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作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
骨盤は消化管や泌尿器系・生殖器系臓器、動静脈や神経など、大切な臓器を守る部位です。
ここに損傷が生じると、臓器機能に影響が生じたり、大量出血が生じたりします。
大切な臓器を守る部位だけに、もし後遺症(後遺障害)が残ったらと不安な方も多いでしょう。
骨盤骨折によりどのような後遺症が残るのか、それにより受け取れる慰謝料はいくらなのか、弁護士が解説いたします。
目次
奈良県立医科大学付属病院アトム法律事務所顧問医
藤井 宏真医師
骨盤骨折では、単に骨が折れるだけではなく、その周辺の臓器が損傷する可能性もあります。
そのため、幅広い症状が見られます。
骨盤骨折には、以下のような症状があります。
骨盤骨折は、折れた箇所の数によって安定型骨盤骨折と不安定型骨盤骨折に分けられます。
どこが折れたのか、何ヵ所折れたのかといった骨盤骨折の状態は、たいていの場合X線検査で確認することができます。
しかし通常はCT検査も行われます。
骨盤を構成する仙骨・腸骨・恥骨・坐骨・尾骨の1ヵ所だけが折れた骨折。
1ヵ所折れただけでは骨盤はずれにくいため、安全型骨折といわれる。
骨盤を構成する仙骨・腸骨・恥骨・坐骨・尾骨のうち、複数カ所が折れた骨折。
複数カ所が折れると骨盤の形がずれてしまうため、不安定型骨折と呼ばれる。
骨盤骨折の場合は、整形外科を受診するようにしましょう。
ただし骨盤骨折では産道が狭くなり、通常分娩が困難になっている可能性があります。
骨盤骨折による通常分娩困難は産婦人科の管轄ですので、女性の場合は産婦人科も受診されることをお勧めします。
安定型骨盤骨折であれば基本的に手術は行われず、保存療法がおこなわれます。
この場合、簡易ベルトや創外固定で骨折部分を固定し、ベッド上で一定期間安静にしたのち、車いすや松葉づえなどを用いてリハビリを行い治療していきます。
ただし、安定型骨盤骨折でも、骨盤に守られる臓器の損傷程度によっては、その臓器の治療のため手術が行われることがあります。
一方、不安定型骨盤骨折であれば、手術が必要になります。
この場合、骨折部分にプレートやスクリュー、脊椎用インプラントを埋め込むことになります。
また、骨盤には大腿骨とつながっている部分もあります。ここを損傷すると、人工関節や人工骨頭の置換術を行うこともあります。
骨盤と大腿骨をつなぐのは股関節です。
人工股関節全置換術の場合、費用は上限80万円に定められています。
ただ、医療保険などを適用すると、約10万円の負担にすることができます。
十分な治療を行っても、これ以上良くも悪くもならないという状態で残存する症状
交通事故の場合、その部位と程度により14段階の後遺障害等級で区分される
骨盤骨折を負うような怪我により、生じることのある後遺障害には以下のようなものがあります。
それぞれがどのような症状であり、等級が何級になるかは次の章で詳しく説明します。
なお、骨盤骨折では、その周辺の臓器の損傷による後遺障害も考えられます。
後遺障害等級が複数認められると、それらを併合した等級が導き出されます。
他にも後遺障害が残っている場合には、弁護士にご相談ください。
上述した後遺障害等級に認定されると、相手方から支払われる金銭が増えます。
後遺障害が残った場合に追加で支払われる金銭の一つが、後遺障害慰謝料です。
後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償
また、後遺障害慰謝料の他に支払われるものとして逸失利益があります。
後遺障害が残ったことで労働能力が失われ収入が減ることへの補償
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数
なお、「労働能力喪失率」は障害の部位や程度、被害者の職業などを考慮して増減することがあります。
主婦などの場合の年収算定方法や、ライプニッツ係数一覧などはこちらの記事をご覧ください。
注意点として、示談交渉で加害者側から提示される後遺傷害慰謝料や逸失利益は妥当な金額よりも低額であるということがあります。
後遺障害に対する補償金額をいくらにするべきかについて争いになったときは、弁護士に相談することで十分な補償を受けられるようにしましょう。
では、実際に骨盤骨折で後遺障害等級の申請をして、後遺障害慰謝料を受け取るまでの流れを見てみましょう。
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった状態を症状固定と言います。
後遺障害等級認定を受ける場合は、原則事故から約6カ月以上経っている必要があります。
これ以上治療期間が短い場合は、後遺障害としては認められない可能性が高くなります。
症状固定の診断を受けたならば、後遺障害等級認定に向けて後遺障害診断書などの資料を準備します。
後遺障害等級の認定審査は、基本的に申請者から提出された書類のみを見て行われます。
したがって、MRI画像やCT画像など、後遺障害の有無を医学的に証明できる書類も合わせて用意しておきましょう。
後遺障害の申請には、2種類の方法があります。
被害者請求は手間がかかりますが、後遺障害等級の認定に有利な資料を自分で精査できるのが強みです。なお、弁護士に資料収集作業を任せることもできます。
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
