作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)

交通事故てんかん

交通事故とてんかん|事故発生件数とは?事故時の責任や保険について判例とともに解説

交通事故とてんかんの関係とは?

てんかん発作による交通事故の責任とは?

交通事故に関連し、てんかんの患者の方などからはよく以下のような疑問や質問が寄せられます。

  • てんかん患者は自動車や自転車は運転禁止になる?
  • 運転中のてんかん発作による事故件数とは?
  • てんかんが原因の交通事故は刑事責任を問われる?保険金は払われる?

ご覧の記事では交通事故にくわしい弁護士が交通事故とてんかんの疑問について徹底解説していきます。

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交通事故により外傷性てんかんを負ったとき

交通事故などにより頭部に外傷を負ってしまったとき、場合により後遺症として「外傷性てんかん」が残存してしまうことがあります。

外傷性てんかんの症状や治療、予防法について知りたい方はコチラ

頭部外傷をきっかけとした外傷性てんかんの、

  • 症状
  • 治療法
  • 予防法寛解率

などについて知りたい方は、コチラの記事をご覧ください。

てんかん患者は自動車や自転車は運転禁止?診断書による免許取得

かつて、てんかんは免許の絶対欠格事由でした。
現在は法改正が進み、一定の要件を満たしたてんかん患者の方について運転免許を取得、更新できます

その要件とは、具体的には以下の4つです。

てんかん患者の免許取得要件

以下のいずれかに該当すること。

  1. ① 発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
  2. ② 発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後、数年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
  3. ③ 医師が1年間の経過観察の後、「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
  4. ④ 医師が2年間の経過観察の後、「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合

免許取得、更新の際には、これらいずれかに該当することを示す主治医の診断書が必要となります。

また、5年間てんかん発作が起きておらず投薬治療も終了しており、今後も再発のおそれがないという場合を除いて、

  • 中型免許
  • 大型免許
  • 第二種免許

の取得は推奨されていません

てんかんになったら免許取り消し?

免許を所持している状態でてんかんになってしまったときには、原則的に免許取り消しとなる運用になっています。

免許の更新・取得時には、質問票にてんかんの有無について記載しなければなりません。
てんかん発作があるのに無いと回答した場合、刑罰が科せられます

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する
(略:免許の取得、更新の際に)質問票に虚偽の記載をして提出し(略)た者

引用元:道路交通法117条の4

またてんかんの治療にあたる医師は、運転をすることができない状態であるのに運転をし続ける人を、公安委員会に届け出ることができます。
てんかん患者の免許の取得要件が満たされるまでは、原則、運転免許を取得することはできないわけです。

なお、てんかんによる免許取り消しから3年以内に免許取得の要件を満たせた場合には、学科試験と実技試験は免除となります

自転車の運転はできる?

自転車の運転に免許は必要ないため、法的に運転を規制されるということはありません。

ただし、てんかん発作により人身事故を起こした場合には、

  • 過失致死傷罪
  • 重過失致死傷罪

に問われる可能性があります。

過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する
(略)
過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する
(略)

引用元:刑法209条,210条

業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする

引用元:刑法211条

自転車の運転は医師の指導によく従った上で検討すべきと言えるでしょう。

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交通事故とてんかん|事故の責任とは?保険金は支払われる?

ここからはてんかん発作における交通事故の件数や、

  • てんかんによる交通事故の責任
  • てんかんによる交通事故の保険

について解説します。

交通事故とてんかん|発生件数

てんかん発作による人身交通事故は毎年50件100件ほど生じています。
事故全体からの割合としては、毎年0.01%前後で推移しています。

平成24年から平成28年までの5年間の統計を見てみましょう。

てんかん発作による事故件数
人身事故総数てんかんによる事故件数割合
H28499201550.011
H27536899700.013%
H26573842520.009
H25629021570.009
H24665138660.01%

*交通事故統計年報より

交通事故とてんかん|自覚症状なしの場合の責任は?判例をひも解く

自動車の運転中、てんかん発作により人身事故を起こしてしまった場合には危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。

てんかんによる事故で適用される危険運転致死傷罪
法律自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第32
刑罰15年以下の懲役

てんかんにかかる危険運転致死傷罪とは?

