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作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
交通事故の被害にあわれた方は、怪我の苦痛や治療の負担によるストレスや、今後の生活の不安を感じることになります。
そして、ストレスや不安、または首にある交感神経の損傷が原因で、自律神経失調症を発症する場合があります。
心身の健康や日々の生活に様々な負荷をもたらす自律神経失調症ですが、その後遺障害等級を認定して加害者に慰謝料を請求することは、難しい場合も多いです。
適切な示談金額を得るためには、弁護士に相談することが重要になります。
目次
自律神経とは、心臓の鼓動や体温、呼吸や消化など、身体の各臓器が担う機能をコントロールする神経です。
手や足などの筋肉を動かす「運動神経」とは異なり、私たちの意思や思考に関係なく臓器を動かすので「自律」神経と呼ばれます。
自分の意志で自由に動かすことができない代わりに、意識しない時にも鼓動や呼吸や体温調整などを行って、私たちの身体を守ってくれる神経なのです。
また、自律神経は交感神経と副交感神経の二種類の神経から成り立っています。
交感神経 | 副交感神経 | |
---|---|---|
主な活動の時間帯 | 日中 | 夜 |
活動する状態 | 緊張しているとき | リラックスしているとき |
交感神経と副交感神経は、役割分担をしながら私たちの身体の様々な器官を調節します。
交感神経は「闘争の神経」や「逃走の神経」と呼ばれ、主に日中に活動します。
目の瞳孔を開いてより多くの視覚情報が入るようにする、とっさに身体を激しく動かせるように心臓の鼓動を活発にするなど、周囲の環境に対応できるような状態に身体を整えるはたらきをするのです。
副交感神経は「休息の神経」と呼ばれ、主に夜中に活動します。
身体をリラックスさせたり睡眠に適した状態にさせたりするために、呼吸を深く遅いものにして心臓の鼓動も遅くするなどのはたらきをします。
身体の器官 | 交感神経 | 副交感神経 |
---|---|---|
瞳孔(ひとみ) | 散大する | 縮小する |
胃腸 | 動きが減る | 動きが増す |
心臓 | 大きく収縮する | 弱く収縮する |
脳 | 興奮する | 眠くなる |
自律神経失調症は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで起こります。
通常、交感神経と副交感神経のどちらが主に活動するかは、およそ12時間ごとに交代されます。
しかし、強いストレスを受けたり、不安を感じたりすると、夜になっても交感神経が優位のままになってしまうのです。
これにより副交感神経がはたらかなくなり、身体がリラックスできなくなり興奮状態が続くことで、身体や精神の各所に負担が生じてしまいます。
また、自律神経失調症は四つのタイプに大別することができます。
原因 | 特徴 | |
---|---|---|
本態性型 | 生まれつきの体質 | 体力がない人に多い |
神経症型 | 心理的な問題 | 神経過敏の人に多い |
心身症型 | ストレスの抑圧 | 最も多く見られるタイプ |
抗うつ型 | 慢性的なストレスの蓄積 | 几帳面・完璧主義の人に多い |
自律神経失調症になると、内臓の機能や身体の調節機能が適切にコントロールされなくなることで、様々な異常が生じます。
自律神経失調症はうつ病の部分症状としてあらわれることがあり、気分の落ち込みや不安感などの精神症状があらわれることも多いです。
単なる体調不良や気持ちの問題だと思っていたら自律神経失調症だった、ということもめずらしくありませんので、「おかしいな?」と感じたらすぐに病院を受診するようにしましょう。
交通事故の被害者が自律神経失調症になることは、珍しくありません。
その最大の原因は、交通事故で最も頻発する怪我であるむちうちと言われています。
むちうちは首に衝撃を受けて筋肉や靭帯などが損傷されることで起こりますが、首には、交感神経も通っています。
むちうちによって交感神経を損傷することで、副交感神経とのバランスも乱れて、自律神経失調症を発症してしまう場合があるのです。
自動車同士の衝突事故の際に、特によく起こる。
身体が激しく揺さぶられて、首がSの字にしなり、鞭を打った時のような形状になってしまい、首に負担がかかることから発症する。
筋肉や靭帯を損傷することによる首や肩の痛みのほか、神経を損傷することによる手の痺れや頭痛などの症状が起こることがある。
