作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)

交通事故整骨院

交通事故で整骨院に通いたい被害者が注意すべき点【弁護士解説】

整骨院に通院する際の注意点は?

交通事故で頸椎捻挫などになると、整骨院に通いたいと思う被害者の方も多いようです。

  • 医師の許可なしで整骨院に通院するのは絶対にだめなの?
  • 整形外科と併用して通う場合の流れは?
  • 整骨院に通院するケースですべきでないことは何かある?

上記のようなお悩み・疑問に対し、交通事故に注力する弁護士が解説していきます。

交通事故で鞭打ちになった場合、整形外科ではなく整骨院に通院される方も多くいます。
街中でも「交通事故対応」と書かれた整骨院のポスター・チラシ・看板をよく見かけます。
しかし、整骨院の広告規制では「交通事故」の文言を使ってよいかは争いがあります。

整骨院で行われるのは「施術」であり、「診断」や「治療」は医師のいる整形外科などでしか行えません
(詳しくは「整形外科と整骨院(接骨院)との違い」をご覧ください。)
そのため、交通事故で整骨院に通院する際には注意しなければならないことがあります。

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医師の許可なしで通院する3大リスク

まず法律上、脱臼や骨折などのケガについては、応急手当の場合を除いて医師の許可なしでは整骨院には通院できません

柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。

引用元:柔道整復師法第17条

一方、頸椎捻挫や打撲などのケガについては、法律上は必ずしも整骨院への通院について医師の許可は必要とはされていません。

もっとも、交通事故の場合、医師の許可なしで整骨院に通院すると以下のようなリスクがあります。

①整骨院の通院日数が慰謝料計算されない

交通事故の入通院慰謝料治療期間や通院日数を基礎に計算されます。

整骨院への通院について医師の許可がある場合、治療期間や通院日数は整形外科と整骨院の両方を基礎に慰謝料は計算されます。

しかし、医師の許可なしで通院すると、整骨院の通院日数が慰謝料計算に含まれず、受け取れる通院慰謝料が減るリスクがあります。

慰謝料の相場がいくらか計算してみたい方へ

具体的に受け取れる通院慰謝料の相場については、以下の慰謝料計算機

  • 治療期間
  • 通院日数

を入力するだけで簡単に計算ができます。

上記の慰謝料計算機で計算できる金額は

  • 自賠責保険基準(自賠責保険に請求した際の金額を計算する基準)
  • 任意保険基準(任意保険が被害者に提示する金額を計算する基準)
  • 弁護士基準(弁護士が代理人として請求する金額を計算する基準)

のうち、受け取れる金額が一番高くなる弁護士基準で計算された金額になります。

各基準ごとの詳しい計算方法は「交通事故で整骨院へ‥‥入院慰謝料は整形外科の半額?」でご紹介しています。

②治療費の否認・保険会社の早期打ち切り

整骨院に医師の許可なしで通院すると、慰謝料だけではなく、治療費まで受け取れなくなるリスクもあります。
交通事故における整骨院の治療費(施術の費用・料金)につき、実務上の基準となる赤い本には以下のように記載されています。

症状により有効かつ相当な場合、ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向にある

引用元:公益財団法人 日弁連交通事故相談センター東京支部編 (2019) 「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」p.3

つまり、整骨院への通院につき医師の許可がない場合、被害者側で

有効かつ相当な施術であったことを証明

できなければ、治療費(施術の費用・料金)が賠償金として認められない(否認される)というリスクがあります。

また、交通事故では、治療費について任意保険会社が一括対応してくれるケースが多くなります。

一括対応とは

任意保険会社が通院先に対して直接治療費や施術の費用・料金などを支払う対応などをすること

しかし、医師の許可がない場合、保険会社は早期に

一括対応の打ち切り(整骨院からの施術費用・料金の支払い請求を拒否する)

