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作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
脛骨はそれを覆う皮膚が薄いこと、血流が少ないことから、骨折すると皮膚に傷痕が残ったり骨がうまく癒合しなかったりする可能性があります。
また、脛骨付近には足首や足指関節の動きを支配する神経も通っています。
こうしたことから、もし後遺症(後遺障害)が残ったらと不安な方も多いでしょう。
脛骨骨折によりどのような後遺症が残るのか、それにより受け取れる慰謝料はいくらなのか、弁護士が解説いたします。
目次
奈良県立医科大学付属病院アトム法律事務所顧問医
藤井 宏真医師
脛骨とは、ひざ下に伸びる骨です。
この部分を触ると骨が2本あることが分かると思います。
そのうちの太い方が脛骨であり、ここが折れることを脛骨骨折といいます。
脛骨骨折には、以下のような症状があります。
脛骨があるひざ下は、皮膚が薄くなっています。
そのため、脛骨を骨折した際には骨が皮膚を突き破る開放骨折となっていることが多いです。
開放骨折の場合、傷口に炎症が起こり、感染症を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。
脛骨骨折など骨折の場合は、整形外科を受診するようにしましょう。
レントゲン写真やCT画像などから骨折の程度を確認し、治療方針が決められます。
脛骨骨折では、骨のずれが小さい場合はギプスなどで骨折部分を固定して骨癒合を待ちます。
骨のずれが大きい場合には、骨折部のずれを治してプレートやスクリューなどで固定する骨折観血的手術が行われます。
また、開放骨折などでプレートやスクリューを使用できない場合には、骨折部にネジを挿入して骨折部のずれを治した後、外部から骨折部分を固定して骨癒合を待ちます。
骨は、血流が多いほど癒合しやすくなっています。
脛骨の場合、下1/3は血流が少ないため、なかなか癒合しなかったり、うまく癒合しなかったりする可能性があります。
その場合には、手術を複数回行うことも考えられます。
骨折観血的手術の費用は、使用するプレートやスクリューの種類などによっても異なります。
また、適用される保険などによって負担割合も変わりますが、入院40日程度と仮定した場合の骨折観血的手術の費用の概算は以下のようになります。
1割負担の場合 | 3割負担の場合 |
---|---|
6万円~12万円 | 40~50万円 |
参考:https://www.dou-kouseiren.com/byouin/kutchan/inpatient/vt1bv7000000eti0-att/vt1bv7000000etm3.pdf
十分な治療を行っても、これ以上良くも悪くもならないという状態で残存する症状
交通事故の場合、その部位と程度により14段階の後遺障害等級で区分される
脛骨骨折を負うような怪我により、生じることのある後遺障害には以下のようなものがあります。
それぞれがどのような症状であり、等級が何級になるかは次の章で詳しく説明します。
上述した後遺障害等級に認定されると、相手方から支払われる金銭が増えます。
後遺障害が残った場合に追加で支払われる金銭の一つが、後遺障害慰謝料です。
後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償
また、後遺障害慰謝料の他に支払われるものとして逸失利益があります。
後遺障害が残ったことで労働能力が失われ収入が減ることへの補償
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数
なお、「労働能力喪失率」は障害の部位や程度、被害者の職業などを考慮して増減することがあります。
主婦などの場合の年収算定方法や、ライプニッツ係数一覧などはこちらの記事をご覧ください。
注意点として、示談交渉で交通事故の加害者側から提示される後遺傷害慰謝料や逸失利益は妥当な金額よりも低額であるということがあります。
後遺障害に対する補償金額をいくらにするべきかについて争いになったときは、弁護士に相談することで十分な補償を受けられるようにしましょう。
では、実際に脛骨骨折で後遺障害等級の申請をして、後遺障害慰謝料を受け取るまでの流れを見てみましょう。
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった状態を症状固定と言います。
後遺障害等級認定を受ける場合は、原則事故から約6カ月以上経っている必要があります。
これ以上治療期間が短い場合は、後遺障害としては認められない可能性が高くなります。