むちうちによって起こる自律神経失調症は「後部頸交感神経症候群」でありバレリュー症候群とも呼ばれます。
事故直後には発症せず、事故後2週間以上経過してからようやく発覚することが特徴です。
めまいや耳鳴り、全身の倦怠感などの症状が事故から3ヶ月や6ヶ月以上経っても続くことがまれではありません。
また、むちうちで起こる症状はバレリュー症候群のほかにも様々なものがあります。
交通事故で首に衝撃を受けた場合は、たとえ事故直後に自覚症状がなくても、必ず病院で精密検査を受けるようにしましょう。
頚椎捻挫 |
---|
首の捻挫や靭帯損傷が原因で、首から肩に痛みを感じたり、頭痛が生じたりする |
神経根症状 |
衝撃で歪んだ首の骨が神経の根元を損傷して、後頭部や顔面、腕にも痛みや痺れが生じる |
脊髄損傷 |
頸椎を通る脊柱管内の脊髄が傷付き、脚のしびれや歩行障害、頭痛や思考力低下などが生じる |
また、事故に由来するストレスが原因で、自律神経失調症を発症することもあります。
交通事故の被害者になると、怪我の苦痛や入通院への負担によってストレスを感じたり、仕事を休むことや家族との関係などについての不安を抱いたりしてしまうものです。
そのため、交感神経が直接に損傷することはなかったとしても、他の箇所の怪我が原因で間接的に自律神経失調症も併発してしまう可能性があるのです。
自律神経失調症 |
---|
事故が原因の精神的ストレスのために発症 |
バレリュー症候群 |
頸部の交感神経の損傷が原因で発症 |
うつ病 |
事故が原因の精神的ストレスのために発症 |
交通事故による被害は目に見える怪我だけではありません。
事故から半年以上経過した後に症状が発症することもあるのです。
もし、事故後の生活の中で身体やこころの調子がおかしいと感じたら、まずは病院に行き、医師に相談してみましょう。
病院で行われる治療は、怪我や病気の症状の完治をめざします。
しかし、それ以上治療を続けても症状の改善が見込めない症状固定の段階になっても症状が残りつづけ、後遺症となる場合があります。
交通事故の示談交渉においては、後遺症は後遺障害として扱われることになります。
交通事故の損害賠償は傷害部分と後遺障害部分に大別することができます。
傷害部分とは、事故による怪我の治療が完了する段階までに発生した損害への賠償であり、治療費・休業損害・傷害慰謝料(入通院慰謝料)などが含まれます。
後遺障害部分とは後遺症を負ったことに伴う損害への賠償であり、後遺障害慰謝料と逸失利益が主な項目となります。
後遺障害慰謝料 |
---|
後遺障害を負ったことによる精神的苦痛に対する損害賠償 |
逸失利益 |
後遺障害を負ったことが原因で失われた、将来に得ていた収入に対する損害賠償 |
後遺障害慰謝料や逸失利益を認定するためには、後遺障害等級が認定される必要があります。
等級を認定してもらうためには、損害保険料率算出機構に申請を行う必要があります。
申請方法は二種類あり、加害者側の任意保険会社が書類を提出する方法は事前認定と呼ばれます。
もう一つの申請方法である被害者請求では、被害者側が書類を提出して申請します。
後遺症が発症しても、後遺障害等級が認定されなければ、示談交渉においてはその後遺症は「存在しない」ものとして扱われるおそれがあります。
また、後遺障害慰謝料や逸失利益の金額は等級によって大幅に変わります。
また、加害者側の保険会社が書類を準備する事前認定では、等級が認定されなかったり低いものになったりする可能性が高いです。
保険会社の側からすれば支払う示談金の金額は抑えたいので、高い等級が認定されることを避けるように申請をされてしまうためです。
そのため、被害者側としてはなるべく被害者請求によって後遺障害等級の認定を申請することが鉄則となります。
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
メリット | 手間や負担がかからない | 等級に有利 |
デメリット | 等級認定に不利 | 手間や負担がかかる* |
*弁護士などに依頼して、代行してもらうことが可能
後遺障害等級の認定に関しては、こちらの記事でも詳しく解説しております。
内臓や身体の調節機能、心の状態に影響を及ぼす自律神経失調症は、外見からはわからない病気です。
そのため、後遺障害等級の認定を申請するときには、症状の存在の証明が重要になります。
具体的には、医師に作成してもらう診断書や後遺障害診断書の内容に注意する必要があります。
神経症状や機能障害などの外見から判別することが難しい生涯の等級認定では、客観的な医学的所見の有無が正否を分けます。
