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作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
脳内出血とは、脳の中の血管がやぶれ、脳の内部でおこる出血のことです。
原因の多くは高血圧といわれますが、交通事故など外傷性の脳内出血もあります。
頭部に強い衝撃をうけて脳内出血をおこして、「後遺症が残ったら…。」と不安に思われているご家族もおられるでしょう。
外傷性脳内出血では、どのような後遺症が残るのか、慰謝料はいくら貰えるのか、弁護士が解説します。
目次
奈良県立医科大学付属病院アトム法律事務所顧問医
藤井 宏真医師
外傷性脳出血は治療の緊急性が高い疾患です。突然の激しい頭痛、意識障害(会話ができない、目を閉じてぼーっとする)などの症状があらわれたら、すぐ救急車を呼びましょう。
外傷性脳内出血には以下のような症状があります。
問診、身体診察にもとづき、CT検査・MRI検査によって出血部位・出血量を調べて診断がされます。
CT血管造影検査によって、出血が拡大し続けていると判定されると予後不良となりやすいようです。
外傷性脳内出血の症状があらわれら、緊急性が高い疾患の疑いがあるため、救急車を呼びましょう。
脳神経外科や脳外科に搬送されて、治療を受けることになるでしょう。
出血多量の場合、約半数の患者が数日以内に死亡するといわれています。
意識が回復し、一命をとりとめたとしても、失われた脳機能のすべてが回復することはないといわれています。
症状がでたらすぐ受診する必要があります。
脳内出血では、出血多量の場合、手術が行なわれます。
症状が軽度の場合は、基本的に手術は必要ありません。
薬物治療やリハビリステーションなどが行なわれます。
入院が必要な外傷性脳内出血の手術費用については、頭蓋・頭蓋内損傷(その他の手術あり)の手術費用が参考になります。平均して74万円(保険を利用した場合は22万2000円)という国立国際医療研究センター病院のデータがあります。
外傷性脳内出血を負うような怪我により、生じることのある後遺障害には以下のようなものがあります。
それぞれがどのような症状であり、等級が何級になるかは次の章で詳しく説明します。
上述した後遺障害等級に認定されると、相手方から支払われる金銭が増えます。
後遺障害が残った場合に追加で支払われる金銭の一つが、後遺障害慰謝料です。
後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償
慰謝料相場は、後遺障害等級によって異なります。
また、後遺障害慰謝料の他に支払われるものとして逸失利益があります。
意味
後遺障害が残ったことで労働能力が失われ収入が減ることへの補償
計算方法
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳–症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数
なお、「労働能力喪失率」は障害の部位や程度、被害者の職業などを考慮して増減することがあります。
主婦などの場合の年収算定方法や、ライプニッツ係数一覧などはこちらの記事をご覧ください。
のちに解説しますが、後遺障害等級は1等級異なるだけで、もらえる慰謝料や逸失利益が異なってきます。
適正な等級を認定してもらうためには、医学的証拠の収集にかかってきます。
重度の後遺障害の場合、将来介護費も請求できる可能性が高いので、どのような費用がいくらかかるのかを具体的に主張する必要があります。
交通事故に詳しい弁護士に相談することで十分な補償を受けられるようにしましょう。
では、実際に外傷性脳内出血で後遺障害等級の申請をして、後遺障害慰謝料を受け取るまでの流れを見てみましょう。
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった状態を症状固定と言います。
後遺障害等級認定を受ける場合は、原則事故から約6カ月以上経っている必要があります。
これ以上治療期間が短い場合は、後遺障害としては認められない可能性が高くなります。
症状固定の診断を受けたならば、後遺障害等級認定に向けて後遺障害診断書などの資料を準備します。
後遺障害の申請には、2種類の方法があります。
被害者請求は手間がかかりますが、後遺障害等級の認定に有利な資料を自分で精査できるのが強みです。なお、弁護士に資料収集作業を任せることもできます。
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
請求者 | 相手方保険会社 | 被害者自身 |
メリット | 資料収集の手間がない | 自分で資料を確認できる |
デメリット | 自分で資料を確認できない | 資料収集の手間がかかる |
提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の審査を行います。
MRI画像やCT画像と、自覚症状との一致などについて、審査されます。
