作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
交通事故|物忘れは高次脳機能障害のせい?心因性?記憶障害の等級、慰謝料は?
- 「交通事故に遭ってから物忘れが激しい。」
- 「事故後に記憶力が低下して困っている。」
物忘れの原因といえば、「認知症」などが思い浮かぶのではないでしょうか。
ですが、交通事故で記憶障害になる方も少なくありません。
頭部に大きな衝撃が加わることで脳がダメージを受けて物忘れが激しくなることもあります。
ほかにも、交通事故のショックなど心的要因によって記憶障害を患うこともあります。
- 交通事故の後遺症で物忘れが激しくなることはある?
- 高次脳機能障害が原因?症状は?何科へ通院?
- 心的ストレスが原因?症状は?何科へ通院?
- 交通事故による物忘れの後遺障害認定は何級何号になる?
- 慰謝料はいくらもらえる?
今回は、「交通事故による物忘れ」について、症状名、後遺障害等級、慰謝料の相場を解説します。
目次
交通事故後の物忘れが「高次脳機能障害」による場合
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳の高次脳機能に発生した障害のことです。
脳の損傷によって記憶障害などの症状が引き起こされ、社会生活への適応が困難になるのが、高次脳機能障害です。
身体の麻痺などとは異なり、外見から判断することが難しい障害とされています。
高次脳機能障害を引き起こす可能性の高い傷病名は?
次のような傷病名にあたる場合、高次脳機能障害の可能性が高いです。
高次脳機能障害が疑われる場合
脳挫傷、びまん性軸索損傷、
びまん性脳損傷、
急性硬膜外血種、急性硬膜下血腫、
外傷性くも膜下出血、脳室出血 など
症状は?物忘れ以外にもある?
高次脳機能障害の症状は3種類ある
高次脳機能障害の症状は、「物忘れ」などの記憶障害をはじめ、行動障害、性格の変化などが挙げられます。
認知障害
- 記憶・記銘力障害(物忘れ、覚えられない)
- 注意・集中力障害(ぼんやりする、飽きやすい)
- 遂行機能障害(計画通りにできない)
行動障害
- 周囲の状況に合わせられない
- 複数のことを同時に処理できない
- 危険を予測・察知して回避的できない
人格変化
- 交通事故の前後で性格が変化したこと
- 次のような性格の変化がみられることが多い
- 自発性低下
- 衝動性(我慢できない。無制限に食べる等)
- 易怒性(突然感情を爆発させる)
- 幼稚性(子供っぽくなる)
- 自己中心性(対人技能拙劣)
- 病的嫉妬・ねたみ
- 強いこだわり(固執して容易に変えられない)
高次脳機能障害は何科を受診すべき?
高次脳機能障害が疑われる場合、まずは脳神経外科や脳外科を受診しましょう。
その後の流れとしては、リハビリ専門の病院に転院して治療を受けることになるでしょう。
後遺障害認定は何級何号になる?
