作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
慢性硬膜下血腫・急性硬膜下血腫の後遺障害認定、後遺症や慰謝料のポイント
硬膜下血腫の後遺症が残るおそれがある…、硬膜下血腫の後遺症に苦しんでいる…。
後遺症が残るリスクの高さから、急性硬膜下血腫は特に注意が必要です。また慢性硬膜下血腫も対応が遅れれば後遺症が残ることもあります。
この記事では硬膜下血腫の症状、後遺症、後遺障害、慰謝料を弁護士目線で徹底解説します。
- 慢性硬膜下血腫の後遺症は?
- 急性硬膜下血腫の後遺症は?
- 硬膜下血腫での慰謝料・後遺障害は?
順番に確認していきましょう。
目次
硬膜下血腫とは?硬膜下血腫の症状は?
硬膜とは
人間の脳は髄膜(ずいまく)という3層構造の膜で包まれています。
3層の膜は、外側(頭皮側)から硬膜・くも膜・軟膜と呼ばれます。
硬膜下血腫は頭部に外部から衝撃が加わって発生します。
①慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫とは
硬膜下で発生した出血が、ゆっくり時間をかけて溜まる病気のことです。
慢性硬膜下血腫は、交通事故から少し時間が経って発生します。時間をかけてじわじわと血腫ができるため、事故からおよそ1~2か月経過して目立った症状が出ることが多いようです。
交通事故直後は何も異常がないように思われても、被害者の次のような症状が表れたらすぐに脳神経外科または脳外科のある病院を受診してください。
慢性硬膜下血腫を疑うべき症状
▶歩くとふらつく
▶片側の手足に麻痺・動かしづらい
▶片側の手足にしびれが出る
▶頭痛や頭重感がある
▶言葉が出にくくなる
▶ぼーっとする
▶物忘れが起こったり、物忘れがひどくなる
▶性格が変わる
▶活動性が落ちる
▶意識障害(重症の場合)
高齢者の場合は、「活動性の低下」や「物忘れ」などの慢性硬膜下血腫の症状が、「加齢によるもの」と見過ごされてしまうケースがあります。また、症状の発現もゆっくりなので、交通事故で頭部に衝撃を受けた場合はすぐに示談をするのは避けましょう。
②急性硬膜下血腫
急性硬膜下血腫とは
外部から頭部へと強い力が加わったことで脳表面の血管がダメージを受け、硬膜とくも膜の間に出血が広がる病気です。
脳に直接影響がおよんで脳挫傷や頭蓋骨骨折などを合併して発生することもあります。
慢性硬膜下血腫とは違い、出血量によっては交通事故発生直後から数分・数時間後に次のような症状が発現します。
急性硬膜下血腫を疑うべき症状
▶強い頭痛
▶激しい嘔吐
▶呼びかけに反応を見せない
▶瞳孔が大きくなる
▶手足の麻痺
▶意識障害(重症の場合)
頭部CT検査で出血の程度や部位に関する診断を行い、開頭手術となることが一般的です。脳が直接傷ついている場合もあり、慢性硬膜下血腫と比べて緊急度の高い状態と言えます。
硬膜下血腫で後遺症は残る?