危険運転致死傷罪の3条2項の条文は以下の通りです。

自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も(略:15年以下の懲役に処)する。

引用元:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律3条2項

この法律は、正常な運転に支障が生じるおそれがある」という認識のもとで車を運転し、人身事故を起こしたときに適用されます。

具体的にいえば、

  • てんかん発作が発現しつつある状態
  • てんかん発作に陥って運転できなくなるおそれが認められる状態

で車を運転したときに適用されます。

判例を詳解

てんかん発作による交通事故においては、

てんかんにより運転に支障が生じるかもしれないと認識していたか

が重要となります。

参考となる裁判例としては、たとえば下記のようなものがあります。

てんかんによる事故の裁判例
事故態様被告人は車を運転中、てんかん発作の前兆である胸のむかつきを覚えた。
その後、意識障害を起こし赤信号の交差点に加速進入した。
被害車両1台に衝突し、歩行者2名を巻き込んだ。
2名が死亡、1名が後遺障害を残す重症。
判決有罪(危険運転致死傷罪)

*大阪地方裁判所 平成29年2月17日  事件番号:平成27年(わ)第1878号

この事件について、検察官と弁護士はそれぞれ以下のように主張し、争いました。

事件の争点

検察側

運転の開始前から「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあり、その認識があった。

そうでなくても、少なくとも運転中に起こった前兆の発作の後は上記の認識があった。

弁護側

運転の開始前は「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」ではなく、その認識もなかった。

前兆の発作後はすぐに意識を失ったから、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の認識はなく、故意はなかった。

判決では、以下のように認められました。

判決の内容
運転開始前前兆の発作後
正常な運転に支障が生じるおそれなかったあった
認識なかったあった

*大阪地方裁判所 平成29年2月17日  事件番号:平成27年(わ)第1878号

運転の開始前については

  • 前回の発作から10年経っている
  • 運転前にてんかんを示す兆候はなく、体調も普段通りだった

という点が認められ、危険運転致死傷罪には当たらないとされました。

運転中の前兆の発作後は、

  • 前兆の発作後、意識障害に陥るまでには時間があった
  • 前兆の発作が悪化し意識障害に陥る可能性について予見できた
  • 意識障害に陥る前に車を停止させるなど、危険を回避することはできた

として、危険運転致死傷罪に当たるとされました。

結論

事故状況てんかんの病歴発作の発症歴などが詳細に検討される。

  • 「正常な運転に支障が生じるおそれ」のある状態ではなかった
  • 「正常な運転に支障が生じるおそれ」について認識がなかった、認識できなかった

といった場合には、罪は成立しない。

てんかんによる人身交通事故について、無罪になった事例としては下記のようなものがあります。

てんかんの発作で運転中に意識を失い衝突事故を起こしたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の罪に問われた(略:30代の会社員)に、盛岡地裁は(略)無罪(求刑懲役10月)を言い渡した。
(略)
裁判官は12日付の判決で「被告は前兆を感じてからだんだんと目の前が暗くなっていく状態だった。前兆から意識を失うまでの4~5秒間に停車できたと断定するのは疑問」と指摘した。

引用元:産経ニュース2017年12月13日『てんかん発作で衝突事故に無罪 盛岡地裁「停車できず」』

前兆のないてんかんの発作により急激に意識が失われ、危機回避することができなかった

といった態様では、危険運転致死傷罪が成立しない場合もあるわけです。

交通事故とてんかん|保険金は支払われる?

自動車の保険には、自賠責保険任意保険の2種類があります。

自動車の保険

自賠責保険

自動車すべてに加入が義務付けられた強制加入の保険。

交通事故の相手方被害者について、最低限の補償をすることを目的としている。

任意保険

運転者が任意で加入する民間の保険。

自賠責保険では補いきれない分の被害者の賠償や、事故を起こした本人の救済などを行う。

ここでは、

  • てんかん患者も自動車保険に加入できるのか
  • てんかん発作による事故において、保険会社は相手方へ賠償をしてくれるのか
  • てんかん発作による事故において、保険会社は事故を起こした本人に補償をしてくれるのか

