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作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
大腿骨は体の中で最も大きい骨で、股関節から膝関節までをつなぐ役割を持ちます。
歩行にも大きく影響してくる部位ですので、もし後遺症(後遺障害)が残ったらと不安な方も多いでしょう。
大腿骨骨折によりどのような後遺症が残るのか、それにより受け取れる慰謝料はいくらなのか、弁護士が解説いたします。
目次
奈良県立医科大学付属病院アトム法律事務所顧問医
藤井 宏真医師
大腿骨はその部位ごとに名前がついていて、どこが折れるかによって後遺症も変わってきます。
骨が壊死する可能性もあるため、速やかに治療を開始することが大切です。
大腿骨はその部位ごとに名前がついており、上部は骨頭、頸部、転子下に分けられます。
転子下から下のまっすぐな部分は、骨幹部と言われます。
同じ大腿骨骨折でも、そのどこが骨折するかによって症状は異なります。
骨折部位 | 症状 |
---|---|
頸部 | ・足の付け根の痛みと腫れ ・歩行困難 ・股関節を動かせない |
転子下 | ・骨折部分の痛みと腫れ ・歩行困難 ・足を動かせない |
骨幹部 | ・骨折部分の痛みと腫れ ・歩行困難 ・足の異常な可動域 |
この他、症状として貧血が見られる場合もあります。
大腿骨骨折が疑われる場合には、レントゲン写真を撮って骨折の有無・骨のずれ具合を確認します。
レントゲン写真では詳しくわからないという場合には、CT検査を受けることになります。
大腿骨骨折などの骨折の場合は、整形外科を受診するようにしましょう。
大腿骨骨折というと歩けない状態なのでは、と思われがちですが、骨折していても「痛いけれど歩ける」という場合もあります。
骨折は24時間以内に治療を始めれば治りが早くなるという研究もありますし、治療が遅れるとそれだけ状態も悪化します。
少しでも疑わしいと思ったら、病院で診察を受けることをお勧めします。
頸部骨折の場合は、人工骨頭置換術という手術が行われ、骨頭を切除して人工骨頭が取り付けられます。
ただし、若年者では、スクリューなどで骨接合術を選択されることもあります。
頸部が骨折すると、その部分の血流が悪くなり、壊死する可能性があるからです。
転子下骨折の場合は、スクリュー・プレート・髄内釘などを埋め込む手術を行います。
これにより骨折部分がしっかりと固定され、骨が癒合します。
骨幹部の場合は、外部から(ギプスや創外固定)でもしっかりと固定しやすくなっています。
そのため、年齢や骨折の程度から、手術は行わず外から骨折部を固定して骨の癒合を待つのか、スクリュー等を埋め込む手術をして骨の癒合を待つのかが検討されます。
人工骨頭置換術の場合、手術自体の費用は37万6900円です。
ただ、手術前の検査費用、人工骨頭費用、入院にかかる諸々の費用等を合わせると、180万~250万円程度かかると思われます。
ただし、保険や高額療養費制度を利用することで、実際の負担は減らすことができます。
十分な治療を行っても、これ以上良くも悪くもならないという状態で残存する症状
交通事故の場合、その部位と程度により14段階の後遺障害等級で区分される
大腿骨骨折を負うような怪我により、生じることのある後遺障害には以下のようなものがあります。
それぞれがどのような症状であり、等級が何級になるかは次の章で詳しく説明します。
上述した後遺障害等級に認定されると、相手方から支払われる金銭が増えます。
後遺障害が残った場合に追加で支払われる金銭の一つが、後遺障害慰謝料です。
後遺障害を負ってしまったという精神的苦痛に対して支払われる損害賠償
また、後遺障害慰謝料の他に支払われるものとして逸失利益があります。
後遺障害が残ったことで労働能力が失われ収入が減ることへの補償
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間(67歳-症状固定時の年齢)に対応するライプニッツ係数
なお、「労働能力喪失率」は障害の部位や程度、被害者の職業などを考慮して増減することがあります。
主婦などの場合の年収算定方法や、ライプニッツ係数一覧などはこちらの記事をご覧ください。
注意点として、示談交渉で加害者側から提示される後遺傷害慰謝料や逸失利益は妥当な金額よりも低額であるということがあります。
後遺障害に対する補償金額をいくらにするべきかについて争いになったときは、弁護士に相談することで十分な補償を受けられるようにしましょう。
では、実際に大腿骨骨折で後遺障害等級の申請をして、後遺障害慰謝料を受け取るまでの流れを見てみましょう。
治療を継続しても症状の改善が見込めなくなった状態を症状固定と言います。
後遺障害等級認定を受ける場合は、原則事故から約6カ月以上経っている必要があります。
これ以上治療期間が短い場合は、後遺障害としては認められない可能性が高くなります。
症状固定の診断を受けたならば、後遺障害等級認定に向けて後遺障害診断書などの資料を準備します。
後遺障害の申請には、2種類の方法があります。
被害者請求は手間がかかりますが、後遺障害等級の認定に有利な資料を自分で精査できるのが強みです。なお、弁護士に資料収集作業を任せることもできます。
事前認定と被害者請求
事前認定 | 被害者請求 | |
---|---|---|
請求者 | 相手方保険会社 | 被害者自身 |
メリット | 資料収集の手間がない | 自分で資料を確認できる |
デメリット | 自分で資料を確認できない | 資料収集の手間がかかる |
提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の審査を行います。
審査の際は基本的に、申請者が提出した資料のみが見られるため、資料選びやその内容が重要です。
審査結果をふまえ、自賠責保険会社が等級認定を行います。
より細かな認定手順、後遺障害診断書の書き方などについては以下の記事を参照してください。
後遺障害等級の申請について
大腿骨骨折によって人工骨頭置換術を受けた場合には、以下のような後遺障害等級が該当します。
大腿骨骨折による人工骨頭への置換
等級 | 症状 |
---|---|
8級7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの (人工骨頭に置換後、健常側の足と比較して関節の可動域が50%以下になったもの) |
10級11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの (人工骨頭に置換したもの) |
大腿骨骨折による人工骨頭に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
大腿骨骨折による人工骨頭
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級7号 | 324万円 | 830万円 |
