作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
手首骨折の後遺症|痛み・しびれ・曲がらない…認定される後遺障害の等級早見表
交通事故で手をついて転んでしまうと、手首を骨折してしまうことがあります。
骨折の治療だけでも大変な負担となりますが、治療が終わっても後遺症が残るかもしれません。
ですが後遺症が残った場合、その等級に応じて慰謝料を受け取ることができます。
この記事では、手首骨折の後遺症別に等級をまとめてあります。
それに基づいて適切な慰謝料相場を知り、納得のいく解決を目指しましょう。
- 手首骨折の後遺症があると何が変わる?
- 手首の痛み・痺れの後遺症の慰謝料は?
- 手首が曲がらない後遺症の慰謝料は?
目次
手首骨折の後遺症で後遺障害等級に認定される?
- 橈骨遠位端骨折
- 尺骨遠位端骨折
- 橈尺骨遠位端骨折
- 舟状骨骨折
- 手根骨骨折
これらはいわゆる手首骨折と呼ばれる状態の症状名です。
手首の骨折は交通事故で手をついてしまった時などに起こり、通常半年~一年ほどで完治します。
ですが手術やリハビリを経ても、痛み・痺れ・関節の機能障害・変形などの症状が残ることがあります。
このような十分な治療を経てもこれ以上よくならない、という症状を後遺障害といいます。
手術後も後遺症がある場合どうしたらいい?
交通事故による後遺障害が残った場合、後遺障害等級の認定を受けるための申請をすることができます。
①症状が固定される
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった状態を症状固定と言います。
怪我から約6カ月経った時期が判断の目安とされています。
②後遺障害診断書の用意
症状固定の診断を受けたならば、後遺障害等級認定に向けて後遺障害診断書などの資料を準備します。
被害者は後遺障害診断書のみを任意保険会社に提出する事前認定
被害者自身が資料を用意して自賠責保険に提出する被害者請求
の2種類の方法があります。
被害者請求は手間がかかりますが、資料を自分で精査できるのが強みです。なお、弁護士に資料収集作業を任せることもできます。
③損害保険料率算出機構が後遺障害等級を審査
提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の審査を行います。
また提出された審査結果をふまえ、自賠責保険会社が等級認定を行います。
後遺障害等級は原則として書面のみで審査されるため、提出書類は非常に重要です。
より細かな認定手順、後遺障害診断書の書き方などについては以下の記事を参照してください。
後遺障害等級の申請について
後遺障害に認定されると何が起こる?
無事後遺障害等級に認定されると、以下のようなメリットがあります。
後遺障害慰謝料を受け取ることができる
後遺障害等級に認定されると、その等級に応じて後遺障害慰謝料を得ることができます。
後遺障害慰謝料を含む慰謝料には、3つの算定基準があります。
- 自賠責保険での金額算定に使われる自賠責基準
- 各保険会社での金額算定に使われる任意保険基準
- 過去の裁判例に基づいた弁護士基準
それぞれがどの程度異なるかは、以下の記事に詳しく記載してあります。
逸失利益を受け取ることができる
後遺障害が残ったことで労働能力が失われ収入が減ることへの補償として、逸失利益が支払われます。
この金額は主に後遺障害等級・年収・症状固定時の年齢で決定します。
計算式は以下の通りです。
後遺障害の逸失利益・計算方法
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数
なお、労働能力喪失率は障害の部位や程度、被害者の職業などを考慮して増減することがあります。
主婦などの場合の年収算定方法や、ライプニッツ係数一覧などはこちらの記事をご覧ください。
すなわち、後遺障害等級に認定されると相手方との示談の際に受け取れる金額が増加することになります。
これらの金額は数百万円にのぼる一方で、認定には厳格な審査がなされます。
よって、自身の後遺障害が該当する等級を知り、それに見合った診断書などを入手できるかが非常に重要です。
手首の「痛み・しびれ」の後遺症
手首の痛み・しびれは後遺障害何級になる?
骨折が治っても、指先や手首に痛みやしびれが残っている場合があります。
このような症状が該当する可能性のある後遺障害等級は、以下の通りです。
後遺障害等級
手首の痛み・しびれ
等級 | 内容 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
神経由来の痛みやしびれが体の一部に残っている場合は、後遺障害等級12級13号または14級9号に該当する可能性があります。
どちらになるかは、主に自覚的所見を裏付ける検査結果や画像所見などの医学的証拠があるかで決定します。
十分な医学的所見があり、症状を証明可能な場合は12級、一応の説明が可能な場合は14級となります。
特に痛み・痺れは主観的なものであるため、裏付けとなる検査結果などが重要です。
手首の痛み・しびれの後遺障害慰謝料はいくら?
