作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
高齢者が交通事故にあったらどうなる?実際の事例でわかる保険金・慰謝料
高齢者が加害者となる交通事故が話題となる一方で、高齢者が被害者となる交通事故の割合も増えています。
ご高齢のご家族が事故にあったらどうなるのか、と不安な方もいらっしゃるでしょう。
例えば、高齢者の方が交通事故の被害者となった場合、慰謝料や保険金が減る場合があるということはご存知でしょうか。
- 交通事故で高齢者が被害者になる割合はどのくらい?
- 高齢者が被害者の場合慰謝料が減るって本当?
- 高齢者が被害者となった実際の事例が知りたい
ご高齢の方が負った怪我は重傷化しやすく、取返しのつかない事態にもなりかねません。
高齢者の交通事故についてよく知り、同時に交通事故に遭わないよう気を付けてお過ごしください。
目次
高齢者の交通事故の実態
高齢者という言葉が表す定義や年齢は様々です。
ここでは、交通事故に関する統計を発表している警察庁にならい、65歳以上を高齢者とします。
交通事故で高齢者が「負傷者」となる割合は?
平成29年度の交通事故の負傷者と、その内に占める高齢者の人数は以下のようになっています。
平成29年度版
交通事故の負傷者数
65歳未満 | 65歳以上 | |
---|---|---|
人数 | 489915人 | 90932人 |
割合 | 84.3% | 15.7% |
*出典「平成29年中の交通事故の発生状況」https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/H29zennjiko.pdf
全人口における高齢者の割合は27.7%(平成29年度)ですので、高齢者が交通事故の被害者となる確率はそう高くもないようにも思えます。
交通事故で高齢者が「死者」となる割合は?
一方で、交通事故による死者のデータを見てみましょう。
平成29年度版
交通事故の死者数
65歳未満 | 65歳以上 | |
---|---|---|
全体数 | 1674人 | 2020人 |
割合 | 45.3% | 54.7% |
致死率* | 0.34% | 2.17% |
*死者数÷死傷者数×100
出典「平成30年度交通安全白書」https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h30kou_haku/pdf/zenbun/1-1-1.pdf
交通事故による死者のおよそ半分以上が高齢者であり、この割合は年々増加しています。
さらに致死率を見ると、他の年代と比べ7倍近く死亡しやすいことがわかります。
理由としては、以下のようなものが考えられます。
- 身体能力が低下し、反射的な行動がとりにくくなる
- 判断力が低下し、交通違反を起こしてしまう
- 以前かかっていた怪我などが、事故をきっかけに再発してしまう
つまり、高齢者の交通事故は死亡事故になりやすいという特徴があることになります。
更に、高齢者の交通事故には法律的にも特徴があります。
高齢者の交通事故、通常の事故とはここが違う!
被害者が高齢者の場合、そうでない場合の事故とは法律的にも異なる点があります。
被害者に有利な点・不利な点をそれぞれ解説します。
有利な点|高齢者だと過失が減る?
交通事故では、加害者が100%悪いとは言い切れない事故が時にあります。
例えば、衝突された被害者もよそ見をしていたり、信号無視をしていたり、といった事情です。
このように被害者・加害者双方に事故の原因があり、それぞれが事故に対し責任を負う割合を過失割合と言います。
過失割合
加害者・被害者双方がどれくらい交通事故の損害に寄与したかの割合
例えば過失割合が「加害者:被害者=9:1」だと、被害者にも損害の責任が1割だけあることになります。
その場合、1割は自分のせいなのですから、損害の9割ぶんの補償しか受け取れなくなるのです。
交通事故における過失割合の決まり方などについては、以下の記事をご覧ください。
では、なぜ被害者が高齢者だと事故への過失割合が減少するのでしょうか。
それは、道路を歩行する者の判断能力・行動能力が低い場合は、特に歩行者を保護する必要があるためです。
基本的に、被害者が高齢者であると5%または10%過失割合が減少します。
なお、高齢者が自転車や自動車に乗っていた場合には過失割合は減少しません。
何故なら、それら自体が危険性のある交通手段であるからです。
そのような手段を自分で選んだ以上、事故への責任を減少させるのは妥当ではない、という考えです。
実際の事例で過失割合を考えてみましょう。
事例
道路の横断歩道でない部分を歩行者が横断しようとしたところ、直進してきた自動車と衝突した。
このとき、加害者(自動車):被害者(歩行者)の基本の過失割合は80:20です。
ですが歩行者が高齢者だった場合、歩行者側の過失割合が5%減少し85:15となります。
仮にもともと受け取れる損害賠償金が800万円であった場合、850万円まで増額します。
不利な点|高齢者だと慰謝料や保険金が安くなるって本当?