10級11号 | 187万円 | 550万円 |
大腿骨骨折によって、股関節・膝に可動域制限が生じることがあります。
そうした大腿骨骨折による可動域制限に対応する後遺障害等級は、以下のようになります。
大腿骨骨折による関節可動域制限
等級 | 症状 |
---|---|
6級7号 | 膝と股関節について、健常側の足と比較してそれぞれ関節の可動域が10%以下になったもの |
8級7号 | 膝または股関節について、健常側の足と比較して関節の可動域が10%以下になったもの |
10級11号 | 膝または股関節について、健常側の足と比較して関節の可動域が50%以下になったもの |
12級7号 | 膝または股関節について、健常側の足と比較して関節の可動域が75%以下になったもの |
可動域制限とは、対象の関節を動かせる範囲に制限が出てしまうことです。
股関節の場合は、
という点から判断します。
膝の場合は、
という点から判断します。
なお、この可動域は、本人が自力でどれだけ動かせるかということではなく、医師などが手で動かしてどこまで動くかという点で判断します。
大腿骨骨折による可動域制限に対する後遺障害慰謝料は、以下のようになります。
大腿骨骨折による可動域制限
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
6級7号 | 498万円 | 1180万円 |
8級7号 | 324万円 | 830万円 |
10級11号 | 187万円 | 550万円 |
12級7号 | 93万円 | 290万円 |
大腿骨骨折では、骨が癒合しても完全に元の通りとはいかず、足の長さが短くなったり大腿骨に変形が見られたりすることがあります。
こうした場合の後遺障害等級は、以下のようになります。
大腿骨骨折による下肢短縮や大腿骨の変形
等級 | 症状 |
---|---|
8級5号 | 一下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
10級8号 | 一下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
13級8号 | 一下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
大腿骨骨折による下肢短縮や大腿骨の変形に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
大腿骨骨折による下肢短縮や大腿骨の変形
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
8級5号 | 324万円 | 830万円 |
10級8号 | 187万円 | 550万円 |
12級8号 | 93万円 | 290万円 |
13級8号 | 57万円 | 180万円 |
大腿骨骨折が治ってもその部分に痛みやしびれが残ることがあります。
その場合に認定される後遺障害等級は以下の通りです。
大腿骨骨折による痛み・しびれ
等級 | 症状 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
ここでの等級は「頑固な」という言葉で分けられています。
とはいっても障害の程度のみではなく、
が大きな判断要素となります。
痛みやしびれ症状が医学的に証明可能な場合は12級13号、一応の説明や推定が可能な場合は14級9号に該当します。
ですので、おおよそ半年以上通院して症状の経過を明らかにし、適宜検査を受けることが重要です。
痛み・しびれの症状に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
痛み・しびれの後遺障害
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
大腿骨骨折では、見た目に傷跡が残ることもあります。
実は、こうした骨折による傷痕も後遺障害として定められているのです。
大腿骨骨折による傷痕に対する後遺障害等級は以下のようになります。
大腿骨骨折による傷痕
等級 | 症状 |
---|---|
14級5号 | 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
下肢の露出面とは太腿から足の甲までを指します。
てのひら大とは、被害者の手のひらで指を除いた部分で計測します。
また、複数の傷痕がある場合はその面積の合計値を考慮します。
結果、てのひらの3倍程度以上の面積を超える場合は、特に著しい症状として後遺障害等級12級相当と認定される場合もあります。
大腿骨骨折による傷痕に対する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
大腿骨骨折による傷痕
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
14級5号 | 32万円 | 110万円 |
大腿骨骨折では、ごくまれに足を切断することになる場合があります。
その場合に認定される後遺障害等級は以下のようになります。
大腿骨骨折による足切断
等級 | 内容 |
---|---|
4級5号 | 一下肢をひざ関節以上で失つたもの |
慰謝料の金額の算定方法は、相手方が提示してくるもの(自賠責基準・任意保険基準)と、弁護士が交渉することで請求できるもの(弁護士基準)で大きく異なります。
大腿骨骨折による足骨折に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。
大腿骨骨折による足切断
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
4級5号 | 712万円 | 1670万円 |
等級にもよりますが、弁護士に依頼することで2倍以上の後遺障害慰謝料を請求できます。
慰謝料の増額を目指すのであれば、できるだけ早い段階から弁護士と相談しておくことが重要です。
大腿骨を骨折すると、しばらくは不自由な生活を余儀なくされますし、場合によっては足の切断も考えらえます。
にも関わらず、相手方保険会社から提示される慰謝料・逸失利益は被害者の受けた損害に対して不十分なことがあります。
損害に対する十分な補償を受け取るためには、弁護士に依頼することが一番です。
保険会社との示談交渉などを一任することで慰謝料増額が叶うだけではなく、手続きの煩雑さなどから解放されます。
骨折による慰謝料はいくらになるのか、通院に関する注意、後遺障害等級の申請方法など、どのようなことでも結構です。
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(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。
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岡野武志弁護士