作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
高次脳機能障害の慰謝料相場は?交通事故の後遺障害は弁護士に相談を
交通事故で高次脳機能障害を負ってしまった場合、治療を経ても、交通事故により脳に損傷を受けた被害者に認知障害・行動障害・人格変化などが残ってしまう場合があります。
- 高次脳機能障害の慰謝料はいくら?
- 後遺障害等級は何級に認定される?
- 高次脳機能障害の判例が気になる
高次脳機能障害は、その症状の程度によって被害者の生活に与える影響が大きく異なります。つまり、慰謝料の幅も広くなります。これまでの判例も載せていますので、最後までお読みください。
目次
高次脳機能障害の慰謝料は弁護士基準で〇円?後遺障害の等級は?
高次脳機能障害でみられる症状
高次脳機能障害とは、交通事故などによる頭部外傷の後遺症のひとつです。
高次脳機能障害の症状は、3つに大別できます。
- ① 認知障害
- ② 行動障害
- ③ 人格変化
①認知障害 |
これまでの記憶や、新しく体験したことを覚えていられない 気が散りやすい、複数のことを同時に処理できない |
②行動障害 |
まわりの状況に合わせた適切な行動ができない 職場や社会のルールが守れない 危険を予測して回避的な行動がとれない |
③人格変化 |
自発性の低下、怒りっぽくなる 自己中心になる、強いねたみ・こだわりをもつ |
後遺障害の認定を受けるには脳の器質的損傷の存在が前提となります。器質的損傷とは、画像検査で損傷が確認できることをさします。たとえば、脳の萎縮などです。
脳の損傷範囲には、びまん性(広範囲)と局在性の2つがあります。多くがびまん性の損傷によるものですが、実際は局在性の損傷も併発していることが多く、局在性の損傷と高次脳機能障害の関連は否定できません。
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料・後遺障害等級
後遺障害等級とは
後遺障害が程度に応じて1級から14級までレベル分けされています。等級に応じて、「慰謝料」や「労働能力喪失率」が定められています。
後遺障害等級の認定は、「損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)」が行います。高次脳機能障害に該当する可能性がある場合は、専門家で構成される「高次脳機能障害審査会」で審査されます。
後遺障害等級について気になる方は、一覧:後遺障害等級表も確認してみてください。
高次脳機能障害の場合は、従来の等級表に加えて「高次脳機能障害認定基準に関する補足的な考え方」も設けられています。表1は「就労が困難とされる等級」、表2は「就労が限定的ではあるが不可ではないとされている等級」としてまとめています。
まず、就労が困難とされる場合の表1をみてみましょう。
第1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要する |
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の周り動作に全面的介護を要するもの |
第2級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要する |
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
第3級3号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができない |
自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
次に、就労に関して一定の条件下で可能であったり、特に就労に関する記載がないもの(就労に影響しないもの)を表2にまとめています。
第5級2号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない |
単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
第7級4号 神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外に労務に服することができない |
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
第9級10号 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される |
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
第12級13号 |
局部に頑固な神経症状を残すもの |
第14級9号 |
局部に神経症状を残すもの |
等級に応じた慰謝料を確認しましょう。慰謝料には3つの基準があり、その中でも弁護士基準が最も慰謝料相場が高いとされています。
慰謝料の3基準
- 自賠責保険の基準
- 任意保険の基準
- 弁護士基準
ここで、一般に公開されている「自賠責保険の基準」と「弁護士基準」での後遺障害慰謝料を比較してみます。
等級 | 自賠責保険の基準 | 弁護士基準 |
第1級 | 1,600 | 2,800 |
第2級 | 1,163 | 2,370 |
第3級 | 829 | 1,990 |
第5級 | 599 | 1,400 |
第7級 | 409 | 1,000 |
第9級 | 245 | 690 |
第12級 | 93 | 290 |
第14級 | 32 | 110 |
単位:万円
自賠責保険は、車の運転者に加入義務のある保険です。交通事故の被害者救済を目的とし、最低限の補償を行います。補償額には上限があり、自賠責保険だけでは被害者への賠償金が支払えないことがあります。そこで、任意保険で足りない分をカバーします。
任意保険の慰謝料算出基準は、現在公開されていません。しかし、これまでの事例から自賠責保険の基準よりやや高い金額にとどまり、弁護士基準の慰謝料金額には及びません。加害者側の保険会社から提案される賠償額は、弁護士基準を下回っています。適正な慰謝料を受けとるには、弁護士基準での交渉が必要です。
補足
重度の後遺障害(第1級または第2級)については、近親者にも別途慰謝料請求権が認められます。金額の基準はなく、それぞれの事件の事情を考慮して支払われます。もっと詳しく知りたい方は、個別に弁護士へご相談ください。
【自動で簡単】慰謝料計算機はこちら
弁護士基準での慰謝料計算が自動で簡単にできる慰謝料計算機を紹介します。必要項目を入力するだけで、すぐに慰謝料の金額がわかります。
加害者側から提案されている金額との差に驚いたり、なぜこの金額になるのか?という疑問を持つ方もいるでしょう。弁護士への個別相談は示談前に行ってください。示談を書面で取り交わすと、内容変更は原則できません。