急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫では、手術後に期待される経過や結果(予後)が大きく異なります。
後遺症、急性硬膜下血腫は特に要注意
慢性硬膜下血腫は、脳を圧迫している血腫を手術で取り除くことで、症状が改善されやすいと言われています。
しかし、
- 出血の程度(量や範囲)
- 手術までの時間(脳の圧迫が長かった)
これらの要因で後遺症が残ることもあります。
急性硬膜下血腫は脳損傷を伴うことが多く、手術の緊急度が高いものです。また、損傷部位によっては命にもかかわるとされています。
硬膜下血腫の特によく見られる後遺症は2つあります。
硬膜下血腫の後遺症
⇒忘れっぽい、気が散りやすい、性格が変わる、判断力が落ちる、周囲に合わせた行動がとりづらい
②運動麻痺
⇒身体に麻痺が残る
などが、硬膜下血腫で可能性のある後遺症とされています。
急性硬膜下血腫 | 慢性硬膜下血腫 | |
---|---|---|
後遺症のリスク | 高い | 低い |
症状の発現 | 急激 | ゆるやか |
高次脳機能障害と運動麻痺について確認しましょう。
高次脳機能障害
高次脳機能障害の代表的な症状は次のとおりです。
①認知障害 |
---|
これまでの記憶や、新しく体験したことを覚えていられない 気が散りやすい、複数のことを同時に処理できない |
②行動障害 |
まわりの状況に合わせた適切な行動ができない 職場や社会のルールが守れない 危険を予測して回避的な行動がとれない |
③人格変化 |
自発性の低下、怒りっぽくなる 自己中心になる、強いねだみ・こだわりをもつ |
被害者本人が自身の症状を正しく認識していないこともあります。本人が「大丈夫」と言っても、周囲が注視しましょう。
身体の麻痺について確認していきます。
麻痺の範囲
「麻痺の範囲」は4つに分類されます。
- 片麻痺
- 対麻痺
- 四肢麻痺
- 単麻痺
麻痺の程度
麻痺の程度は厚生労働省の通達によって定められています。後ほど説明しますが、麻痺の範囲と程度で後遺障害の程度が分類されます。
<高度> 障害のある部位の運動性・支持性がほぼ失われ、その部位の基本動作ができない |
---|
・完全硬直
・物を持ち上げられない ・歩けない ・その他上記のものに準ずる場合 を含む |
<中等度> 障害のある部位の運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限がある |
・約500gの物を持ち上げられない
・字が書けない ・足の片方に障害が残り、杖や歩行具なしでは階段を上れない又は両足に障害が残り、杖や歩行具なしでは歩行が困難 |
<軽度> 障害のある部位の運動性・持続性が多少失われ、基本動作に制限がある |
・文字を書くことが困難
・足の片方に障害が残り、歩行速度が遅く、不安定又は両足に障害が残り、杖や歩行具なしでは階段を上れない |
硬膜下血腫で後遺症が残ったら、後遺障害等級認定を受ける
後遺症と後遺障害の違い
硬膜下血腫の主な後遺症には高次脳機能障害や麻痺があります。「後遺障害」という言葉を聞いたことがある人もいると思いますが、どう違うのでしょうか?
「後遺障害」は、ある条件に該当する後遺症をさします。後遺障害認定を受けるともらえる慰謝料が増額するというメリットがあります。
認定を受けるためには、まず後遺障害等級認定の申請が必要です。
後遺症と後遺障害のちがいを確認しましょう。
後遺症
病気やケガが治っても、そのあとまで影響が残る症状
⇒硬膜下血腫では、「血腫」が手術で取り除かれても、影響が残っている状態を言います
次に「後遺障害」です。
後遺障害
(1)交通事故による傷病が原因
(2)医学的治療を継続するなど適切な治療をしたが、症状が残った
(3)将来にわたって回復が難しいとおもわれる肉体的・精神的な症状
(4)症状の存在が医学的に認められ、労働能力の喪失を伴うもの
⇒後遺症のうち、4つを満たすものを後遺障害といいます。
後遺障害の認定は医師ではなく、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が書面審査で行います。実際に、被害者一人ひとりに対面して話を聞いてくれるわけではありません。
書面で証明するためには、提出する書類に後遺症が「後遺障害の4つの特徴」に該当することをはっきりと記載すべきです。
後遺障害認定申請は「被害者請求」で行う
後遺障害認定の申請方法は大きく2つありますが、ぜひ被害者請求での後遺障害認定申請を目指しましょう。
事前認定
事前認定でおさえたいのは
- 被害者が加害者側の任意保険会社に書類を提出していること
- 必要書類の準備が加害者側の任意保険会社であること
被害者請求
被害者請求でおさえたいのは
- 被害者自身で加害者側の自賠責保険会社に書類を提出していること
- 必要書類の準備は被害者自身で行うこと
被害者請求の最大のメリット
慰謝料の増額に近づけやすい
後遺障害を証明するための資料を被害者自身で集めるということは、被害者に有利な医学的な証拠を用意できます。高次脳機能障害の認定の要は、提出資料と言っても過言ではありません。適正な後遺障害認定を目指すためにも被害者請求がおすすめです。
後遺障害認定の申請方法についてもっと知りたい方は、次の関連記事もぜひ読んでみてください。
解説後遺障害認定の申請「事前認定」と「被害者請求」
後遺障害①高次脳機能障害
高次脳機能障害での後遺障害認定を受けるための注意すべきポイントは、以下の3点があげられます。
<3つのポイント>
- ① 交通事故によることが客観的に明らか