について解説しましょう。

てんかん患者も自動車保険に加入できるか

自賠責保険も任意保険も、運転免許証を保有しており車を所有しているという状況であるなら、加入できます。

ただし先述の通り、てんかん患者の方が運転免許を取得・更新するには一定の要件に適っている必要があります。
保険の加入にあたっては免許の提示が求められます。

事故の相手方への賠償

自賠責保険

てんかん発作による事故であっても、自賠責保険は事故被害者に賠償金を支払うのが通常です
自賠責保険が事故の相手方被害者に賠償金を支払わないのは、以下に該当する場合だけです。

自賠責保険の免責事由

その事故が保険加入者の悪意によって引き起こされた事故の場合
積極的に人を轢こうとしたような事故など。

1台の車につき2つ以上の自賠責保険が契約されていた場合
複数の自賠責保険、自賠責共済を契約していた場合、保険金を支払うのは最初に契約していた保険のみ。

通常、てんかん発作による事故はこれら免責事由にはあたりません。

任意保険

任意保険において、事故の相手方被害者へ賠償を行う保険のことを「対人賠償保険」と言います。
対人賠償保険も自賠責保険と同じく、事故の相手方へ賠償金が支払われるのが普通です

任意保険の対人賠償保険は事故被害者の救済を目的としています。
事故の相手方被害者に賠償金が支払われないのは、以下に該当する場合などです。

対人賠償保険の免責事由

親族間の事故
被害者が被保険者の父母、配偶者、子である場合など。

労働災害にあたる事故
業務中に発生した同じ会社の従業員が被害者にあたる事故など。

普通、これらに該当する要素のないてんかん発作による事故の場合、事故の相手方被害者に賠償金が支払われるとみていいでしょう。

自分自身に支払われる保険金

自賠責保険

まず自賠責保険は事故の相手方被害者を救済することを目的としている保険です。
制度上、どのような形態の事故であっても自分自身に支払われる保険金はありません

任意保険

交通事故発生時、自分自身に支払われる保険を「人身傷害保険(または人身傷害補償保険)」と言います。
てんかん発作による事故において、人身傷害保険が支払われるかどうかは、各保険会社の裁量によります

人身傷害保険の支払い
  • てんかんの免許の要件を満たしていないのに運転していた
  • てんかん発作のおそれを認識していながら運転していた

など、態様が悪質であった場合には保険金が支払われない可能性も高い。

態様が悪質でなくても、より慎重な審査が行われたり、保険金が減額される可能性もある。

より具体的な内容については、契約を結んでいる各保険会社に確認をした方が良いでしょう。

まとめ

てんかんと保険の関係

自賠責保険任意保険
加入強制加入加入できる*
対人補償補償される通常、補償される
自身への補償補償されない保険会社の裁量による

*有効な運転免許を保有している場合に限る

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弁護士プロフィール

岡野武志弁護士

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。

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交通事故のてんかんに関するQ&A

てんかん患者も免許の取得・更新はできる?

てんかん患者の方でも、一定の要件を満たしていれば免許の取得・更新が可能です。ただし、免許の更新・取得時には、質問票にてんかんの有無について記載しなければなりません。てんかん発作があるのに無いと回答した場合、刑罰が科せられます。 てんかん患者が免許を取得できる必要条件

てんかん患者が事故を起こした件数はどのくらい?

てんかん発作による人身交通事故は毎年50件~100件ほど生じています。自動車の運転中、てんかん発作により人身事故を起こしてしまった場合には危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。平成24年から28年までの5年間に発生した、てんかん発作による事故件数について知りたい方は以下をご覧ください。 てんかん患者が交通事故を起こした件数は?

てんかんの発作で交通事故を起こすとどうなる?

てんかんにより運転に支障が生じるかもしれないと認識していたにもかかわらず、てんかん発作により人身事故を起こしてしまった場合には、危険運転致死傷罪に問われ、15年以下の懲役が科せられる可能性があります。具体的には、①てんかん発作が発現しつつある状態②てんかん発作に陥って運転できなくなるおそれが認められる状態で運転をしていて、てんかん発作で人身事故を起こしてしまった場合が該当します。 てんかん発作による交通事故の判例

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