症状固定の診断を受けたならば、後遺障害等級認定に向けて後遺障害診断書などの資料を準備します。
後遺障害等級認定の審査は、基本的に申請者から提出された資料のみを見て行われます。
そのため、後遺障害の有無や程度を後遺障害診断書やMRI画像などで証明できるよう工夫する必要があります。
後遺障害の申請には、2種類の方法があります。
被害者請求は手間がかかりますが、後遺障害等級の認定に有利な資料を自分で精査できるのが強みです。なお、弁護士に資料収集作業を任せることもできます。
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
請求者 | 相手方保険会社 | 被害者自身 |
メリット | 資料収集の手間がない | 自分で資料を確認できる |
デメリット | 自分で資料を確認できない | 資料収集の手間がかかる |
提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の審査を行います。
結果は30日以内に出ることが多いですが、判断が難しい・経過を見る必要があると判断された場合には、数ヶ月~数年かかることもあります。
こうした審査が長期化するケースは、高次脳機能障害などに多いです。
より細かな認定手順、後遺障害診断書の書き方などについては以下の記事を参照してください。
後遺障害等級の申請について
脛骨を骨折してしまった場合、偽関節という後遺障害が残る可能性があります。
骨折部分の血行不良や栄養障害、癒合部分のずれによって骨癒合がうまくいかず、関節とは別の部分が関節のように動くようになること。脛骨の場合は下1/3での骨折で発生しやすい。
脛骨骨折によって偽関節が生じた場合の後遺障害等級は、以下のようになります。
脛骨骨折による偽関節
等級 | 内容 |
---|---|
7級10号 | 脛骨または脛骨と腓骨両方の骨幹部等に偽関節を残し、常に硬性補装具を必要とするもの |
8級9号 | 脛骨または脛骨と腓骨両方の骨幹部等に偽関節を残すが、常には硬性補装具を必要としないもの |
偽関節には痛みを伴うものもあり、そうした場合には手術が行われることもあります。
慰謝料の金額基準は、加害者側が提示してくるもの(自賠責基準・任意保険基準)と、被害者に依頼された弁護士が交渉することで請求できるもの(弁護士基準)で大きく異なります。
脛骨骨折による偽関節に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
脛骨骨折による偽関節
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
7級10号 | 409万円 | 1000万円 |
8級9号 | 324万円 | 830万円 |
等級にもよりますが、弁護士に依頼することで2倍以上の後遺障害慰謝料を請求できます。
慰謝料の増額を目指すのであれば、できるだけ早い段階から弁護士と相談しておくことが重要です。
脛骨骨折で骨癒合がうまくいかなかった場合、偽関節の他脛骨の変形が生じることもあります。
その場合の後遺障害等級は、以下のようになります。
脛骨骨折による脛骨の変形
等級 | 症状 |
---|---|
12級8号 | ▼脛骨が15度以上屈曲して変形癒合したもの ▼腓骨のみの変形でその程度が著しい場合 ▼脛骨(骨端部を除く)の直径が3分の2以下に減少したもの |
ここでいう変形とは、目で確認したときにもわかる程度の変形を指します。
レントゲン写真などで確認して初めてわかるような変形については、これに該当しないため注意が必要です。
脛骨骨折による脛骨の変形に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
脛骨骨折による脛骨の変形
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級8号 | 93万円 | 290万円 |
脛骨骨折で骨癒合がうまくいかなかった場合、ひざ下の長さが短くなる可能性もあります。
その場合の後遺障害等級は、以下のようになります。
脛骨骨折による足の短縮
等級 | 症状 |
---|---|
8級5号 | 5cm以上の短縮 |
10級8号 | 3cm以上5cm未満の短縮 |
13級8号 | 1cm以上3cm未満の短縮 |
子供の骨折では、足の短縮とは逆に、骨折した足が長く成長しすぎる「過成長」が見られる場合があります。
これは成長とともにみられるものですので、子供の場合は骨折が治った後も経過観察を続けていく必要があります。
脛骨骨折による足の短縮に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
脛骨骨折による足の短縮