一方で被害者が高齢者の場合、以下のような不利益が生じることもあります。
以下の項目は、交通事故の損害賠償で支払われる金銭の一部です。
死亡慰謝料
死亡慰謝料
被害者が死亡したことに対する、本人または近親者の精神的苦痛への損害賠償
この死亡慰謝料は、被害者の家族内の地位で決定します。
通常は、相手方の自賠責保険で算定される自賠責保険の金額になりますが、弁護士に依頼することで弁護士基準の金額を受け取ることも可能です。
具体的な目安は、以下の通りです。
比較
死亡慰謝料
自賠責基準* | 弁護士基準 | |
---|---|---|
一家の支柱 | 1300万円 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 | |
独身の男女・子供 | 2000~2500万円 |
*自賠責の場合は死亡者の父母・配偶者・子供の数・被扶養者の有無で決定する。最大値で計算
一家の支柱とは、主にその者の収入により生計が維持されているような者を指します。
では実際の判例で、高齢者とそうでない者の死亡慰謝料を比較してみましょう。
事例
実際の死亡慰謝料
妻・子2人の男性 | |
---|---|
46歳男性(会社員) | 3250万円 |
81歳男性(年金生活者) | 2800万円 |
夫・子1人の主婦 | |
39歳女性(主婦) | 3000万円* |
75歳女性(主婦) | 2600万円 |
*両親固有の慰謝料が300万円加算されている
高齢者の死亡慰謝料が低くなりやすいのには理由があります。
- 退職していることが多く、「一家の支柱」として認められにくい
- 死亡慰謝料には近親者の慰謝料も含まれており、両親が他界している場合はそのぶん慰謝料が減る
もっとも、死亡慰謝料は死亡までの経緯や加害者側の態度などによっても変化します。
あくまで、高齢者の場合死亡慰謝料が低くなる可能性がある、ということに過ぎません。
確実に高額の死亡慰謝料を受け取るのならば、弁護士に依頼することが一番です。
逸失利益
死亡逸失利益
死亡することにより得られなくなった将来の収入に対する補償。
計算式:基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
後遺障害逸失利益
後遺障害が残って労働能力を喪失したことにより、得られなくなった将来の収入に対する補償。
計算式:基礎収入額×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
このどちらも、高齢者の場合は不利になることがあります。
理由は以下の通りで、計算式の結果が小さくなるように数字が変わるためです。
- 死亡逸失利益の場合
→年金部分について、生活費控除率が高くなる場合が多い - 後遺障害逸失利益の場合
→就労可能年数が短く計算される場合がある
休業損害
休業損害
事故による治療期間中、休業または十分な稼働ができなかったために受け取れなかった給与などの利益
計算式:1日あたりの基礎収入×休業日数
これは働いていない専業主婦であっても、多くは女性の平均賃金に照らして1日あたりの収入が計算されます。
ですが高齢の専業主婦の場合、基礎収入を低く算定する場合があります。
傾向として、平均賃金の約8割程度を基礎収入とすることが多いです。
素因減額
また、損害額が決定した後でも支払われる金額が減ることがあります。
もっとも、これは年齢に限らず起こることですが、高齢者に多いこととして記載します。
素因減額
被害者が元々有していた健康状態により損害を発生・拡大させた場合に,この健康状態を加害者の責任の有無・範囲を判断する際に考慮するという考え方。
例えば、年齢を重ねることで誰しも椎間板ヘルニアなどになる場合があります。
交通事故により腰痛などが発生しても、「元からあったヘルニアが悪化した」とみなされる可能性があります。
その場合、「元からあったヘルニアが原因の5割」とみなされると、賠償金も5割減少します。
以上に出てきた損害賠償の内訳についてさらに細かく知りたい方はこちらのリンクもご覧ください。
近時の事例①:被害者が高齢者である死亡事故の慰謝料額
では、実際に高齢者が被害者となった事例を見て慰謝料額などを確認しましょう。
事案
