作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
交通事故で脳梗塞|麻痺・しびれの後遺症が…後遺障害慰謝料は何円?
この記事のポイント
- 脳梗塞は「麻痺」「高次脳機能障害」などの後遺障害が残る可能性がある
- 慰謝料の額は後遺障害の「等級」ごとに変動する
- 弁護士に示談交渉を依頼すれば2~3倍の慰謝料増額の可能性がアップする
脳梗塞は脳の一部が詰まることで脳細胞に十分な酸素や栄養がいきわたらず脳に重大なダメージを与える病気です。麻痺やしびれなど永久的な後遺症が残る可能性があります。交通事故でこのような損害を被ることになったら、適正な補償は得られるのでしょうか。
- 脳梗塞の治療は手術?薬物療法?
- 脳梗塞の後遺症はどのようなものがある?
- 痛み・しびれでも後遺障害になる?
目次
奈良県立医科大学付属病院アトム法律事務所顧問医
藤井 宏真医師
脳梗塞を放置すると麻痺・感覚障害など日常生活に支障をきたす後遺症が残る可能性が高いです。顔がゆがむ、ろれつが回らない、歩きにくいなど脳梗塞の初期症状がみられたら早急に病院を受診するようにしてください。
脳梗塞の基礎知識|交通事故で頭を打ったら何科に行く?
脳梗塞の症状
脳梗塞が生じた脳の箇所によって現れる症状は異なりますが、以下のような症状が代表的にみられます。
脳梗塞の症状
- 片方の手足に麻痺
- 片方の手足にしびれ
- しゃべりづらいなどの言語障害
- ふらついて歩きづらい
- めまい
- 意識障害
などの症状がみられることが多くなっています。
脳梗塞の治療は何科で受ける?
脳梗塞は、神経内科・脳神経外科・脳外科を受診しましょう。
脳梗塞の初期症状として、
- 顔がゆがむ
- 表情がつくれなくなる
- 片手・片足が動きづらくなる
- 歩きづらい
- ろれつが回らない
- 言葉が出てこない
などがあげられます。このような初期症状を感じたら、すみやかに病院を受診してください。
脳梗塞の治療|手術?薬物治療?
脳梗塞は大きく、
- ラクナ梗塞:脳内の細い血管が詰まる
- アテローム血栓性脳梗塞:脳や首の太めの血管が動脈硬化で詰まる
- 心原性脳塞栓症:心臓の中でできた血栓が血流にのって脳の血管で詰まる
このような3つに分類することができます。それぞれの脳梗塞の種類ごとに治療方法が異なります。
治療方法
▼ラクナ梗塞/アテローム血栓症
(薬物治療)
抗血小板薬
(手術)
- 頚動脈内皮剥離術
- ステント留置術
▼心原性脳塞栓症
(薬物治療)
抗凝固薬
といった治療がおこなわれることになります。
脳梗塞の後遺症|しびれは後遺障害にあたる?
後遺症(後遺障害)
十分な治療をおこなっても、改善が見込めなくなった状態で残存する症状
交通事故の場合、障害の部位・障害の程度により14段階の後遺障害等級で区分される
脳梗塞が原因で生じることがある後遺障害には以下のようなものがあります。
脳梗塞の後遺症
- 感覚障害(痛み・しびれなど)
- 高次脳機能障害
- 麻痺
それぞれがどのような症状で、後遺障害等級は何級が認定されるかは次章にて詳し解説します。
脳梗塞で慰謝料は増えるのか?