- ② 一定期間の意識障害が継続
- ③ 一定の異常傾向
① 交通事故による外傷を客観的に示す
⇒交通事故直後のCT・MRI画像が重要
高次脳機能障害とは、交通事故によって脳に外からの力が加わり、脳の器質的な病変が生じることと考えられています。また、日々の変化を追うことも大切なので、定期的に検査を受けるようにして、検査結果を認定申請時に提出しましょう。
② 一定期間の意識障害が継続
⇒JCS(Japan Coma Scale)やGCS(Glasgowq Coma Scale)といった検査結果で示される
⇒健忘症や軽度の意識障害が最低1週間程度続く事案も審査対象とされている(判定基準とはされていない)
受傷直後に半昏睡~昏睡で目をあけたり、応答しない状態(JCSが2~3桁、GCSが12点以下)が6時間以上継続すると、障害発生が疑われます。
数値で示されることが書面審査では重要なポイントです。
③ 一定の異常傾向
⇒交通事故による受傷をきっかけに、認知障害・行動障害・人格変化などがみられる
一方で、定量化されない情報も重要です。周囲から見た被害者の変化を経時的に記録することは有効でしょう。
JCS・GCSなどの検査についてもっと詳しく知りたい方は関連記事「高次脳機能障害の後遺障害等級認定に必須?意識障害を診断するためのJCS・GCSとは?」も併せてお読みください。
後遺障害は1級~14級に分類されています。高次脳機能障害の場合は、従来の等級表に加えて「高次脳機能障害認定基準に関する補足的な考え方」も設けられています。
表1は「就労が困難とされる等級」、表2は「就労が限定的ではあるが不可ではないとされている等級」としてまとめています。
まず、就労が困難とされる場合の表1をみてみましょう。
第1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要する |
---|
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の周り動作に全面的介護を要するもの |
第2級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要する |
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
第3級3号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができない |
自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
次に、一定の条件下で就労が可能であったり、特に就労に関する記載がないもの(就労に影響しないもの)を表2にまとめています。
第5級2号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない |
---|
単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
第7級4号 神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外に労務に服することができない |
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
第9級10号 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される |
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
第12級13号 |
局部に頑固な神経症状を残すもの |
第14級9号 |
局部に神経症状を残すもの |
後遺障害②身体の麻痺
身体の麻痺は、麻痺の程度と範囲の2軸から検討していきます。
後遺障害等級認定を申請する際には、身体的所見およびMRI等の補助診断法によって裏付けることのできる麻痺の範囲、程度、そして動作制限について必ず記載しましょう。
⇒麻痺によって
- 労働力が下がった・失われた
- 治る見込みがない
など、後遺障害の要件を満たすように記載することが大事です。
第1級1号 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要する |
---|
高度の四肢麻痺 高度の対麻痺 高度の片麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要する 中等度の四肢麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要する 中等度の対麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要する |
2級1号 |
高度の片麻痺 中等度の四肢麻痺 中等度の対麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要する 軽度の四肢麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要する |
3級3号 |
軽度の四肢麻痺(2級1号に該当するものは除く) 中等度の対麻痺(1級1号、2級1号に該当するものは除く) |
5級2号 |
高度の単麻痺 中等度の片麻痺 軽度の四肢麻痺 軽度の対麻痺 |
7級4号 |
中等度の単麻痺 軽度の片麻痺 |
9級10号 |
軽度の単麻痺 |
12級13号 |
軽微な麻痺など |
高度・中等度・軽度の基準は既出の別表を参照
硬膜下血腫で後遺症が残った…慰謝料はいくら?