被害者H(67歳)が運転する普通乗用自動車に、加害者が運転する大型貨物自動車に追突し、被害者が死亡した事故。
高齢者の死亡事故|死亡慰謝料
死亡慰謝料 2200万円(略)
Hの生活状況,原告Aを扶養していたこと等諸般の事情を考慮し,Hの死亡慰謝料を2200万円とする。引用元:平30.4.24 東京地判(ワ)第6272号
先に述べたように「一家の支柱である場合」の死亡慰謝料2800万円と比べ、やや低く計算されていることがわかります。
高齢者の死亡事故|逸失利益
逸失利益 合計2690万9744円(略)
Hは死亡時67歳であり,平成25年簡易生命表(男)によれば,平均余命は17.53年であるから,その約2分の1に当たる9年を就労可能年数とするのが相当である。
(略)年金に関する生活費控除率は(略)60%とするのが相当である。
引用元:平30.4.24 東京地判(ワ)第6272号
注目:就労可能年数
就労可能年数は、通常67-現在の年齢で計算され、これが大きいほど逸失利益が高額になります。
ですが60歳以上の場合などは、平均余命÷2で計算される傾向があります。
被害者が40歳の場合は就労可能年数は27年ですが、被害者が64歳の今回の事故では9年として計算されているため、逸失利益が減っています。
注目:生活費控除率
生活費控除率は、得られた収入から、死亡したことにより支出せずに済んだ生活費を差し引く割合です。
これが大きいほど、最終的に得られる金額が少なくなります。
通常の生活費控除率は、以下のように算定されます。
生活費控除率 | |
---|---|
一家の支柱・被扶養者1人 | 40% |
一家の支柱・被扶養者2人以上 | 30% |
女性(主婦・独身・幼児) | 30% |
男性(独身・幼児) | 50% |
ですが、年金で得られる収入についての生活費控除率は高くされる場合が多くなっています。
今回の事件では、通常より高い60%となり、そのぶん逸失利益が減っています。
近時の事例②:被害者が高齢の主婦である傷害事故の慰謝料額
事案
自転車通行可の歩道を進行していた加害者運転の自転車が、同歩道上を横断していた被害者(原告・主婦・78歳)に衝突して被害者が受傷した事故。
高齢者の交通事故|休業損害
休業損害 177万9592円(略)
原告の年齢に照らし,平成21年賃金センサス女子70歳以上の平均賃金である年間326万800円の8割を基礎として症状固定までの原告の休業損害を算定する引用元:平成28.12.12 大阪地判(ワ)第4073号
通常、主婦の休業損害は女性の平均賃金から計算されます。
ですが今回は、被害者が高齢者であることから平均賃金の8割で計算されています。
高齢者の交通事故|逸失利益
後遺障害逸失利益 164万6825円(略)
平成22年賃金センサス女子70歳以上の平均賃金である年間289万6900円の8割を基礎として(略)逸失利益の現価を算定する引用元:平成28.12.12 大阪地判(ワ)第4073号
逸失利益も休業損害と同様に、平均賃金の8割で計算されています。
高齢者が交通事故の被害者になってしまったら…弁護士にご相談を
記事のまとめ
今回の記事をまとめると、以下のようになります。
まとめ
高齢者が交通事故の被害者になった場合…
- 過失割合が減ることがある(損害賠償額↑)
- 死亡慰謝料、休業損害、逸失利益などが減ることがある(損害賠償額↓)
- 持病などで素因減額されることがある(損害賠償額↓)
高齢者のご家族やご自身が交通事故にあわれたら弁護士に相談を
高齢者の方の交通事故は重傷化しやすく、また死亡率も高くなっています。
事故にあわれたご家族の方は、大変辛い思いをなさっているでしょう。
それを和らげる手段の一つとして、弁護士に依頼して納得のいく損害賠償額を相手方から受け取るというものがあります。
アトムの弁護士は、交通事故案件を数多くとり扱っています。
交通事故でお悩みのことがございましたら、まずはLINEや電話での相談をぜひご利用ください。
(第二東京弁護士会) 第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。
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弁護士プロフィール
岡野武志弁護士