請求者 | 相手方保険会社 | 被害者自身 |
メリット | 資料収集の手間がない | 自分で資料を確認できる |
デメリット | 自分で資料を確認できない | 資料収集の手間がかかる |
提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の審査を行います。
審査結果は多くの場合30日以内に決まり、通知されます。
ただし、後遺障害の内容によってはそれ以上かかることもあります。
より細かな認定手順、後遺障害診断書の書き方などについては以下の記事を参照してください。
後遺障害等級の申請について
骨盤周辺には、腰や下肢の感覚を司る神経があります。
骨盤骨折によって神経が傷つき痛みやしびれといった神経症状が残ることがあります。
その場合に認定される後遺障害等級は以下のようになります。
骨盤骨折による神経症状
等級 | 内容 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
ここでの等級は「頑固な」という言葉で分けられています。
とはいっても障害の程度のみではなく、
が大きな判断要素となります。
痛みやしびれ症状が医学的に証明可能な場合は12級13号、一応の説明や推定が可能な場合は14級9号に該当します。
ですので、おおよそ半年以上通院して症状の経過を明らかにし、適宜検査を受けることが重要です。
慰謝料の金額の算定方法は、相手方が提示してくるもの(自賠責基準・任意保険基準)と、弁護士が交渉することで請求できるもの(弁護士基準)で大きく異なります。
骨盤骨折による神経症状
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級13号 | 32万円 | 110万円 |
等級にもよりますが、弁護士に依頼することで2倍以上の後遺障害慰謝料を請求できます。
慰謝料の増額を目指すのであれば、できるだけ早い段階から弁護士と相談しておくことが重要です。
骨盤骨折の治療でうまく骨がくっつかない骨癒合不全が発生すると、骨盤周辺の一部が飛び出たようになったり、へこんだようになったりします。
こうした変形障害が生じた場合の後遺障害等級は以下のようになります。
骨盤骨折による変形障害
等級 | 内容 |
---|---|
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
ただし、変形障害は服を脱いだ際に目視で確認できる程度のものが後遺障害として認定されます。
レントゲン写真で確認して初めてわかる程度の変形障害では、等級は認定されません。
骨盤骨折による変形障害の後遺障害慰謝料の相場は以下のようになります。
骨盤骨折による変形障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級5号 | 93万円 | 290万円 |
骨盤には、大腿骨とつながっている部分があります。
骨盤骨折によりこの部分が損傷を受けると、大腿骨を支えたり円滑に動かしたりすることが難しくなります。
また、人工関節や人工骨頭の置換術によって可動域制限が発生する可能性もあります。
その他、骨盤骨折を原因に股関節が硬化し、可動域制限に発展することもあります。
こうした場合に該当する後遺障害等級は以下のようになります。
骨盤骨折による可動域制限
等級 | 内容 |
---|---|
8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
骨盤骨折による可動域制限がどの等級に該当するかは、
で決まります。
可動域制限の症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
骨盤骨折による可動域制限
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級7号 | 324万円 | 830万円 |
10級10号 | 187万円 | 550万円 |
12級6号 | 93万円 | 290万円 |
骨盤骨折により産道が狭くなり、正常分娩困難になった場合の後遺障害等級は以下のようになります。
骨盤骨折による正常分娩困難
等級 | 内容 |
---|---|
11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
正常分娩困難の症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
骨盤骨折による正常分娩困難
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
11級10号 | 135万円 | 420万円 |
骨盤骨折は、大切な臓器や神経を守ったり、下肢と上半身をつないだりする大切な部位です。ここに後遺障害が残ると、痛みやしびれ、可動域制限といった日常的に影響を受ける症状が残ったり、正常分娩困難といった重大な症状が残ったりします。それにも関わらず、相手方保険会社から提示される慰謝料・逸失利益は被害者の受けた損害に対して不十分なことがあります。
損害に対する十分な補償を受け取るためには、弁護士に依頼することが一番です。
保険会社との示談交渉などを一任することで慰謝料増額が叶うだけではなく、手続きの煩雑さなどから解放されます。
骨折による慰謝料はいくらになるのか、通院に関する注意、後遺障害等級の申請方法など、どのようなことでも結構です。
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