作成:アトム弁護士法人(代表弁護士 岡野武志)
交通事故で脊髄損傷|後遺症の症状、後遺障害認定による慰謝料を解説
交通事故における「脊髄損傷による後遺症」をテーマに弁護士が解説しています。
- 交通事故で負う脊髄損傷とは
- 脊髄損傷で残る可能性のある後遺症の内容とは
- 脊髄損傷の後遺症で得られる慰謝料とは
目次
交通事故で負う「脊髄損傷」とは?症状を解説
脊髄損傷とは
脊髄損傷とは、脊髄が損傷を受けることで運動障害や感覚障害などをもたらす状態をさします。
脊髄は脳と身体の運動神経・感覚神経などを結ぶ細長い円柱状の神経組織で、背骨(脊椎)のなかにあり骨で守られています。交通事故などを原因として、脊椎が骨折・脱臼することで保護されていた脊髄が圧迫されることで発症します。
脊髄損傷の症状
脊髄は脳の下部である延髄から身体の下に向かって伸びる神経で、腕や足などさまざまな部位の神経に派生してつながっています。そのため、損傷した脊髄の箇所・程度に応じてあらわれる症状はさまざまです。
脊髄損傷の主な症状
- 手足が動かなくなる
- 手足の感覚がなくなる
- しびれ
- 呼吸運動障害
- 排尿障害/排便障害
(合併症)
- 誤嚥性肺炎
- 膀胱炎
- 床ずれ
脊髄損傷はこのような症状を引き起こすことになります。
交通事故による脊髄損傷の治療法は?
脊髄損傷は、交通事故後からしばらくのあいだ脊髄の腫れが広がっていき損傷が大きくなることがあります。
脊髄損傷の治療
- 脊椎の固定
- 脊髄の圧迫を解除する除圧術
など、損傷が拡大しないよう損傷に応じた治療がおこなわれます。
損傷が生じている場所を特定するためには、
- MRI検査
- CT検査
- レントゲン撮影
などの画像検査がおこなわれます。
脊髄損傷で後遺症が残らないことはある?
脊髄は手足の末梢神経とは違って、一度でも損傷すると自然に再生することはありません。つまり、脊髄損傷は基本的に損傷した時の症状がそのまま後遺症として残ることになります。
これ以上損傷が広がらないような治療がおこなわれることになり、損傷そのものを根本的に治す方法は現在の医学では困難です。
もっとも、昨今のiPS細胞といった再生医療研究などの医学の進歩により、脊髄損傷の再生の可能性が出てきたとのニュースも見受けられます。近い将来、脊髄損傷は完治もむずかしくない怪我となるかもしれません。
交通事故による脊髄損傷で残る後遺症とリハビリ
損傷の程度によっては、脊髄損傷によって生じた麻痺症状が一過性で済まず永続的に後遺症として残ってしまう可能性があります。
脊髄損傷で見られる代表的な後遺症の症状を見ていきたいと思います。
後遺症例①運動麻痺・感覚障害
脊髄損傷でもっとも代表的な後遺症の症状としてあげられるのが、運動麻痺や感覚障害です。
具体的には、
- 手足を動かせなくなる
- 痛みや感触など手足の感覚がなくなる
など、このような後遺症が残る可能性があります。
後遺症例②循環障害
脊髄損傷では、血液の循環障害が後遺症として残る可能性があります。心臓の動きが悪くなり、全身に血液を送る力がなくなってしまいます。
具体的には、
- 心拍数の低下
- 血圧の低下
- 除脈
など、このような後遺症が残る可能性があります。
後遺症例③呼吸障害
脊髄損傷では、呼吸障害が後遺症として残る可能性があります。呼吸筋が麻痺することで全身に十分な酸素を送ることができなくなる呼吸不全をおこすことになります。
病気の進行程度によっては、人工呼吸器がなければ呼吸することができなくなります。
後遺症例④排尿障害・排便障害
脊髄損傷では、排尿障害・排便障害が後遺症として残る可能性があります。
排尿障害とは膀胱などに支障がでることで、尿を貯められずに尿失禁したり尿がたまりすぎてしまうような状態をさします。
排便障害とは直腸・肛門の機能に支障がでることで、便を貯められずに便失禁したり便がたまりすぎてしまうような状態をさします。
後遺症例⑤自律神経障害
脊髄損傷では、自律神経障害が後遺症として残る可能性があります。
自律神経障害では、
- 急に起き上がったときなどに血圧が下がって一時的な脳貧血をおこす
- 発汗調節などに支障が出るため、体温が調節できない
などの支障をきたします。
脊髄損傷の回復に向けたリハビリ
脊髄損傷における一般的なリハビリの内容を紹介します。
リハビリの例
- ベッドのリクライニングの角度をあげて起き上がる訓練
- ベッドなどから車いすにうつる訓練
- 車いすの動作訓練
- 歩行器などを使った歩行訓練
- 日常生活に必要な動作訓練
- 排尿や排便の訓練
などこのような訓練を通して、元の日常生活がおくれるよう回復に向けたリハビリがおこなわれます。
また、リハビリの一環として心のケアも重要視されています。脊髄損傷によって後遺症が残ると、今までできていたことができなくなったという焦りや不安がともないます。リハビリそのもので受けた身体的な負担などでも辛い思いをされることが多いです。
このような精神的負担を軽減するためにカウンセリングなどがあわせておこなわれることが多いようです。