高次脳機能障害・麻痺に関する慰謝料
後遺障害と認定されるまでの期間は個々に違いますが、高次脳機能障害や麻痺などの重度の後遺症は認定までかなり時間がかかると思っておきましょう。
認定されたら等級に応じた慰謝料の目安が計算できます。
後遺障害慰謝料
後遺障害等級に応じた慰謝料を確認しましょう。
慰謝料には3つの基準があり、その中でも弁護士基準が最も慰謝料相場が高いとされています。
慰謝料の3基準
- 自賠責保険の基準
- 任意保険の基準
- 弁護士基準
「自賠責保険の基準」と「弁護士基準」での後遺障害慰謝料を比較してみます。
等級 | 自賠責保険の基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
第1級 | 1,600 | 2,800 |
第2級 | 1,163 | 2,370 |
第3級 | 829 | 1,990 |
第5級 | 599 | 1,400 |
第7級 | 409 | 1,000 |
第9級 | 245 | 690 |
第12級 | 93 | 290 |
第14級 | 32 | 110 |
単位:万円
自賠責保険は、車の運転者に加入義務のある保険です。補償額に上限がありますので、不足分は任意保険で足りない分をカバーします。
任意保険の慰謝料算出基準は現在公開されていません。しかし、これまでの事例から自賠責保険の基準よりやや高い金額にとどまり、弁護士基準の慰謝料金額には及びません。
加害者側の保険会社から提案される賠償額は、弁護士基準を下回っています。適正な慰謝料を受けとりには弁護士基準での交渉が必要です。
補足
重度の後遺障害(第1級または第2級)については、近親者にも別途慰謝料請求権が認められます。近親者への慰謝料には金額の基準はありません。個別の事情を考慮して支払われます。もっと詳しく知りたい方は弁護士へご相談ください。
<慰謝料計算機>慰謝料など自動計算
被害者が受けとる賠償金は慰謝料だけではありません。受けとる示談金・賠償金の目安が簡単にわかる「慰謝料計算機」を使ってみませんか?
慰謝料計算機の計算結果は弁護士基準で算出したものです。弁護士基準での示談交渉は弁護士にお任せください。加害者側の保険会社からこの金額で提案を受けることはありませんので、ご注意ください。
硬膜下血腫の後遺症が心配な方・苦しんでいる方へ
LINE・電話OK|<24時間・365日>無料相談の予約窓口
硬膜下血腫は重大な傷害です。被害者の方が損をすることがあってはいけません。より納得のいく補償をうけとるためにも、まずは納得のいく弁護士選びをしてください。
多くの弁護士事務所が<法律の無料相談>を実施しています。無料相談にはたくさんのメリットがあります。弁護士選びには無料相談を活用してください。
アトム法律事務所の無料相談の予約受付の窓口は24時間365日ご利用いただけます。電話・LINE・メールなど、使いやすい方法でお問い合わせください。混み合う時間帯や土日祝は順番をお待ちいただくこともあります。硬膜下血腫は、特に迅速な対応が必要です。お早めにご連絡ください。
弁護士無料相談をご利用ください
相談依頼は今すぐ!
まとめ
アトム法律事務所は「交通事故と刑事事件の地域一番の弁護士事務所として、 相談者のお悩みとお困りごとを解決すること」を目指しています。高次脳機能障害・麻痺関連の後遺障害など多数の交通事故に関する解決実績が多数あります。些細なことでも構いません。まずはお話を聞かせてください。
(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。弁護士プロフィール
岡野武志弁護士