作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
腓骨神経麻痺|後遺症の慰謝料、等級は?痛みが治らない…治療法はリハビリ以外にも?
- 腓骨神経麻痺の後遺症で、うまく歩けない
- すねの外側に痛み、しびれがある・・・
交通事故によって、ひざ、すね付近に強い衝撃を受けると、腓骨神経麻痺の後遺症をわずらうことがあります。
しかし、腓骨神経麻痺の診断名が出されず、悶々とお悩みの方もおられるかもしれません。
- 腓骨神経麻痺の後遺症とは?
- 腓骨神経麻痺の慰謝料は?
- 後遺障害の等級は何級?
今回は、「腓骨神経麻痺の後遺症」について弁護士が解説します。
目次
腓骨神経麻痺の後遺症|症状、治療法は?
腓骨神経麻痺とは?
腓骨神経麻痺(ひこつしんけいまひ)とは、足の運動や感覚をつかさどる腓骨神経に障害が生じる障害です。
腓骨神経は、足の外側にある神経で、足首や足指を持ち上げる運動や、すねの外側から足の甲にかけて皮膚の感覚を支配をつかさどっています。
腓骨神経麻痺の症状|足首が垂れ下がる?すね・指の付け根がしびれる?
腓骨神経麻痺の症状には、次のようなものがあります。
症状
運動障害
- 下垂足(かすいそく)
- つま先が上がらない
感覚障害
- すねの外側から足の甲にかけて、しびれる
- 足の親指と人差し指の間、付け根が痺れる
下垂足~運動機能障害について~
腓骨神経麻痺に特徴的な症状のひとつに下垂足(かすいそく)が挙げられます。下垂足とは、足首が曲がらない症状のことです。
人は歩行するとき、無意識のうちに①足をあげ、同時に②足首を曲げる運動をします。しかし、腓骨神経麻痺になると②の足首を曲げる運動ができないため、足首が垂れ下がるようになるのです。
また、足を引きずる状態で歩行することになるため、転倒するリスクが高くなります。
下垂足が明らかでない場合でも…
- 障子の敷居で足をひっかける
- サンダルが脱げやすい
- 靴・靴下がうまく履けない
- 車のアクセル・ブレーキが踏めない
といった症状が見られるときは、腓骨神経麻痺の疑いがあります。
鶏歩(けいほ)
足を高く持ち上げ、つま先から投げ出すような歩行(=鶏歩・けいほ)になるのも下垂足の特徴です。歩行効率が低下し、つかれやすくなります。
痛み・しびれ~感覚障害について~
腓骨頭において神経が障害をうけた場合、下肢の外側から足の甲、足の指にかけて、しびれ・痛み・じんじんするような感覚があらわれます。感覚障害は、足の甲からはじまり、徐々に上へあがってきます。長時間麻痺が持続すれば、足の親指と人差し指の付け根(ちょうどハート型のような部分)で感覚なくなる部分が形成されます。
腓骨神経麻痺の原因|打撲、骨折、圧迫?
腓骨神経麻痺の原因は、打撲、骨折、長時間の圧迫などにより神経が傷つき、正常な情報の伝達が阻害されることです。
腓骨神経麻痺の原因
- 打撲
- 長時間の圧迫
- 足を組む姿勢
- 草むしりのような膝を曲げた姿勢
- かたい床の上で横向きになること
- 切り傷
- 骨折
※交通事故以外では、糖尿病も原因といわれる。
腓骨神経麻痺の診断|筋力テスト…MRI画像で裏付け診断?
視診では、筋肉の萎縮、筋肉の痙攣、下垂足の有無が調べられます。
筋力検査(例:徒手筋力テスト)や皮膚の感覚検査が実施されます。
徒手筋力テスト/MMT
腓骨神経麻痺の場合、下記の6段階のうち1~3の評価がされやすいといわれています。
▼ 5 | normal |
---|---|
強い抵抗下で重力に対して可動域内を完全に動かせる | |
▼ 4 | good |
かなりの抵抗下で重力に対して可動域内を完全に動かせる | |
▼ 3 | fair |
重力に対して可動域内を完全に動かせる | |
▼ 2 | poor |
重力を除くと可動域内を完全に動かせる | |
▼ 1 | trace |
筋肉の収縮のみで関節の動きはない | |
▼ 0 | zero |
筋肉の収縮なし |
感覚検査
神経支配領域をたたいて、しびれ・痛みを誘発させて(Tinelサイン/ティネルサイン)損傷部位をさぐるという検査です。腓骨神経麻痺の場合、腓骨頭部をたたくことで、神経支配領域に一致した痺れ・痛みが誘発されるかを検査します。
ヘルニアその他の疾患との区別
下肢の症状については、腰部椎間板ヘルニアなど他の疾患との鑑別が必要です。そのため、レントゲン検査、MRI検査、超音波検査などが必要に応じて行なわれます。
腓骨神経麻痺の治療|下垂足は手術?リハビリ、装具、低周波の保存療法?