後遺障害認定は、後遺障害の種類や程度を認定する手続きです。
高次脳機能障害に関する後遺障害等級は、障害の程度により、要介護1級1号、要介護2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号、14級9号のいずれかに認定される可能性があります。
これらの等級のうち、物忘れについては
7級4号、9級10号、12級13号、14級9号
に認定されるかどうかが問題になると考えられます。
12級13号、14級9号の認定基準について
高次脳機能障害の症状が軽微である場合、12級13号、14級9号が認定される可能性があります。
12級13号:「局部に頑固な神経症状を残すもの」 |
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・通常の労務に服することはできるが、多少の障害を残すもの ・意思疎通能力、問題解決能力、作業不可に対する持久力、社会行動能力のうち1つ以上の能力が多少失われているもの |
14級9号:「局部に神経症状を残すもの」 |
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・通常の労務に服することはできるが、軽微な障害を残すもの ・MRIやCTなどによる他覚的所見は認められないが、脳損傷が合理的に推測できるもの ・わずかな能力喪失が認められるもの |
9級10号の認定基準について(就労可能な職種の範囲が相当制限)
9級10号の場合、一般的な労働能力はあるけれども、問題解決能力などに障害が残っているケースです。
作業効率や作業維持力などに問題があるため、就労可能な職種の範囲が相当制限されることになります。
自動車の運転や、高所作業などは危険であるため控えたほうがよいとされています。
9級10号:「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 |
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一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業維持力などに問題があるもの。 |
7級4号の認定基準について(労働能力が一般平均以下に低下)
7級4号の場合、中程度の精神障害のため、労働能力が一般平均人以下に明らかに低下しているケースです。
一般就労を維持できても、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないものを想定しています。
現実に就労できる仕事としては、簡単な店番と説明されることが多いです。
7級4号:「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 |
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一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
5級2号の認定基準について(終身にわたり、簡単な労務のみできる)
5級2号の場合、単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労が可能なケースです。
もっとも、新しい作業について一人でできず、周囲の助言が必須のような状態です。
5級2号:「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 |
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単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。 ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなったりする問題が生じる。 このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの。 |
3級3号の認定基準について(終身にわたり、およそ労務が困難)
3級3号に該当するのは、記憶や注意力、新しいことの学習などに著しい障害があり、終身にわたり、およそ労務につくことができないケースです。
「労務」というのは、仕事や家事、学習などをいいます。
著しい記憶障害などの諸症状が原因で、仕事や家事がひとりでできない、勉強しても理解できないといった場合、この3級3号が認定されます。
3級3号:「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」 |
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自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。 また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。 しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労がまったくできないか、困難なもの。 |
要介護1級1号、要介護2級1号の認定基準について
要介護1級1号、要介護2級1号に該当するのは、「常に」または「随時」介護が必要になるケースです。
「物忘れ」という程度ではおさまらず、重度の痴呆が問題になります。
1級1号:「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」 |
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身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
2級1号:「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」 |
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著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。 身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの。 |
高次脳機能障害について、さらに詳しく知らいたい方は、こちらの記事もご覧ください。⇊
交通事故後の物忘れが「心的ストレス」による場合
心的ストレスによる物忘れとは?
解離性(心因性)健忘の症状とは?
心的ストレスによって記憶障害に陥ることもあり、「解離性(心因性)健忘」と呼ばれています。
自分の氏名や年齢、家族情報を忘れてしまったり、友人の顔を思い出せない、交通事故に関する記憶を喪失してしまった等の症状が現れます。
心理的負荷による記憶障害には、次のような種類があります。
限局性健忘
ある限定的な期間に起こった出来事を思い出せない
(例)交通事故の記憶がない
選択的健忘
ある限定的な期間に起こった出来事の一部しか思い出せない
全般性健忘
自分が今まで体験してきたことを全てを忘れた
(例)自分が誰なのか分からない
(例)家族や友人の名前や顔が思い出せない
心因性の物忘れは何科を受診すべき?
解離性(心因性)健忘をわずらった場合、心療内科や精神科を受診しましょう。
もっとも、何が原因で記憶障害になったのか分からない場合も多いと思います。
その場合、まずは総合病院を受診して検査を受けてみるとよいでしょう。
後遺障害認定では何級何号?
解離性(心因性)健忘の後遺障害等級は?
心的ストレスに関する後遺障害等級は、障害の程度により9級10号、12級13号、14級9号のいずれかに認定される可能性があります。
9級10号:「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 |
---|
心因性の精神障害(=非器質性精神障害)によって、日常生活において著しい支障が生じる場合 |
12級13号:「局部に頑固な神経症状を残すもの」 |
---|
心因性の精神障害(=非器質性精神障害)によって、日常生活において頻繁に支障が生じる場合 |
14級9号:「局部に神経症状を残すもの」 |
---|
心因性の精神障害(=非器質性精神障害)によって、日常生活において時々支障が生じる場合 |
高次脳機能障害が認められず、心因性健忘が認定されるケースも多い?