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級5号 | 324万円 | 830万円 |
10級8号 | 187万円 | 550万円 |
13級8号 | 57万円 | 180万円 |
ひざ下には、腓骨神経が通っています。
この神経はひざ下の感覚だけではなく、足首や足の指を上に向けたり足首を外に向けたりするための筋肉も支配しています。
そのため、脛骨骨折で腓骨神経が損傷すると、足首や足の指関節を上手く動かせなくなる場合があります。
そうした場合の後遺障害等級は以下の通りです。
足関節・足首関節の機能障害
等級 | 症状 |
---|---|
8級 | 足関節が全く可動しないか、可動域が10%以下に制限される |
9級 | 1足の足指の全部の用を廃した |
10級 | 足関節の可動域が1/2以下に制限される |
11級 | 1足の親指を含む2以上の足指の用を廃した |
12級 | ▼足関節の可動域が3/4以下に制限される ▼1足の親指または他の4つの足指の用を廃した |
13級 | ▼1足の人差し指の用を廃した ▼1足の人差し指を含む2つの足指の用を廃した ▼1足の中指以下の3つの足指の用を廃した |
14級 | 1足の中指以下の1つまたは2つの足指の用を廃した |
足関節・足首関節の可動域制限に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
足関節・足首関節の機能障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級 | 324万円 | 830万円 |
9級 | 245万円 | 690万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
11級 | 135万円 | 420万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
ひざ下の脛骨を覆う皮膚はあまり厚くはありません。
そのため、骨折に伴い傷口が開く開放骨折になる可能性が高いです。
そして開放骨折では、骨折が治った後も傷痕が残ることがあります。
こうした脛骨骨折による醜状障害の後遺障害等級は、以下のようになります。
脛骨骨折による醜状障害
等級 | 症状 |
---|---|
14級5号 | 下肢の露出面(股関節以下から足の甲まで)に手のひら大の醜いあとを残すもの |
脛骨骨折による醜状障害に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
痛み・しびれの後遺障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
14級5号 | 32万円 | 110万円 |
脛骨骨折では、骨折自体が治っても痛みやしびれが残る場合があります。
こうした痛みやしびれは、神経の損傷が原因であることから「神経障害」と呼ばれます。
脛骨骨折による神経症状の後遺障害等級は、以下のようになります。
脛骨骨折による痛み・しびれ
等級 | 症状 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
ここでの等級は「頑固な」という言葉で分けられています。
具体的には、
という点で区別されます。
痛みやしびれ症状が医学的に証明可能な場合は12級13号、医学的な証明はやや不十分である者の症状があると推定できる場合は14級9号に該当します。
ですので、おおよそ半年以上通院して症状の経過を明らかにし、適宜検査を受けることが重要です。
脛骨骨折による痛み・しびれの症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
痛み・しびれの後遺障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
脛骨骨折は皮膚を破る開放骨折になりやすく、その場合感染症や醜状障害の危険性がある、特に下部の骨折では骨が癒合しにくいなど、注意点の多い骨折です。
そのため、治療が長引いたり後遺症が残ったりする可能性もありますが、相手方保険会社から提示される慰謝料・逸失利益は被害者の受けた損害に対して不十分なことがあります。
損害に対する十分な補償を受け取るためには、弁護士に依頼することが一番です。
保険会社との示談交渉などを一任することで慰謝料増額が叶うだけではなく、手続きの煩雑さなどから解放されます。
骨折による慰謝料はいくらになるのか、通院に関する注意、後遺障害等級の申請方法など、どのようなことでも結構です。
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岡野武志弁護士