作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
大腿骨骨折の後遺症|太もも部、膝蓋骨、骨頭など部位ごとの骨接合法や置換法とは?
「大腿骨骨折を負ってしまった…。後遺症が残るか心配…」
交通事故などにより大腿骨を骨折してしまったという方からは、よく以下のような疑問や質問が寄せられます。
- 大腿骨骨折で後遺症が残るのはどんなとき?部位は?
- 大腿骨骨折の治療内容とは?人工関節置換ってなに?
- 大腿骨骨折の慰謝料、示談金の相場とは?
ご覧の記事では、交通事故にくわしい弁護士が大腿骨骨折の後遺症について徹底解説していきます。
目次
大腿骨骨折(股関節部)の後遺症|人工骨頭への置換とは?
大腿骨骨折の多くは頚部、転子部で好発するといわれています。
つまり、股関節側の骨が骨折しやすいということです。
まずは、股関節部の大腿骨骨折について解説していきます。
股関節部の大腿骨骨折|骨頭壊死とは?骨接合の方法とは?
大腿骨の股関節部の骨折は、専門用語で大腿骨近位部骨折と言います。
近位部骨折/遠位端骨折
四肢においては体幹(胴体)に近いほうを近位、遠い方を遠位という。
大腿骨近位部骨折と言えば股関節側の骨折、大腿骨遠位部骨折と言えば膝側の骨折ということになる。
大腿骨近位部はダンベルのような形となっています。
股関節側から、
- 骨頭:骨盤に接続する、丸い頭のような形状をした部分
- 頚部:骨頭と転子部をつなぐ、ダンベルの柄のように細くくびれた部分
- 転子部:丸く膨らんだ頚部の根本
という構造になっています。
骨頭骨折の頻度は低いためここでは割愛します。
頚部骨折、転子部骨折は手術が完全に成功したとしても後遺症が残存することがあります。
各骨折の治療法を紹介し、さらに後遺症の残る可能性などについてくわしく解説していきます。
大腿骨頸部骨折の治療
大腿骨頸部骨折は、基本的には手術療法の適応となります。
手術は骨接合術と人工骨頭置換術の2種類に分けられます。
骨接合術/人工骨頭置換術
骨接合術
医療用の釘、杭、プレートなどを使って骨折した部分をつなぎ止め骨の再生と接合を待つ、という手術。
人工骨頭置換術
骨頭と頚部を取り払い、大腿骨に金属やセラミックでできた人工骨頭を接続するという手術。
骨接合術と人工骨頭置換術の選択は、骨折の態様により個別的にされます。
骨接合術 | 人工骨頭置換術 | |
---|---|---|
死亡率、術後歩行能力 | 差はない | |
再手術率 | 高い | 低い |
耐用年数 | – | 10年~20年 |
再手術率は骨接合術の方が高く、骨が接合しなかったり骨頭が壊死したりする可能性が残されます。
骨頭壊死
大腿骨頚部が骨折すると、周辺の血管もダメージを負う。
その結果、態様によっては血が巡らないことを要因にして骨頭が壊死することがある。
骨頭が壊死すると、構造的に脆弱となり圧壊、変形と炎症を引き起こすため、人工骨頭への置換が行われる。
他方、人工骨頭置換術には耐用年数という弱点があります。
人工骨頭は10年~20年で耐用年数の限界を迎え、その人の年齢により再置換術、再々置換術をとり行う必要があります。
しかも回数を重ねるほど、手術の難度は上がります。
これら要素を鑑みて、個別事情に応じて治療法が選択されるわけです。
大腿骨転子部骨折の治療
大腿骨転子部骨折は手術による骨接合術によって変形なく治癒できる可能性が高いです。
固定の方法としては、
- 大腿骨に這わせる形でプレートをあてがい、ネジを複数本挿入して固定する方法
- 大腿骨の中に棒を突き刺し、さらにネジを複数本挿入して固定する方法
などがあります。
大腿骨近位部骨折の後遺症
大腿骨近位部骨折の後遺症としては、
- 関節の可動域制限
- 疼痛
などが考えられます。
大腿骨近位部骨折の後遺症については、以下のようなデータがあります。
日本人の大腿骨近位部骨折(内側,外側を含む)1,217例で,手術療法を92%に行い,術後1年で受傷前の歩行能力に回復したのは67%
引用元:『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版) 第7章大腿骨転子部骨折の治療 7.7.予後』
ただ、大腿骨近位部骨折は高齢者の転倒によるものが非常に多いです。
若年層であれば、歩行機能に障害が残らない可能性は67%よりも相当大きくなると考えられます。
また、大腿骨転子部の骨折では、
- 骨頭壊死から圧壊に至る率は0.3〜1.2%
- 偽関節・骨癒合不全の発生率は0.5〜2.9%
と言われています。
偽関節
骨の治癒が中断されて、関節の可動域などに異常が生じている状態のこと。
大腿骨頸部の骨折と比較して、転子部の骨折は後遺症が残りにくいのです。
大腿骨近位部骨折後、歩行機能を以前の状態にまで回復できるかどうかには以下の要素が関係すると言われています。
- 受傷前の歩行能力
- 年齢
- 筋力
- 認知症の有無
- 骨折の程度(反対の足の骨折の有無、骨のずれの大きさなど)
歩行能力の獲得という点で、受傷後はなるべく早くにリハビリを開始するのがよいとされています。
大腿骨骨折における人工骨頭の禁忌肢位とは?