審査結果をふまえ、自賠責保険会社が等級認定を行います。
より細かな認定手順、後遺障害診断書の書き方などについては以下の記事を参照してください。
後遺障害等級の申請について
ご不明点は、弁護士の無料相談をご活用ください。
外傷性脳内出血による高次脳機能障害で認定される後遺障害等級は、以下のようになります。
外傷性脳内出血による高次脳機能障害
等級 | 内容 |
---|---|
1級 1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害 を残し、常に介護を要するもの |
2級 1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害 を残し、随時介護を要するもの |
3級 3号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害 を残し、終身労務に 服することができないもの |
5級 2号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害 を残し、特に軽易な労務以外の労務に 服することができないもの |
7級 4号 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し、 軽易な労務以外の労務に 服することができないもの |
9級 10号 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し、 服することができる労務が 相当な程度に制限されるもの |
それぞれの等級の具体的基準は次のとおりです。
高次脳機能障害の症状例
等級 | 具体的な内容 |
---|---|
1級 1号 |
食事・入浴・用便・更衣等について 常時介護が必要。 |
2級 1号 |
食事・入浴・用便・更衣等について 随時介護が必要。一人での外出は困難。 |
3級 3号 |
記憶力、注意力、学習能力、 障害の自己認識の欠如、 対人関係維持について著しい障害。 |
5級 2号 |
単純くり返し作業ならば一般就労も可能。 環境が変わると作業が継続できない。 |
7級 4号 |
作業の手順が悪い、約束を忘れる、 ミスが多いなどが理由で、 一般人と同等の作業ができない。 |
9級 10号 |
問題解決能力に障害がある。 作業効率や作業維持力などに問題がある。 |
高次脳機能障害について弁護士に依頼すると画像所見、意識障害、異常な症状を等級認定の基準に照らして立証してもらえます。
9級までに認定されない、より軽微な症状については、12級13号または14級9号が認定される可能性があります。
外傷性脳内出血による高次脳機能障害
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
---|---|
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
ここでの等級は「頑固な」という言葉で分けられています。
とはいっても障害の程度のみではなく、
が大きな判断要素となります。
神経症状が医学的に証明可能な場合は12級13号、一応の説明や推定が可能な場合は14級9号に該当します。
ですので、おおよそ半年以上通院して症状の経過を明らかにし、適宜検査を受けることが重要です。
高次脳機能障害の症状例
等級 | 具体的な内容 |
---|---|
12級13号 | 画像所見があるもの |
14級9号 | 自覚症状のみのもの ※事故の規模、通院頻度、症状の一貫性、各種検査の結果による |
慰謝料の金額の算定方法は、相手方が提示してくるもの(自賠責基準・任意保険基準)と、弁護士が交渉することで請求できるもの(弁護士基準)で大きく異なります。
外傷性脳内出血による高次脳機能障害に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
外傷性脳内出血による高次脳機能障害の慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級1号 | 1,600 | 2,800 |
2級1号 | 1,163 | 2,370 |
3級3号 | 829 | 1,990 |
5級2号 | 599 | 1,400 |
7級4号 | 409 | 1,000 |
9級10号 | 245 | 690 |
12級13号 | 93 | 290 |
14級9号 | 32 | 110 |
※単位:万円
等級にもよりますが、弁護士に依頼することで2倍以上の後遺障害慰謝料を請求できます。
慰謝料の増額を目指すのであれば、できるだけ早い段階から弁護士と相談しておくことが重要です。
遷延性意識障害(植物状態)の後遺障害等級については1級1号が認定されます。
外傷性脳内出血による遷延性意識障害
等級 | 症状 |
---|---|
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