をすることが多くなります。

治療費や施術費用・料金の一括対応は実質的に賠償金の先払いということになります。

しかし、医師の許可なしの場合、賠償金として認められるか不確実なため、一括対応が早期に打ち切りされるリスクもあります。

③後遺症認定のための診断書をもらえない

整骨院に通院したものの、残念ながら痛みなどの後遺症が残ってしまう場合もあります。

交通事故では、そのような後遺症に対する慰謝料を受け取るには、後遺障害等級認定を受ける必要があります。

そして、その申請には後遺障害診断書が必要になります。

この診断書を作成できるのは「診断」を行える医師だけになります。

しかし、整骨院に医師の許可なしで通院していた場合、

治療の経過を把握していない

点を理由に医師に後遺障害診断書を作成してもらえず、後遺障害等級認定を受ける機会を失う可能性があるというリスクがあります。

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整形外科と整骨院を併用する際の流れ

交通事故で整骨院に通いたい場合、医師の許可をもらうだけではなく、整形外科にも引き続き通院すべきといえます。
つまり、整形外科から整骨院に完全に転院するのではなく、両方を併用すべきということです。
治療をいつまですべきかや後遺症が今後も残存するかの診断は、医師のいる整形外科でしか行ってもらえないからです。

ここからは、整形外科と整骨院を併用する場合、具体的にはどのような流れになるかをお伝えしたいと思います。

①整骨院に通院する同意書を病院でもらう

整骨院に通いたいと考えた場合、まずは医師の許可がもらえるかどうかを確認しましょう。
整形外科によっては、病院でのリハビリが時間などの関係で困難な場合、提携の整骨院を紹介してくれる場合もあります。
医師の許可がもらえる場合、同意書という書面の形にしてもらうのがベストといえます。

もっとも、実際には整形外科の医師は、整骨院への通院に否定的なことも多く、同意書をもらえるケースは少ないと考えられます。
そのため、ここでいう「医師の許可」とは、整骨院での施術について、医師が消極的に承諾した場合も含むと考えられています。
この点につき、実務上の基準となる青本には以下のように記載されています。

医師の指示は積極的なものでなくとも、施術を受けることによる改善の可能性が否定できないことから、とりあえず施術を受けることを承諾するという消極的なものも含まれる。

引用元:公益財団法人 日弁連交通事故相談センター研究研修委員会編 「交通事故損害額算定基準 26訂版」p.12

②どちらを健康保険適用にするかを決める

交通事故などによる外傷性の打撲・捻挫などに対しては、整骨院の施術も健康保険適用になります。
もっとも、整形外科と整骨院を併用する場合には、どちらか一方にしか健康保険は適用されない点に注意する必要があります。
そのため、整形外科と整骨院の両方に通院することになった場合は、どちらの通院を健康保険適用にするかを決める必要があります。

どちらを健康保険適用にすべき?

一概には言えませんが、治療費の自己負担額を抑えるという観点からは、整骨院の方を健康保険適用にすべきケースが多いです。
整形外科の治療費よりも整骨院の施術費の方が高額になるケースが多いからです。
ただし、手術をするケースや画像を数多く撮るケースなどでは整形外科の治療費の方が高額になるケースもあるので注意が必要です。

なお、交通事故での整骨院の治療費(施術費)の相場がいくらかを具体的に知りたい方は

「整形外科と整骨院(接骨院)との違い ③治療費の相場・算定方法」

をご覧ください。

③治療期間がいつまでかは医師と相談する

交通事故では、整形外科や整骨院の治療費が加害者側から支払われるのは症状固定の時期までになります。

症状固定とは

傷病の症状が安定し、医学的な治療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態

イラストにすると以下のような状態のことをいいます。

症状固定のタイミング

この症状固定の判断は、「診断」を行える医師の見解が重視されます。

そのため、整骨院への通院も含め、治療期間をいつまでにするかは医師のいる整形外科で相談の上、決めるという流れになります。

そして、症状固定時に痛みなどの症状が残っている場合には、医師に後遺障害診断書を作成してもらった上で

後遺障害等級認定の申請

をするという流れになります。

併用する際の流れまとめ
  1. ① 医師の許可をもらう(同意書がもらえるのがベストだが、消極的な承諾でも足りる)
  2. ② どちらを健康保険適用にするか決める(整骨院を健康保険適用にすべきケースが多い)
  3. ③ 治療をいつ終了にするかは医師と相談の上決める(「診断」をできるのは医師だけ)
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整骨院への通院ですべきではないこと

整骨院への通院は、医師の許可をもらうなど適切な手続きを踏めば

  • 症状の早期改善が見込めることもある
  • 病院よりも遅い時間まで受け付けているところが多く通院しやすい
  • 痛みの和らぎを実感できることが多い

などメリットも数多くあります。

ただし、整骨院へ通院する際には、以下のことをしないように注意する必要があります。

毎日通院して通院日数を稼ごうとする

整骨院に医師の許可を得て通院した場合、慰謝料は整形外科と整骨院の両方の通院日数を基礎に計算されます。
そのため、通いやすい整骨院に毎日通院して通院日数を稼ぐことを考える方がいるかもしれませんが、それはすべきでありません。