脳梗塞の後遺症で増える保険金|後遺障害慰謝料・逸失利益
後遺障害等級に認定されると、治療費などに加えて相手方から支払われる金銭が増えます。
後遺障害が残った場合、追加で請求できる金銭の一つが後遺障害慰謝料です。
後遺障害慰謝料
後遺障害を負ってしまったという精神的な苦痛に対して支払われる損害賠償
後遺障害慰謝料の他に、追加で請求できる金銭として逸失利益があります。
逸失利益
後遺障害を負ったことで労働能力が低下したり失われたことで、将来的な収入が減ることへの補償
〈計算方法〉
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数
逸失利益を算定するために必要な「労働能力喪失率」は、
- 障害の部位
- 障害の程度
- 職業
- 事故前年の収入
などを考慮して増減することがあります。
主婦などにおける年収算定方法・ライプニッツ係数一覧などはこちらの記事で詳しく解説しています。
後遺障害等級の申請方法|脳梗塞の場合
脳梗塞で後遺症が残った場合、後遺障害等級の申請~後遺障害慰謝料を受け取るまでの流れを見てみましょう。
①症状固定
治療を継続しても症状の改善が期待できなくなった状態を症状固定と言います。
後遺障害等級認定を受ける場合、事故発生から原則として約6カ月以上は経過している必要があります。
これよりも治療期間が短いと、後遺障害としては認められない可能性が高くなります。
②後遺障害診断書・医学資料の用意
症状固定の診断が医師から出されたら、後遺障害等級認定に向けた後遺障害診断書などの資料準備にとりかかります。
後遺障害の申請方法としては、2種類あります。
→被害者が後遺障害診断書のみを任意保険会社に提出する事前認定
→被害者が後遺障害診断書に加えてその他資料も自ら用意して自賠責保険に提出する被害者請求
被害者請求は資料を集めるという手間が必要になりますが、後遺障害等級の認定に有利とされる資料を自ら精査できるのが強みです。なお、弁護士に依頼すると資料収集作業も任せることができます。
比較
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
請求者 | 相手方保険会社 | 被害者自身 |
メリット | 資料収集の手間がない | 自分で資料を確認できる |
デメリット | 自分で資料を確認できない | 資料収集の手間がかかる |
③損害保険料率算出機構による審査
専門の認定機関である「損害保険料率算出機構」が後遺障害等級の審査をおこないます。提出された資料にもとづいて、後遺障害等級の認定基準を満たしているかどうかが確認されます。
脳梗塞は生活習慣病などが原因となっているケースも多いので、交通事故が原因で脳梗塞が引き起こされたという因果関係が証明されているかどうかが認定におけるポイントといえます。
審査結果をふまえて自賠責保険会社が等級認定をおこないます。
後遺障害等級の申請について
脳梗塞による「感覚障害」の後遺障害
脳梗塞による感覚障害の後遺障害等級は何級?
感覚障害は、しびれや痛み、暑さ・冷たさなどの感覚を感じにくくなる障害です。
脳梗塞による感覚障害で認定される可能性のある後遺障害等級は以下の通りです。
後遺障害等級
脳梗塞による感覚障害
等級 | 内容 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
認定のポイント
▼局部に頑固な神経症状を残すもの
MRI画像などの医学的資料で証明可能
▼局部に神経症状を残すもの
自覚症状や神経学的所見*で説明可能
* 刺激を与えて反応をみる検査
12級と14級のどちらが認定されるかは、MRI画像などといった医学的資料から神経症状の存在を確認できるかどうかがポイントとなります。
脳梗塞による感覚障害の後遺障害慰謝料の相場は?
慰謝料の金額は、相手方が提示する際に用いる算定基準(自賠責基準・任意保険基準)と、弁護士の交渉で用いる算定基準(弁護士基準)で大きく異なります。
脳梗塞による感覚障害の症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
後遺障害慰謝料
脳梗塞による感覚障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
等級にもよりますが、弁護士に依頼すれば2倍以上の後遺障害慰謝料を請求することができます。
慰謝料の増額を目指したいという方は、できるだけ早い段階から弁護士と相談しておくことが重要です。
脳梗塞による「高次脳機能障害」の後遺障害
脳梗塞による高次脳機能障害の後遺障害等級は何級?
高次脳機能障害とは、言語や記憶など脳の認知機能に生じる障害のことをいいます。事故後に物覚えが悪くなったり、性格が変わってしまったと感じるような場合、高次脳機能障害の後遺症を負っている可能性が高いです。
脳梗塞による高次脳機能障害で認定される可能性のある後遺障害等級は以下の通りです。
後遺障害等級
脳梗塞による高次脳機能障害
等級 | 症状 |
---|---|
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
認定のポイント
▼1級または2級の場合
他人による介護の必要性、要介護度の度合いに応じて認定される
▼3級、5級、7級、9級、12級の場合
つぎの①②③④の能力喪失の度合いに応じて認定される
- ① 意思疎通能力
- ② 問題解決能力
- ③ 作業負荷の持続力
- ④ 社会行動能力
それぞれ6段階で評価される
能力喪失の度合いは、6段階で評価されます。
等級 | 4つの能力の喪失の程度 | |
---|---|---|
1つ以上の能力 | 2つ以上の能力 | |
3級 | 全部喪失 | 大部分喪失 |
5級 | 大部分喪失 | 半分程度喪失 |
7級 | 半分程度喪失 | 相当程度喪失 |
9級 | 相当程度喪失 | - |
12級 | 多少喪失 | - |
脳梗塞による高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場は?