人工骨頭の外れやすさは取り付け角度、骨格の形によって異なります。
一般的には術後半年間にわたり脱臼しなければ、それ以降脱臼することは稀になるといわれています。
人工関節の禁忌肢位としては、
- 屈曲
- 内転
- 内旋
が挙げられます。
屈曲
体育座り、膝をついて段差に登る、よじ登るなど。
内転
足を組むなど。
内旋
とんび座り、横座りをするなど。
ただ股関節の様態などによっては、これら禁忌肢位が設けられないケースもあります。
個別事情に応じて判断されることですから、よく医師の判断を仰ぐことが重要です。
大腿骨骨折(膝部)の後遺症|膝蓋骨粉砕骨折で後遺症は残る?
続いて、大腿骨の膝側の骨折(大腿骨遠位端骨折)について解説していきます。
合わせて膝蓋骨骨折についても触れていきましょう。
膝部の大腿骨骨折で後遺症が残るケースとは?|可動域制限や痛み
膝蓋骨骨折の治療
膝蓋骨(膝の皿)の骨折は、保存療法と手術療法が態様により選択されます。
膝蓋骨骨折の治療
保存療法
骨のずれが少ない場合、ヒビだけの場合などで適応。
牽引して整復した後にギプスなどで膝部を固定し、1か月後くらいから膝関節の可動域訓練を開始する。
手術療法
原則的には手術療法が適応される。
ピンと銅線を組み合わせて骨を固定する方法(テンションバンド固定法)が一般的。
手術療法では、術後早期に歩行やリハビリが可能になるという利点があります。
関節可動域の制限など、後遺症の軽減という点で手術療法が推奨されます。
大腿骨遠位端骨折の治療
大腿骨の膝側の遠端は扇状に広がっています。
この広がった部分を大腿骨顆部と言います。
大腿骨顆部が骨折したり、顆部の直上が骨折したりしたときについても保存療法と手術療法が選択されます。
大腿骨顆部周辺の骨折の治療
保存療法
骨のずれが少ない場合、ヒビだけの場合、関節内に骨がずれ込んでいない場合などで適応。
牽引して整復した後にギプスなどで膝部を固定する。
手術療法
原則的には手術療法が適応される。
骨の外側にプレートをあてがい釘で固定する方法、骨の中に棒状の金属を差し込み釘で固定する方法などが選択される。
保存療法の場合、長期間膝を動かせなくなるため、関節の可動域制限など後遺症の残るリスクが増大します。
膝蓋骨骨折と同じく、早期に膝を動かすことができる手術療法が推奨されます。
保存療法 | 手術療法 | |
---|---|---|
メリット | ・身体への負担が小さい など |
・早期に離床、歩行が可能 ・偽関節や変形癒合となる可能性が低い など |
デメリット | ・長期にわたり寝たきりとなる ・ゆえに心不全や血栓塞栓症などになりやすい ・偽関節、変形癒合になりやすい など |
・身体への負担が大きい など |
大腿骨骨折(膝部)の後遺症
後遺症としては、
- 膝関節の屈曲制限
- 歩行能力の低下
- 膝関節の疼痛
が挙げられます。
大阪府立急性期・総合医療センターの調査によれば大腿骨遠位端骨折の最終膝関節屈曲角度は平均101.3±7.4度とのことでした。
膝関節の周辺の骨折は、予後、関節の拘縮が発生しやすいといわれています。
拘縮
関節の筋肉や靭帯、関節包、軟骨などの軟部組織が変化し、関節に可動域制限が生じること
膝部の骨折では軟部組織に柔軟性を持たせるため、早期からリハビリに励む必要があります。
大腿骨骨折(太もも部)の後遺症|入院や全治までの期間とは?