遷延性意識障害(植物状態)に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
外傷性脳内出血による遷延性意識障害の慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級1号 | 1,600 | 2,800 |
※単位:万円
遷延性意識障害(植物状態)の損害賠償金は、介護費用なども多額にのぼります。そのため、賠償金は全体的に高額になります。
外傷性脳内出血では、麻痺の後遺障害が残る可能性があります。
区分 | 麻痺の範囲 |
---|---|
四肢麻痺 | 両側の四肢の麻痺 |
片麻痺 | 一側の上下肢の麻痺 (例)右半身麻痺・左半身麻痺 |
対麻痺 | 両上肢または両下肢の麻痺 (例)下半身麻痺 |
単麻痺 | 上肢または下肢の一肢のみの麻痺 |
麻痺で認定される後遺障害等級は、以下のようになります。
外傷性脳内出血による麻痺症状
等級 | 麻痺 |
---|---|
1級1号 | ・高度の四肢麻痺 ・中等度の四肢麻痺(常時介護) ・高度の片麻痺(常時介護) |
2級1号 | ・高度の片麻痺 ・中等度の四肢麻痺(随時介護) |
3級3号 | ・中等度の四肢麻痺 |
5級2号 | ・軽度の四肢麻痺 ・中等度の片麻痺 ・高度の単麻痺 |
7級4号 | ・軽度の片麻痺 ・中等度の単麻痺 |
9級10号 | ・軽度の単麻痺 |
12級13号 | ・軽微な麻痺症状 |
麻痺のレベル(高度・中等度・軽度・軽微な麻痺)について、具体的には以下のとおりです。
高度・中等度・軽度・軽微な麻痺の区別(参考例)
高度 | 中等度 | 軽度 | |
---|---|---|---|
手 | 完全硬直 または 近い状態 |
▼もち上げる(500g) | |
できない | できる | ||
▼文字を書く | |||
書けない | 困難を ともなう |
||
足 | 完全硬直 または 近い状態 |
▼歩行装具 | |
必要 | 不要 | ||
ー | ▼支持性 転倒しやすい ▼速度 遅い |
軽微な麻痺 |
---|
・軽微とは、運動性、支持性、巧緻性、速度にほとんど支障がない程度。 ・運動障害はないが、広範囲にわたる感覚障害があらわれることが多い。 |
外傷性脳内出血による麻痺の後遺障害慰謝料は、以下のようになります。
外傷性脳内出血による麻痺の慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級1号 | 1,600 | 2,800 |
2級1号 | 1,163 | 2,370 |
3級3号 | 829 | 1,990 |
5級2号 | 599 | 1,400 |
7級4号 | 409 | 1,000 |
9級10号 | 245 | 690 |
12級13号 | 93 | 290 |
※単位:万円
外傷性脳内出血では、眼球の運動障害(視野が狭くなる、複視になるといった後遺障害)が残る可能性があります。後遺障害等級は、以下のようになります。
外傷性脳内出血による眼球の運動障害
等級 | 運動障害 |
---|---|
10級 2号 |
正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
11級 1号 |
両眼の眼球に著しい 調節機能障害または 運動障害を残すもの |
12級 1号 |
一眼の眼球に著しい 調節機能障害または 運動障害を残すもの |
13級 2号 |
正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
複視を残すもの
※複視の条件①~③
著しい運動障害
眼球の「注視野」の広さが1/2以下に減じたもの
注視野
外傷性脳内出血による眼球の運動障害の後遺障害慰謝料は、以下のようになります。
外傷性脳内出血による眼球の運動障害の慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
10級2号 | 187 | 550 |
11級1号 | 135 | 420 |
12級1号 | 93 | 290 |
13級2号 | 57 | 180 |
※単位:万円
眼の後遺障害全般については、こちらの記事もご覧ください。
外傷性脳内出血によって、脳を損傷した場合、意識障害・記憶障害・麻痺など日常生活に大きな影響をあたえる後遺障害がのこる可能性が高いです。
にもかかわらず、相手方保険会社から提示される慰謝料・逸失利益は被害者の受けた損害に対して不十分なことがあります。
損害に対する十分な補償を受け取るためには、弁護士に依頼することが一番です。
保険会社との示談交渉などを一任することで慰謝料増額がかなうだけではなく、手続きの煩雑さなどから解放されます。
外傷性脳内出血による慰謝料はいくらになるのか、通院に関する注意、後遺障害等級の申請方法など、どのようなことでも結構です。
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岡野武志弁護士