精密検査を行える病院を受診して、MRI画像やレントゲン写真などの画像所見を準備してもらうことが重要です。
また、事故と症状との因果関係の証明も重要になります。
事故直後に病院を受診することと、その後も継続的に病院に通って医師に自覚症状を伝えてその旨を診断書に記載してもらうことで、因果関係の証明がしやすくなります。
後遺障害等級の認定を申請する場合には、医師にそのことを伝えて、等級が適切に認定されるような診断書を作ってもらうように要望しましょう。
また、弁護士に依頼すれば、後遺障害診断書の内容を確認したり医師に要望を伝えてもらったりすることができます。
等級認定の被害者請求には煩雑な手続きが伴いますが、こちらも弁護士に依頼すれば代行してもらうことができます。
後遺障害等級の認定を申請する際には、弁護士に相談することをおすすめします。
自律神経失調症は神経症状として扱われます。
神経症状の後遺障害等級は、12級または14級が認定される可能性があります。
12級になるか14級になるかは、画像などの他覚所見の有無に左右される場合が多いです。
14級9号 |
---|
局部に神経症状を残すもの |
12級13号 |
局部に頑固な神経症状を残すもの |
後遺障害慰謝料の金額には、12級と14級とで3倍近い金額の差があります。
また、自賠責や任意保険会社の基準で支払われるか、または弁護士に依頼して弁護士基準で請求できるかによっても、金額は大幅に変わります。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
12級 | 93万円 | 290万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
ただし、自律神経失調症の後遺障害等級は、他の症状に比べても認定されづらいという問題があります。
他覚所見の存在がまれであることや、事故からかなり時間が経過してから発症する症状のために因果関係の証明が難しいことが理由です。
しかし、自律神経失調症は被害者の健康や日々の生活に様々な負担をもたらして、多大な精神的苦痛を与える症状です。
自分の負った損害に対する賠償を正当に得るために、主治医と弁護士への相談は欠かさないようにしましょう。
交通事故の示談交渉では、被害者が相手をするのは加害者側の任意保険会社の社員となることが多いです。
そして、保険会社の社員は示談交渉のプロです。
そのため、被害者本人が示談交渉を行おうとすると、不利になってしまう可能性が高いのです。
交通事故の損害賠償は、被害者側と加害者側との示談交渉によって金額を決めた後に、示談金として支払われます。
大半の場合は、示談金を実際に支払うのは加害者本人ではなく加害者側の任意保険会社です。
そして、保険会社は自分たちの損失をすこしでも抑えるために、示談交渉においてもあの手この手で示談金の金額を減らそうとしてきます。
自律神経失調症に関する損害賠償を請求する時には、特に注意が必要です。
保険会社は「ほんとうに自律神経失調症だと証明できるのか?」「事故ではなくて他のことが原因ではないか?」と疑って、症状に対する損害賠償を払わなくて済むように示談をもっていく可能性があるからです。
そのため、示談交渉では被害者側でも示談交渉のプロである弁護士に依頼して、保険会社との交渉を代行してもらうことをおすすめします。
交通事故の示談交渉の流れについては、以下の記事でも詳しく解説しております。
弁護士に依頼すれば、被害者側の利益を加害者側の保険会社に対して正当に主張できます。
被害者にとって不利になるように示談の方向が誘導されることもなく、適切な損害賠償を請求することができるのです。
また、慰謝料も高額な弁護士基準で請求することができます。
後遺障害等級の認定の申請 |
---|
等級認定に有利な書類の作成ができるようになる |
保険会社との示談交渉 |
被害者側の利益を適切に主張できる |
慰謝料・示談金の金額 |
弁護士に依頼しない場合よりも高い金額が請求できる |
自律神経失調症は特に後遺障害等級の認定が難しい症状であるため、弁護士に相談するメリットは、他の症状の場合よりも大きいと言えます。
事故直後はもちろん、事故から数ヶ月後に症状が発覚した場合でも、弁護士に相談することができます。
スムーズな示談交渉のために、弁護士に相談しましょう。
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(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。弁護士プロフィール
岡野武志弁護士