最後に、大腿骨の真ん中での骨折について解説します。
大腿骨の真ん中での骨折は、専門用語で、
大腿骨骨幹部骨折
と言います。
大腿骨骨折(太もも部)の骨接合の方法、全治までの期間
大腿骨骨幹部骨折でも保存療法と手術療法が選択され、原則的には手術療法が推奨されます。
手術療法の種類としては、主に以下のようなものがあります。
髄内釘固定法
大腿骨の骨髄の中に棒状の金属を挿入し、釘を打ち込んで固定する方法。
大腿骨骨幹部骨折の代表的な固定法。
プレート固定法
大腿骨の外側に板状のプレートをあてがい、釘を打ち込んで固定する方法。
骨髄の中に金属棒を挿入できない場合などに適応。
さらに、大腿骨骨幹部の骨折では
開放骨折(骨折部が皮膚を突き破るなどして外界と交通した病態)
となる場合があります。
そのような場合には、以下のような手術療法が施されます。
創外固定法
大腿骨の近位と遠位にピンを打ち込み、外部の金属の支柱などと接続し固定する方法。
皮膚や筋肉など軟部組織の状態改善までの一時的な措置として適応される。
軟部組織の状態が改善しない場合、リング型創外固定により最終固定が行われることもある。
大腿骨骨幹部骨折の治療期間
これら治療の期間はケガの態様により大きく異なります。
また、リハビリは長期間にわたって継続して行う必要があり、完治までには長い期間が必要となります。
聖マリア病院整形外科のレポートによれば、受傷から経過観察終了までの平均期間は、
1年7か月
と報告されています。
症例は1988年から1993年までに当院にて治療を行った大腿骨骨幹部骨折(中略)172例176肢である。
性別は男性124例女性48例であり、受傷時年齢は16歳から86歳平均37歳であった。
経過観察期間は1年から4年2ケ月平均1年7ケ月であった。引用元:『整形外科と災害外科 大腿骨骨幹部骨折の治療成績の検討』聖マリア病院整形外科
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai1951/44/4/44_4_1337/_pdf
いずれにしても、通院は年単位で継続されると見込むべきと言えるでしょう。
太もも部の大腿骨骨折の後遺症|粉砕骨折、開放骨折なら後遺症が残る?
大腿骨骨幹部骨折は、血の巡りがよいため骨癒合も早く進み、予後は比較的良好であるといわれています。
ただ、たとえば開放骨折のとき足切断について検討されることがあります。
切断考慮の要素
- 損傷が重大
- 長期治療期間を要する
- 患者のコンプライアンスが悪い
など
さらに、
- 下肢の短縮(骨折したほうの足が短くなる)
- 関節の可動域制限
などが生じるケースもあります。
大腿骨骨折の後遺症は後遺障害の何級にあたる?
交通事故によって
- 人工骨頭への置換
- 関節の可動域制限
- 足切断
など、これまで紹介したような後遺症を負ってしまったときには、
後遺障害の認定
を受けることが重要です。
後遺障害の認定をうけられるかどうかは、補償の金額という面で非常に大きな意味を持ちます。
大腿骨骨折の後遺障害について知りたい方はコチラ記事をご覧ください。
大腿骨骨折の後遺症は弁護士に相談
- 「交通事故で大腿骨を骨折してしまった!」
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そのようなときには、弁護士に相談することも検討してみてください。
大腿骨骨折の慰謝料、示談金の相場とは?|慰謝料計算機
人身交通事故において通常、相手方の任意保険会社は
過去蓄積されてきた裁判例に基づく基準よりも、さらに低額な基準
に基づいて示談を締結しようとしてきます。
弁護士にご依頼していただくことにより、低い金額による示談締結を回避し、適正な額で示談を締結できる可能性があがります。
まずは下の慰謝料計算機から、あなたが本来もらうべき賠償額を計算してみてください。
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(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。弁護士プロフィール
岡野武志弁護士