腓骨神経麻痺は、治療によって回復しやすい障害といわれています。
治療期間の目安は、症状にもよりますが、一般的に約1~6ヶ月です。
保存療法
とくに短時間の神経圧迫など、神経損傷が重度でなければ、保存療法をほどこし自然治癒(=自然に治る)を待ちます。
装具によって足を固定し、ビタミン剤を服用するなどして、経過観察となります。
保存療法の種類
装具療法
- 短下肢装具(例:オルトップ)、サポーター、テーピングなど
- 下垂足を防止し、歩きにくさを改善
薬物療法
ビタミン剤(ビタミン12)投与
運動療法
筋力トレーニング、ストレッチ
物理療法
- 低周波治療
- 筋力が低下した前脛骨筋に低周波の電流を流し、筋収縮をうながす
手術
重傷の場合、保存療法によって回復しない場合は、手術が必要です。
手術の内容
- 神経への圧迫を取り除く
- 神経の縫合・剥離・移植
- 腱移行手術
障害を受けた筋肉以外の筋肉で動きを代償させる
距踵関節固定術(きょしょうかんせつこていじゅつ)
- 足首を固定するための手術
- 脛骨と距骨の関節面の軟骨下骨を露出し、骨からの出血を促し2つの骨をくっつけて金属のスクリューで固定する
下垂足が治らないときは、足首を固定するために、距踵関節固定術が行なわれます。
腓骨神経麻痺の後遺症|等級と慰謝料
後遺症の等級とは?
治療を続けても治らない、つまり後遺症が残った場合、後遺障害等級申請の手続きを申請して、等級認定を受けましょう。
後遺障害等級が認定されれば、後遺症に関する慰謝料、逸失利益の損害賠償請求が可能になります。
後遺障害等級
- 治療終了時に残存する後遺症の程度。
- 損害保険料率算出機構が等級を認定。
- 1~14級のうち、1級が最も重い等級となる。
腓骨神経麻痺の後遺症については、その症状に応じて(併合)7級、12級13号、14級9号が認定される可能性があります。
【下垂足】等級と慰謝料は?
下垂足は7級になる(下肢・足趾機能障害)
下垂足の後遺障害等級は、手術の有無に関係なく併合7級が認定されます。
※「併合等級」とは?
系列を異にする後遺障害が2つ以上あるときの等級
下垂足は、足首が曲げられない、足の指に力が入らないといった後遺障害です。この内実は…
- 下肢の機能障害:足関節の用廃(8級7号)
- 足指の機能障害:足趾の用廃(9級15号)
です。
これら2つの後遺障害は、併合等級のルールにより、併合7級とされるのです。
併合7級 | |
---|---|
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
9級15号 | 1足の足指の全部の用を廃したもの |
※後遺障害13級~8級の後遺障害が複数ある場合、重いほうの後遺障害等級を1つ繰り上げて、併合等級が認定される。8級7号と9級15号の場合、併合7級が認定される。
7級|後遺障害慰謝料の相場
7級の後遺障害慰謝料の相場は、1,051万円です。
7級 | 1,051万円 |
---|
7級|後遺障害等級の獲得にむけて…
後遺障害等級7級については、以下の検査結果を後遺障害診断書に記載してもらうことによって、等級認定の可能性が高まります。
①神経伝達速度検査をうける
腓骨神経麻痺は筋電図検査、神経伝達速度検査で、脱神経所見を証明する必要があります。
速度検査では、電流によって足先にある短趾伸筋を収縮させ、そのときの刺激が伝わるスピードを調べることで、麻痺のレベルを測ります。麻痺のレベルは、健側(=障害のない側)と患側(=障害のある側)を比較して判別されることになります。
②徒手筋力テストをうける
徒手筋力テストは、前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋・腓骨筋・長母趾屈筋・長趾屈筋の左右について受けましょう。
そして、その検査結果の数値をカルテに記載することをお願いしましょう。
③底背屈(ていはいくつ)をみる
底背屈とは、足関節の曲げ伸ばしのことです。背屈とは足の甲側に足首を曲げること、底屈とは足首を伸ばすことです。
底背屈について、腓骨神経麻痺の場合、他動値(=医師が手を添えて計測する値)は、正常に動きます。しかし、自動値(=自分で動かしたときの値)ではまったく動きません。
後遺障害認定は、通常、他動値を基準に行なわれるので、申請の際に工夫が必要です。
具体的には、後遺障害診断書に
「本件では、底背屈について他動値では正常を示すことから、神経麻痺のため自動値で計測を行った」
などの記載をしてもらう必要があるでしょう。
【痛み・しびれ】等級と慰謝料は?