脊髄損傷の後遺症|後遺障害認定と慰謝料
脊髄損傷で請求できる損害賠償の内訳
交通事故で脊髄損傷の怪我を負ったら、さまざまな損害を被ることになります。交通事故で受けた損害は、
交通事故の相手方
あるいは
交通事故の相手方が加入していた任意保険会社
に損害賠償請求することになります。
損害賠償として請求される主な内訳をみていきたいと思います。
項目の内訳 | |
---|---|
傷 害 部 分 |
治療費 |
治療にかかった費用 | |
通院交通費 | |
通院にかかった交通費 | |
入院雑費 | |
入院にかかった雑費など | |
休業損害 | |
怪我で休業した間の収入減に対する補償 | |
入通院慰謝料 | |
入院や治療で被った精神的苦痛に対する慰謝料 | |
その他 | |
診断書作成にかかった費用など | |
後 遺 障 害 部 分 ※ |
逸失利益 |
後遺障害が残って将来的に得られなくなった収入減に対する補償 | |
後遺障害慰謝料 | |
後遺障害が残って被った精神的苦痛に対する慰謝料 |
※後遺障害の認定で請求可能になる
このような損害賠償の項目を請求することができます。
脊髄損傷の後遺症によって介護などが必要になったといった場合はほかにも、
- 将来介護費
- 将来雑費(紙おむつなど介護で必要な消耗品など)
- 装具・器具等購入費
- 家屋等改造費
など、各々の傷害や後遺障害の内容・程度に応じた項目を請求することができます。
後遺障害認定で後遺障害慰謝料などが請求可能に
交通事故によって後遺症が残っても、後遺障害等級の認定がなければ請求できない損害賠償があります。
後遺障害認定で請求可能な損害賠償
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
後遺障害等級が認定されることで、このような損害賠償を等級に応じた金額で請求することができます。
- 後遺障害等級の申請をしなかった
- 後遺障害等級の申請をしても認定にいたらなかった
このようなケースでは、後遺障害に関する損害賠償を請求することができません。
後遺障害の等級認定は、専門の認定機関が一部の症例をのぞいて書類審査のみでおこなうことになります。等級認定には、認定機関が納得する書類を集めることが大切になってきます。
後遺障害等級の申請について詳しくはこちら
脊髄損傷で予想される等級と慰謝料
脊髄損傷によって残った後遺障害は、症状の内容によって認定される等級はさまざまです。
まず、脊髄損傷における後遺障害等級認定では、麻痺の範囲と麻痺の程度によって判断されることになります。
麻痺の範囲
麻痺の程度
程度 | 内容 |
---|---|
高度 | 障害のある部位の運動性・支持性がほぼ失われ、その部位の基本動作ができない |
(具体例) ・完全硬直またはそれに近い状態 ・物を持ち上げられない ・歩けない など |
|
中等度 | 障害のある部位の運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限がある |
(具体例) ・約500gの軽量の物を持ち上げられない ・文字が書けない ・杖や歩行具なしでは階段を上れない、歩けない |
|
軽度 | 障害のある部位の運動性・持続性が多少失われ、基本動作に制限がある |
(具体例) ・文字を書くことが困難 ・独歩できるが、不安定で転倒しやすく歩行速度も遅い ・杖や歩行具なしでは階段を上れない |
(参考)厚生労働省の通達
このような麻痺の範囲と程度の基準を前提として、後遺障害の等級認定の基準があります。
症状が重いほうから1級~14級までの等級で後遺障害は区分されています。脊髄損傷で予想される等級はつぎのとおりです。
予想される後遺障害等級
- 1級1号(別表1)
- 2級1号(別表1)
- 3級3号(別表2)
- 5級2号(別表2)
- 7級4号(別表2)
- 9級10号(別表2)
- 12級13号(別表2)
脊髄損傷による後遺障害では、このような等級が認定されることが予想されます。もっとも、これはあくまで目安です。症状の内容や程度ごとに個別に等級は判断されることになります。
また慰謝料は、等級ごとにそれぞれ慰謝料が設定されています。等級ごとの慰謝料はつぎのとおりです。
弁護士基準
後遺障害等級ごとの慰謝料
等級 | 慰謝料(万円) |
---|---|
1 | 2,800 |
2 | 2,370 |
3 | 1,990 |
4 | 1,670 |
5 | 1,400 |
6 | 1,180 |
7 | 1,000 |
8 | 830 |
9 | 690 |
10 | 550 |
11 | 420 |
12 | 290 |
13 | 180 |
14 | 110 |
こちらで紹介した慰謝料の基準は、弁護士基準によるものです。慰謝料の算定に用いられる基準は3つありますが、最も高額な慰謝料を請求できるのがこの弁護士基準になります。
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岡野武志弁護士