頭の挿入に関する後遺障害等級は、以下のようになります。
人工関節に関する後遺障害
6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
---|
6級7号 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
8級7号 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの |
10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
10級11号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されていないもの |
6級・8級についてはすべての運動について可動域が制限されていることが必要となります。
もっとも、「可動域」に関しては、身体障害程度等級のものと一部異なる測定を行うものもあります。
後遺障害等級に認定されるか、または身体障害者手帳が受け取れるかは主治医、もしくは交通事故に詳しい弁護士などに聞くのがよいでしょう。
なお、近年の人工関節は脱臼防止の観点から可動域が通常より多少制限されているものの、1/2以下となることは滅多にありません。
そのため、多くの被害者は10級に該当します。
この表に当てはまらない場合、例えば両膝を人工関節にして、特に可動域の制限が無い場合の後遺障害等級は何級になるのでしょう。
両膝を人工関節にしているのですから、左足と右足がそれぞれ10級11号に該当することになります。
このように複数の後遺障害がある場合、併合というルールを用います。
存在する後遺症 | 併合の結果 |
---|---|
5級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を3つ繰り上げる |
8級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を2つ繰り上げる |
13級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を1つ繰り上げる |
14級の後遺障害が2つ以上残存 | 14級のまま |
それ以外 | 最高等級を後遺障害等級とする |
両膝を人工関節にした例ですと、13級以上の後遺障害が2つあることになりますから、重い方の等級が1繰り上がります。
今回は10級が1つ繰り上がり、併合9級として評価されます。
後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料は、以下のようになります。
人工関節
後遺障害慰謝料 | |
---|---|
6級6号・7号 | 1180万円 |
8級6号・7号 | 830万円 |
10級10号・11号 | 550万円 |
もっとも、普通にしているだけでこの金額が受け取れるとは限りません。
通常、相手方の自賠責保険や保険会社が提示してくる金額はこの1/2~1/3ほどであることがほとんどです。
個人の増額交渉にはなかなか応じてくれないことがほとんどであるので、弁護士への依頼が確実な手段でもあります。
その他の後遺障害等級に応じた慰謝料の金額については、以下のページをご覧ください。
障害者手帳を受け取れるか否かは、その後の人生を大きく左右します。
しかしながら人工関節に関する技術の進化により、「人工関節を入れる=障害者手帳を受け取れる」という図式は成立しなくなってしまいました。
症状を正しく把握し、行動しなければ適正な補償を受け取ることが出来ません。
障害者手帳の受け取り以外にも、様々な保険金を受け取ることも出来るということを忘れないようにしましょう。
交通事故に関する法律問題の専門家という立場から、アトム法律事務所ではLINE・電話での無料相談を行っています。
人工関節や障害者手帳取得に関する疑問を、お気軽にご相談ください。
(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。
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岡野武志弁護士