高次脳機能障害の慰謝料・後遺障害認定は<弁護士>に相談
弁護士への相談をすすめる理由は、慰謝料の増額だけではありません。もう一つは、適正な後遺障害等級認定を受けるためでもあります。
ここからは、専門医・弁護士等を委員とする「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」の報告書内容もみながら解説していきます。気になる方は、以下のリンクから報告書の原本も確認できますので、参考にしてください。
高次脳機能障害は、見過ごされやすいと指摘されています。
例えば、急性期の合併外傷のために診療医が高次脳機能障害の存在に気付かなかったり、家族・介護者は患者が救命されて意識が回復した事実によって他の症状もいずれ回復すると考えていたり、被害者本人の場合は自己洞察力の低下のため症状の存在を否定していたりする場合などがあり得る。
引用元:損害保険料算出機構 脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定 委員会(2018年5月)報告書
そして、後遺障害等級認定における画像所見の重要性は、最新の報告書でも明確に示されています。
脳の器質的損傷の判断に当たっては、CT、MRIが有用な検査資料であるという従前の考え方に変更はない。
引用元:損害保険料算出機構 脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定 委員会(2018年5月)報告書
近年、画像所見がなくても「後遺障害等級14級以上」の後遺障害が認められる可能性があるとされています。しかし、画像所見の重要性は明らかなようです。
後遺障害認定実績が豊富な弁護士であれば、高次脳機能障害の後遺障害認定で「CT」や「MRI」などの画像検査が重要な医学的証明になることを知っています。つまり、被害者の主張が客観的に認められるような方針をたて、治療と並行して進めることが可能です。
医療機関への周知
脳外傷による高次脳機能障害を評価するうえでは、診療医作成の経過診断書および後遺障害診断書の記載内容が極めて重要である。特に、初診時の被害者の状態(意識障害の有無・帝都・持続時間等)、各種検査結果、被害者の現在までの症状経過などについて、診療医から提供される医療情報が不可欠である。
引用元:損害保険料算出機構 脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定 委員会(2018年5月)報告書
医療機関に向けても周知されるほど、高次脳機能障害は見過ごされやすいものです。そして、もし事故直後に見過ごされてしまえば、後遺障害として認定を受けるために必要な資料がなかったり、検査ができていない、ということになるかもしれません。早めに弁護士に相談・依頼をすることで、事故直後から医師やご家族と連携したサポートができるでしょう。
高次脳機能障害の検査方法など、関連記事でも詳細に解説しています。ぜひ参考にしてください。
高次脳機能障害の関連記事
高次脳機能障害|後遺障害認定の判例3選
これまでに高次脳機能障害と認定された判例をみてみましょう。
【判例①】後遺障害等級:第5級
まず、自賠責および裁判で同様の後遺障害等級が認められた事例を紹介します。
東京地判平16.9.22 |
✓高校生(症状固定時18歳) 単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないものといえる。 |
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称・赤い本)2019より抜粋
【判例②】後遺障害等級:第3級
この事例は、一度後遺障害等級・第5級とされましたが、第3級となった判例です。
東京地判平20.1.24 |
✓トラック運転手(症状固定時43歳) 自賠責では第5級と認定。日常生活動作、意思疎通能力、問題解決能力、作業不可に対する持続性・持久性、社会的行動能力のほか、労災では1級1号、精神障碍者保健福祉手帳1級のなどの事情を考慮し、第3級・労働能力喪失率100%と認めた。 |
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称・赤い本)2019より抜粋
【判例③】後遺障害等級:第7級
この事例は、自賠責では高次脳機能障害非該当とされていましたが、一転して第7級と認められました。
東京地判平22.5.13 |
✓会社員(症状固定時50歳) 自賠責では高次脳機能障害非該当。事故直後、軽度の意識障害があったこと、MRI画像によれば脳の病変や脳挫傷を疑う初見があり、物忘れ症状や新しいことの学習障害、複数の作業を並行処理する能力、集中力等の低下、易怒性、多弁といった性格上の変化がみられることから、高次脳機能障害7級4号・外観醜状などと併合6級とした。 |
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称・赤い本)2019より抜粋
高次脳機能障害は、急性期には重篤な症状が発現していても、時間の経過と共に軽減する傾向にあります。したがって、継続的に検査を行って回復の推移を確認することが望ましいです。また、被害者の近親者や職場の同僚の証言などが、重要な判断材料となっています。
高次脳機能障害の慰謝料は交通事故の弁護士にご相談ください
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高次脳機能障害は、症状が重篤なまま続くこともあれば、徐々に軽減することもあります。時間の経過と共に変化する被害者の症状を、客観的に説明して交渉するには「実績・経験」が重要です。だからこそ、依頼する弁護士は誰でもいいわけではありません。弁護士を探す際には、交通事故の解決実績を必ずチェックしてください。
アトム法律事務所は「交通事故と刑事事件の地域一番の弁護士事務所として、 相談者のお悩みとお困りごとを解決すること」を目指しています。交通事故の高次脳機能障害についても多数の解決実績がありますので、ご安心ください。無料の相談は24時間365日受け付けています。LINE相談も、相談者のペースで利用でき、好評です。
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まとめ
高次脳機能障害は、「認知障害」、「行動障害」、「人格変化」などあらゆる角度から、被害者の方に影響がみられます。被害者は、自分の後遺障害を正しく認識できなかったり、集中が続きにくかったりと、示談や裁判と向き合うことが困難になります。そして、障害の程度が重ければ重いほど、被害者のご家族の生活も一変するでしょう。より良い将来のため、まずは弁護士と共に、適正な補償を受けとることから始めませんか。
弁護士プロフィール
岡野武志弁護士
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。