実際に手首の痛み・しびれによって得られる後遺障害慰謝料を比較してみましょう。
任意保険基準は各種保険会社の内部での基準のため公開されていませんが、一般的に自賠責基準よりやや高く、弁護士基準より低い金額になっています。
後遺障害慰謝料
手首の痛み・しびれ
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
弁護士に依頼しない場合と比較すると、約3倍の慰謝料を請求できることがわかります。
保険会社から提示された額がこれより低く、納得がいかない場合は弁護士への相談もお考えください。
手首の痛み・しびれの後遺症の逸失利益はいくら?
手首の痛み・しびれに対応する労働能力喪失率は以下のようになっています。
労働能力喪失率
手首の痛み・しびれ
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
12級13号 | 14% |
14級9号 | 5% |
手首が「曲がらない」ときの後遺症
手首が曲がらないことは後遺障害何級になる?
骨折が治ったのに、手首が曲がりにくくなったり、曲がらなくなってしまう場合があります。
その場合に該当しうる等級は以下の通りです。
後遺障害等級
手首が曲がらない
等級 | 内容 |
---|---|
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
ここにある用語をわかりやすく言い換えると、以下のようになります。
また、ここにある角度は背屈(手首を反らす運動)と掌屈(手首を倒す運動)の角度の合計です。
用語
関節の用を廃す
… 関節がまったく動かない~または障害のない関節と比べ可動域が1/10以下のもの(手首では目安として20度以下)
または神経麻痺などにより外部からの力では動くものの、自力ではまったく動かせない~または障害のない関節と比べ可動域が1/10以下のもの(手首では目安として20度以下)
関節の機能に著しい障害を残すもの
… 障害の無い関節と比べ可動域が1/2以下のもの(手首では目安として80度)
関節の機能に障害を残すもの
…障害の無い関節と比べ、可動域が3/4以下に制限されているもの(手首では目安として125度)
手首関節の可動域という点で後遺障害等級をまとめると以下のようになります。
後遺障害等級
手首が曲がらない
等級 | 内容 |
---|---|
8級6号 | 手首がまったく動かない~可動域が障害の無い関節の1/10以下 |
10級10号 | 手首の可動域が障害の無い関節の1/2以下* |
12級6号 | 手首の可動域が障害の無い関節の3/4以下* |
*参考可動域によってはこの基準を超えても認められる場合がある
なお、可動域に関する基準をわずかに上回っている場合も等級に該当する場合があります。具体的には
- 10級の基準である「障害の無い関節の可動域の1/2」を10度まで上回っている場合
- 12級の基準である「障害の無い関節の可動域の3/4」を5度まで上回っている場合
このようなとき、撓屈(手首を親指側に曲げる運動)と尺屈(手首を小指側に曲げる運動)という参考運動を考慮します。
- 10級の場合は障害の無い関節と比べて参考運動のいずれかの可動域が1/2以下(目安として撓屈15度、尺屈30度)
- 12級の場合は障害の無い関節と比べて参考運動のいずれかの可動域が3/4以下(目安として撓屈20度、尺屈45度)
のとき、それぞれの等級に認められます。
また、手首だけでなく肘・肩関節の可動域も同様に制限されている場合は1級・5級・6級など、より上位の等級に認定されることもあります。
手首が曲がらないことの後遺障害慰謝料はいくら?
手首が曲がらない症状によって得られる後遺障害慰謝料は以下の通りです。
後遺障害慰謝料
手首が曲がらない
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級6号 | 324万円 | 830万円 |
10級10号 | 187万円 | 550万円 |
12級6号 | 93万円 | 290万円 |
手首が曲がらない後遺症の逸失利益はいくら?
手首が曲がらないときに対応する労働能力喪失率は以下のようになっています。
労働能力喪失率
手首が曲がらない
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
8級6号 | 45% |
10級10号 | 27% |
12級6号 | 14% |
手首の「変形」の後遺症
手首の変形は後遺障害何級になる?
骨折のあと、骨がうまくくっつかずに関節が変形してしまうことがあります。
その場合に該当しうる等級は以下の通りです。
後遺障害等級
手首の変形
等級 | 内容 |
---|---|
7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残す |
ここにある用語をわかりやすく言い換えると、以下のようになります。
用語
偽関節
…折れた骨がくっつかず、異常な可動域を示している状態
長管骨
…手足を構成する比較的大きな骨全般。手首の近辺では橈骨(肘から下の親指側の骨)・尺骨(肘から下の小指側の骨)が該当する。
著しい運動障害
…偽関節の異常可動性のため、常時硬性補装具を必要とすること
(物を保持・移動する時などに限り必要な場合はあたらない)
偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
…橈骨及び尺骨の両方の骨に偽関節を残し、常に硬性補装具を必要とするもの
上肢に偽関節を残すもの
…橈骨及び尺骨の両方の骨に偽関節を残し、常に硬性補装具を必要とするもの以外のもの
撓骨又は尺骨のいずれか一方の骨に偽関節を残し、時々硬性補装具を必要とするもの
長管骨に変形を残す
- …① 橈骨および尺骨の両方が15度以上屈曲して不正癒合したもの(いずれか一方のみでも、その程度が著しいものは該当)
- ② 橈骨又は尺骨の端部分の骨がくっついていない状態
- ③ 橈骨又は尺骨のいずれか一方に偽関節を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
- ④ 橈骨又は尺骨の端部分のほとんどを欠損したもの
- ⑤ 橈骨若しくは尺骨(それぞれの端部分を除く)の直径が2分の1以下に減少したもの
手首の変形の後遺障害慰謝料はいくら?