記憶障害が高次脳機能障害によるものか、それとも解離性(心因性)健忘によるものかが争われることも多いです。
高次脳機能障害のほうが後遺障害等級が重いので、まずは高次脳機能障害での等級認定をめざしたいところです。
心因性の記憶障害の場合でも、等級の重さは3種類あります。
適正な等級を認定してもらえるように、予備的に主張しておくことも大切です。
被害者の主張 | 裁判所の判断 | |
---|---|---|
① | 高次脳機能障害 | 心因性 |
5級 | 12級 | |
② | 高次脳機能障害 | 心因性 |
5級 | 9級 | |
③ | 高次脳機能障害 | 心因性 |
5級 | 14級 |
①大阪地判平19・10・31 交民40・5・1436
②神戸地判平20・ 1・29 交民41・1・102
③大阪地判平22・12・ 3 交民43・6・1570
交通事故後の物忘れで貰える慰謝料はいくら?
後遺障害でもらえるお金は?
後遺障害が認定された場合、傷害に関する損害と、後遺障害に関する損害の両方について賠償金(≒示談金)を受け取ることができます。
傷害に関する損害
治療関係費
診察料、入院費、交通費、看護料など
休業損害
治療のために仕事を休んだ場合の減収分
傷害慰謝料(入通院慰謝料)
交通事故で傷害を負わされた精神的苦痛に対する慰謝料
後遺障害に関する損害
後遺障害慰謝料
後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料
後遺障害逸失利益
後遺障害が残ったことで得られなくなった将来の減収分
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後遺障害の慰謝料はいくら?
後遺障害慰謝料については、認定された等級に応じて相場が存在しています。
弁護士に示談交渉を依頼すると、以下の相場で後遺障害慰謝料をうけとることができる可能性が高いです。
金額 | 高次脳機能 障害(脳) |
非器質性精神 障害(心) |
|
---|---|---|---|
1級 | 2,800 | 〇 | ‐ |
2級 | 2,370 | 〇 | ‐ |
3級 | 1,900 | 〇 | ‐ |
5級 | 1,400 | 〇 | ‐ |
7級 | 1,000 | 〇 | ‐ |
9級 | 690 | 〇 | 〇 |
12級 | 290 | 〇 | 〇 |
14級 | 110 | 〇 | 〇 |
※単位:万円
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交通事故が原因の物忘れといっても、高次脳機能障害が原因の場合と、心的ストレスが原因の場合があります。
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岡野武志弁護士
交通事故による物忘れについてのQ&A
物忘れの原因①高次脳機能障害とは?
交通事故に遭ってから物忘れが激しくなった場合、高次脳機能障害が原因となっている可能性があります。高次脳機能障害は、脳の損傷によって集中力がなくなったり記憶障害などの症状が引き起こされることを言います。高次脳機能障害が疑われる場合、まずは脳神経外科や脳外科を受診しましょう。 高次脳機能障害の症状・後遺障害等級
物忘れの原因②心因ストレスとは?
交通事故に遭ったショックで心的ストレスが原因の記憶障害に陥ることもあります。事故当時の記憶を失くしたり、今までの記憶をすべて失って家族や友人のことを忘れてしまうといった症状が見られることもあります。心因性の物忘れを患ってしまった場合、心療内科や精神科を受診しましょう。物忘れの原因がわからない場合は総合病院を受診して検査を受けることをおすすめします。 心因ストレスによる記憶障害の症状
後遺障害が認定された場合に支払われるお金は?
後遺障害等級が認定された場合、①後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料②逸失利益:後遺障害が残ったことで得られなくなった将来の減収分の補償、が支払われます。後遺障害慰謝料については、認定された等級に応じた金額が支払われます。 物忘れの後遺障害慰謝料