痛み・しびれは12級または14級になる(局部の神経障害)
痛みやしびれの症状が残った場合には、「局部に神経症状を残すもの」として、12級13号または14級9号に該当する可能性があります。
等級 | 内容 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの (例)画像所見がある場合 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの (例)合理的な説明ができる場合 |
12級・14級|後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料の相場は、それぞれ次のとおりです。
12級 | 290万 |
---|---|
14級 | 110万 |
12級・14級|後遺障害等級の獲得にむけて・・・
12級と14級それぞれについて、等級認定のポイントは次のとおりです。
12級認定獲得のポイント
12級13号は、画像所見があり、局部の神経症状を医学的に証明できる場合に認定されます。
たとえば、腓骨骨折が原因と思われる腓骨神経麻痺の場合は、腓骨骨折のレントゲン写真があれば、12級が認定される可能性が非常に高くなります。
14級認定獲得のポイント
14級9号は、画像所見はなくとも、局部の神経症状を合理的に説明できる場合に認定されます。
たとえば、
- 交通事故の規模が一定以上であること
- 受傷直後から症状の一貫性があること
- 通院期間が長期、かつ通院頻度が高い
などを説明できれば、14級認定の可能性が高まるでしょう。
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【弁護士から一言】等級獲得のアドバイス
医師によっては、腓骨神経麻痺について、正座をしたときの足のしびれのように簡単に治るものだと誤解されていることも少なくありません。
たしかに、腓骨神経麻痺は、適切な治療がなされれば完治する可能性は十分あります。しかし、早期に適切な治療、リハビリ、マッサージなどが施されなければ、筋肉の拘縮・萎縮により症状が悪化してしまいます。
腓骨神経麻痺が疑われる場合は、受傷後なるべく早く整形外科を受診し、適切な検査・治療をうけるようにしましょう。
その際、受傷直後の検査記録をきちんと残すことが、後遺障害等級の獲得、ひいては示談金の増額の可能性を広げます。
戦略的に等級を獲得するためには、後遺障害の被害者請求について流れをしっかり押さえることも大切です。
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(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。弁護士プロフィール
岡野武志弁護士
腓骨神経麻痺の後遺症についてのQ&A
腓骨神経麻痺とは?
腓骨神経麻痺(ひこつしんけいまひ)とは、腓骨神経が麻痺することによって足の運動や感覚をつかさどる腓骨神経に障害が生じることをいいます。下肢の外側から足の甲、足の指にかけて生じるしびれ・痛み・じんじんするような感覚が症状としてあげられます。 腓骨神経麻痺の症状をもっとくわしく
腓骨神経麻痺の治療について
腓骨神経麻痺はの治療方法には①保存療法②手術があります。症状の程度が重くなければ保存療法がおこなわれます。具体的にはサポーターやテーピングなどを用いた装具療法、ビタミン剤投与による薬物療法、ストレッチなどの運動療法、低周波治療などの物理療法がおこなわれます。重傷の場合や保存療法によって回復しない場合は手術が必要となります。 腓骨神経麻痺の治療法
腓骨神経麻痺が後遺症になったらどうする?
治療を続けても治らずに後遺症となってしまった場合、後遺障害等級申請の手続きを申請して、等級認定を受けましょう。腓骨神経麻痺の場合、7級・12級13号・14級9号の等級が認定される可能性があります。後遺障害等級が認定されたら、認定等級に応じた慰謝料が支払われます。 腓骨神経麻痺は後遺障害の何級になる?