手首の変形によって得られる後遺障害慰謝料は以下の通りです。
後遺障害慰謝料
手首の変形
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
7級9号 | 409万円 | 1000万円 |
8級8号 | 324万円 | 830万円 |
12級8号 | 93万円 | 290万円 |
手首の変形の後遺症の逸失利益はいくら?
手首の変形に対応する労働能力喪失率は以下のようになっています。
労働能力喪失率
手首の変形
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
7級9号 | 56% |
8級8号 | 45% |
12級8号 | 14% |
複数の後遺障害が残った場合は?
例えば手首が曲がらず、さらに痺れるような痛みもある…という風に、複数の後遺障害が残る場合があります。
そのような時は、併合のルールを用いて後遺障害等級が導かれます。
存在する後遺症 | 併合の結果 |
---|---|
5級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を3つ繰り上げる |
8級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を2つ繰り上げる |
13級以上の後遺障害が2つ以上残存 | 重い方の等級を1つ繰り上げる |
14級の後遺障害が2つ以上残存 | 14級のまま |
それ以外 | 最高等級を後遺障害等級とする |
仮に12級の手首の痛み、10級の手首が曲がらない後遺障害が残ったとします。
その場合、13級以上の後遺障害が2つ残存していることになるので、重い方の後遺障害等級が1つ繰り上がります。
結果として、後遺障害は併合9級として評価されます。
手首骨折後の後遺症は弁護士にお任せください
記事のまとめ
今回の記事をまとめると、以下のようになります。
- 後遺障害等級に認定されると後遺障害慰謝料・逸失利益が得られる
- 手首の痛み、しびれは12級13号、14級9号に該当する可能性がある
- 手首の曲がらない症状は、その可動域などで後遺障害の等級が決まる
慰謝料増額を目指すときは弁護士にご相談を
交通事故では、直接手に衝撃をうけなくとも、転んで手をついた拍子に骨折してしまうことがよくあります。
特に手首は日常よく使う部位であり、後遺障害が残ると大変不便な思いをされると存じます。
少しでもご自身の負担や不便を軽くしたいとお考えであれば、ぜひ弁護士にご相談ください。
後遺障害等級は何級になるか、治療方針は正しいか、相手方が提示してきた損害賠償額は適切か、どのようなお悩みでもご相談ください。
アトム法律事務所ではLINE・電話での無料相談を受け付けています。お気軽にご利用ください。
(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。
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弁護士プロフィール
岡野武志弁護士
手首骨折の後遺症Q&A
後遺障害に認定されたらどうなる?
後遺障害に認定されると後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料の請求が可能になります。1~14級で区分された等級は後遺症の内容や程度から認定基準を満たすかどうかで判断されます。手首骨折では、痛みやしびれ、手首が曲がらない、手首が変形するなどの後遺症が残ることが考えられます。慰謝料は、等級のほかに自賠責基準/任意保険基準/弁護士基準のいずれで算定されるかで金額が異なるので注意が必要です。 後遺障害の認定について
手首骨折による神経障害の後遺症は後遺障害何級?
手首骨折が原因で痛みやしびれの後遺症が残ってしまったら、12級または14級の後遺障害等級に認定される可能性があります。12級と14級のちがいは、自覚症状を裏付ける「医学的証拠」があるかどうかという点で判断されることになります。 手首に痛みなどが残る場合の後遺障害等級
手首関節の可動域制限の後遺症は後遺障害何級?
手首骨折が原因で手首関節が曲がらない後遺症が残ってしまったら、8級・10級・12級の後遺障害等級に認定される可能性があります。関節が全く動かない・障害のない関節と比べて可動域が1/10以下のような場合は8級、障害のない関節と比べて可動域が1/2以下のような場合は10級、障害のない関節と比べて可動域が3/4以下に制限されているような場合は12級が認定される可能性があります。 手首が曲がらない場合の後遺障害等級
手首骨折による変形の後遺症は後遺障害何級?
手首骨折が原因で手首が変形するような後遺障害が残ってしまったら、7級・8級・12級の後遺障害等級に認定される可能性があります。折れた骨がうまくくっつかずに異常な可動域を示す状態を偽関節といいます。この偽関節の有無や、変形の状態に応じて後遺障害の等級は考慮されることになります。 手首が変形した場合の後遺障害等級