そもそも、慰謝料との関係では、毎日通院しても、1日おきに通院しても受け取れる慰謝料の金額は同じになります。

さらに、毎日通院すると治療費がかさみ、治療効果がないものと判断されやすくなるため、一括対応が打ち切られやすくなります

それだけでなく、場合によっては「過剰診療」と判断され、通院済みの治療費も支払ってもらえなくなる可能性があるからです。

通院日数や施術部位の水増しに応じる

ごく一部の整骨院ですが、患者に対し、通院日数の水増しを持ち掛ける所があるようです。
通院日数を水増しすれば、整骨院は施術費により、患者は慰謝料により儲かるからです。
しかし、通院日数の水増しは刑法上の詐欺罪に該当する行為ですので絶対に応じてはいけません
実際に、通院日数の水増しにより詐欺罪で逮捕されているケースもあります。

交通事故に伴い接骨院に通院した日数を水増しして保険金をだまし取ったとして、県警が寒川町で接骨院を経営する男と、この接骨院に通院していた患者7人の計8人を詐欺容疑で逮捕していたことが28日、捜査関係者への取材で分かった。

引用元:神奈川新聞  2018年10月29日 10:35

また、施術部位が多いほど整骨院は儲かることを理由に施術部位の水増しを持ち掛けられることもまれにあるようです。
施術費は通常保険会社が支払ってくれるため、安易に応じてしまいがちですが、こちらも絶対に応じてはいけません
通院日数の水増し同様、施術部位の水増しも刑法上の詐欺罪に該当し、共犯として罪に問われる可能性があるからです。

整骨院と整形外科を両方同じ日に通院する

整形外科と整骨院を併用する際に注意すべきなのは、両方同じ日に通院しないということです。
その理由はまず、両方同じ日に通院したとしても、慰謝料計算の関係では1日として扱われることになってしまうからです。
それだけならまだいいのですが、いずれか一方の治療費・通院費が支払われない可能性もあるからです。

すべきでないことのまとめ
  1. ① 毎日通院する(慰謝料計算の点だけでなく、治療費の点でも過剰と判断されるから)
  2. ② 通院日数などの水増しに応じる(刑法上の詐欺罪に当たる行為だから)
  3. ③ 整形外科と同じ日に通院する(一方の治療費や通院費を支払ってもらえない可能性があるから)
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整骨院に通いたい方は弁護士に相談

交通事故で、整骨院に通いたいと思っていても、適切な手続きを踏まないと

  • 慰謝料や治療費を適切に受け取れなくなってしまう
  • 後遺症が残ってしまってもそれに対する適切な補償が受けられなくなってしまう

可能性があります。

交通事故に注力するアトム法律事務所の弁護士に相談頂ければ、そのような事態を避けるためのアドバイスが可能です。

アトム法律事務所の特徴
  • 交通事故の相談は無料
  • 電話、LINE、メール、来所面談など様々な相談方法が選べる
  • LINEや電話は24時間365日、順次専門スタッフが受付中

アトム法律事務所には、様々な交通事故についての解決実績があります。
ぜひお気軽にご相談ください。
なお、弁護士費用特約が利用できる場合は、相談だけでなく、弁護士に依頼する場合の弁護士費用も無料になる可能性があります。
ご相談の前に弁護士費用特約が利用できるかどうかを確認しておくと、相談がよりスムーズに進みます。
弁護士費用特約の内容については、アトム法律事務所代表弁護士が解説している以下の動画でわかりやすく解説しています。

弁護士費用特約に関するご不明点があれば、その点も併せて気軽にご相談ください。

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まとめ

この記事のポイントは以下の点です。

  • 頸椎捻挫や打撲などのケガについては、医師の許可なしで整骨院に通院するのも不可能ではないがリスクが大きい
  • 整形外科と併用して通う場合、医師の同意を得た上で、治療期間をいつまでにするかは医師と相談して決める
  • 整骨院へ通院する場合、毎日の通院・通院日数の水増しに応じる・整形外科と同じ日に通院することなどはすべきでない

弁護士プロフィール

岡野武志弁護士

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。


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