脳梗塞による高次脳機能障害の症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
後遺障害慰謝料
脳梗塞による高次脳機能障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級1号 | 1600万円 | 2800万円 |
2級1号 | 1163万円 | 2370万円 |
3級3号 | 829万円 | 1990万円 |
5級2号 | 599万円 | 1400万円 |
7級4号 | 409万円 | 1000万円 |
9級10号 | 245万円 | 690万円 |
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
脳梗塞による「麻痺」の後遺障害
脳梗塞による麻痺の後遺障害等級は何級?
麻痺とは、脳や脊髄等を損傷することで手足が思い通りに動かせなくなるような障害です。
脳梗塞による麻痺で認定される可能性のある後遺障害等級は以下の通りです。
後遺障害等級
脳梗塞による身体の麻痺
等級 | 程度 | 範囲 |
---|---|---|
1級1号 | 高度 | 四肢麻痺 |
片麻痺* | ||
中等度 | 四肢麻痺* | |
2級1号 | 高度 | 片麻痺 |
中等度 | 四肢麻痺** | |
3級3号 | 中等度 | 四肢麻痺 |
5級2号 | 高度 | 単麻痺 |
中等度 | 片麻痺 | |
軽度 | 四肢麻痺 | |
7級4号 | 中等度 | 単麻痺 |
軽度 | 片麻痺 | |
9級10号 | 軽度 | 単麻痺 |
12級13号 | 軽微な麻痺など |
* 食事・入浴などに常時介護を要する場合
** 食事・入浴などに随時介護を要する場合
麻痺の後遺障害等級は、
「麻痺の程度」と「麻痺の範囲」
の組み合わせで決められます。
麻痺の程度
麻痺の程度は、高度・中等度・軽度の3段階に分けられています。
麻痺の程度
程度 | 内容 |
---|---|
高度 | 障害のある部位の運動性・支持性がほぼ失われ、その部位の基本動作ができない <具体例> ・完全硬直 ・物を持ち上げられない ・歩けない ・その他上記のものに準ずる場合など |
中等度 | 障害のある部位の運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限がある <具体例> ・約500gの物を持ち上げられない ・字が書けない ・足の片方に障害が残り、杖や歩行具なしでは階段を上れない ・両足に障害が残り、杖や歩行具なしでは歩行が困難 |
軽度 | 障害のある部位の運動性・持続性が多少失われ、基本動作に制限がある <具体例> ・文字を書くことがむずかしい ・足の片方に障害が残り、歩行速度が遅く、不安定 ・両足に障害が残り、杖や歩行具なしでは階段を上れない |
麻痺の種類
麻痺の種類は、片麻痺/対麻痺/四肢麻痺/単麻痺の4つの範囲で分類されます。
脳梗塞による麻痺の後遺障害慰謝料の相場は?
脳梗塞による麻痺の症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
後遺障害慰謝料
脳梗塞による麻痺
等級 | 自賠責基準* | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級1号 | 1600万円 | 2800万円 |
2級1号 | 1163万円 | 2370万円 |
3級3号 | 829万円 | 1990万円 |
5級2号 | 599万円 | 1400万円 |
7級4号 | 409万円 | 1000万円 |
9級10号 | 245万円 | 690万円 |
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
* 被扶養者がいる場合は金額が異なるケースがある
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脳梗塞は、軽いしびれや麻痺などの症状から寝たきりの状態まで、さまざまな程度の後遺障害が残る可能性があります。程度の違いはあるものの障害が残れば一生涯、苦しみがつづくことには変わりありません。
にも関わらず、相手方の任意保険会社から提示される慰謝料などの示談金は被害者の受けた損害に対して十分でないことが多いです。
損害に対して十分な補償を受け取るためには、「弁護士に依頼」することをおすすめします。脳梗塞は生活習慣病で見られることも多いので、交通事故との因果関係を主張するには弁護士の力が必要になります。
保険会社との示談交渉など、弁護士に一任すれば慰謝料増額の可能性が高まります。また、面倒なやり取りなども弁護士に任せることができるので治療やリハビリに集中することができます。
脳梗塞による慰謝料はいくらになるのかなど、どのようなことでも結構です。
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(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。
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岡野武志弁護士